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鯵 一尾200円 三枚おろしもできないくせに

なめろうが好きで、自分でもたまに作ります。どの魚でつくっても美味しいけれど、わたしはやはりアジのなめろうが1番好きだなぁ。

なめろうを作るときに、わたしが気をつけていることは3つあります。

1. 叩き過ぎない
2.薬味をケチらない
3.魚の鮮度こそすべて

以上の3つのうち、1、2、については、料理の際のコツなので何回かつくってみれば掴めると思います。

さて、3についてちょっと考察したい。

アジ(鯵)やイワシ(鰯)などの青魚、俗に言う光り物は足が早いといわれています。わたしたちのような一般の消費者が、新鮮なアジを食べるためには、徹底した温度管理が必要になってきます。漁業関係者や卸業者、運送、小売にいたるまで、それはもう、獲れた瞬間から徹底して冷やしてくれている。

クールに保たれた食材が、消費者の手に渡るまで、ひと繋のチェーンのように管理されているんだよ。これを「コールドチェーン」と呼び、世界的に見てもけっこうすごい仕組みなのです。低温流通体系とも呼ぶ。頭が上がらないぜ。

土曜日の午後。今宵のおつまみを「鯵のなめろう」に定め、買い物に出かけます。いつもはスーパーでパックに入ったさばいてある下処理済のアジを買うんだけど、その日は売り切れてしまっていた。

仕方がないので、隣の隣にあった魚屋さんで、アジを買い求めます。パックなどは取り扱っていないので、店頭で下処理をお願いしました。

「アジを一尾。三枚におろして、皮をとってください」

わたしより若く見えるバイトのお兄さんが、仮に後藤さんとしておくけど、テキパキと鯵をさばいて、青いビニール袋に入れて、氷もつけてくれました。こうしてコールドチェーンがわたしの台所に繋がったんだ!!!

その手際の良さにもビックリしたのだけれども、家に帰ってなめろうを作って食べた時、さらに驚きました。今まで家で作ってきた鯵のなめろうと比べ、舌触りがしっとりしていて、脂の香りもよく、独特のナマ臭い感じもなくて、本当に美味しかった。調理の手順や、味付け、薬味などはいつもと変わらなかったのに。

これはもう、完全に後藤さん(仮名)のおかげなのです。お会計はアジの代金、200円のみしか払っていないのに、ものすごい付加価値をつけてくれたのです。後藤さん!!!

* * * * *

後藤さんに憧れ、自分で三枚おろしに挑戦したこともありました。しかし、どうしてもコツが掴めず、温かい手で何度も触り、必要以上に包丁を動かして、残念な状態にしてしまうばかりでした。

わたしは今まで得意料理に「鯵のなめろう」を入れるくらいには、鯵のなめろうを作れると思っていたのに、その初期段階である「三枚おろし」が実はまったくできなかった。後藤さんがいてはじめて、俺の「鯵のなめろう」が成立するんです。

魚屋さんだけでなく、前述の通り多くの人が関わり、その不断の努力によって、鮮度の良いアジが手に入るんです。それなのに、なにを得意になって悦に入っていたんだ俺は。そんな謙虚な気持ちになりながら、日本酒と鯵のなめろうを頂きました。

わたしにできることと言ったら、残さず美味しく食べること。それは三枚おろしもできないわたしの、責務なのだ。

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