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あなたはそのままできれいな色『きみの色』

『きみの色』を観賞しました。

山田尚子監督作品を観るのはは初めて。
山田尚子さんと言えば『けいおん!』が代表作なので、「かわいい女の子を描かせたら右に出る人はいない存在」という印象を持っていました。

実際に視聴してみると、なるほど納得。
柔らかく温かみのあるアニメーションが、一人一人の細やかな動きを丁寧に描き出しているんですよ。ただ彼ら彼女らの動きを見ているだけでも、自然とキャラクターに愛着を持ってしまうので、こりゃなかなかすごいぞと。

これ、実写でもできなくはないけど難しい。全てが架空で、計算して入れられるアニメーションだからこそ踏み込める領域に近い。
終始、アニメにしかできないパワーを見せられているような感覚です。

サイエンスSARUと聞くと、現代を舞台にした作品のイメージはあまりなかったんですが、その点もなんの心配もなかったですね。

全体的に淡い色づかいで構成されているんですが、これはおそらく主人公の見る「色」を表現する時に描かれる、鮮やかな色彩との対比ではないかと。

この色がね、またこだわりを感じるんですよ。
作中の主人公らが鮮やかな色によって表され、音楽によって混ざり合う、その様子がとても気持ちのいい色で描かれるんです。

これら一つ一つの色を見つけていく作業に、きっとものすごい時間をかけたんだろうなあと、思いを馳せてしまうわけです。

そして、山田尚子さんを推せるもう一つのポイントが「語らない」こと。

キャラクターに多くを語らせない代わりに、非言語的な要素を次々と並べ立てていくんですね。それは細かな体の動きだったり、視線だったり、あるいは周囲の情景描写だったり。

つまり言葉の数を限定し、余白を多く作ることで、単に喋らせるよりもむしろ多くのことを伝えてくれるのです。

これは並大抵のことじゃないですよ。キャラクターに全部喋らせる方がよっぽど楽ですもん。

新海:山田さんのそういった言葉や、キャラクターの実在を信じて誠実に撮っていく眩しさにいつもハッとさせられる反面、どうやったらそれが可能なのか僕は未だにわかりません。観客のことはもちろん大切だし信じてもいますが、「この表現が観客に伝わるかどうか」を考えたときに、伝わらないかもしれないリスクを考えてしまい、そういった表現を回避する方向にいってしまうことがあります。だ

【特別対談】山田尚子×新海誠が語り合う、創作論から監督ならではの悩みまで――

新海誠さんも言及しているように、山田さんが「観客を信頼している」からこそなせる技。
何かを作ったことがある人なら、なかなか勇気のいる選択だと感じさせられるはずです。

私はこの「作り手の信頼」を感じる演出がすごく好き。
映像作品でくどくど説明するシーンを見ると、なんかバカにされているように感じちゃうんですよ。「これくらい説明しないと分かんないでしょ?」みたいな。

山田尚子さんの作品にはそれがない。むしろ信頼されているのを感じて、よっしゃしっかり見届けるぞ、と観賞する側にも力が入るわけです。


結局、この映画の何が特徴的かって、「全てが優しすぎる」ことに尽きる。
もちろん、いい意味でね。

互いの「色(個性)」を緩やかに認め合い、音楽を通してぶつけあい、混ざり合い……
主人公たちが己を鮮やかに発露させていくその様が、見ていてとにかく眩しい。

あまりにも全てが優しさに包まれているので、観ている自分の心の中まであったかくなるんです。

前述の通り、山田尚子さんの作品を観賞するのは初めてですが、これが彼女の作風なのでしょうか。だとしたら、お腹いっぱいになるまで味わえましたよ。よかったよかった。

最後に、個人的に一番驚いたキャスティングについて話したい。

私は事前情報をほとんど知らずに観に行ったのですが、同じ状態で観に行った人に聞きたいことがあって。

シスターの声優がガッキーなのに気づきました!?
私は全く気づかなかったよ!!

これ、悪い意味ではなく、むしろすごいことで。
全く違和感がないというか、作中の世界にすっと綺麗に溶け込んでいるんですよ。

新垣さんが演じるシスターが、これまたいい役でね。
ぜひぜひ、確かめてください。本当にいいんです。

(キャスティングは)すごくすごく、悩んだんです。オリジナルはゼロから生んでいく作業なので、ひとりの人に決めるプレッシャーもありましたが、今では奇跡のようにピッタリ合う方々に出会えたと思っています。

「好きなものは好き」という気持ちはエバーグリーンなもの。「年齢や性別とかまったく関係なく、心(しん)で通じ合えるものってあると思うんです」ーー『きみの色』で伝えたい、山田尚子監督が描いたメッセージ【インタビュー】

もちろん、主人公3人にしてもサブキャラにしても、監督の言う通り「奇跡のようにピッタリ」なキャストが揃っています。

こう、ハマり役って、「本当にこの世界にいるんじゃないかな」と思わせてくれる感覚がありますよね。それが作中通してずっと続く感じ。心地いいんです。


そんな『きみの色』。
淡く、優しく、全てをあたたかく包み込んでくれるような、素敵な作品です。

自分を示すことにためらいを感じている人、逆に自分の「色」が分からない人。
どちらにしても、新たな発見を与えてくれる作品だと思います。ぜひ。

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