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登校百景 冬(高校編)

学校嫌いにとって、登校ほど憂鬱な時間帯はない。よくもまあ耐えてきたものだ。
エライ、エライと自らを褒め称えながら、重力がおかしいことになっている体をドアから無理くり押し出す。

通学は気を紛らわすことに集中する。そうでもしなければ、憂鬱に負けて学校へは辿り着けそうもない。

例えば冬の通学路‥‥


はあ〜寒い。
気温は何度なんだろう。
ううん、知らない方がいいや。

吐く息がゴジラの放射熱線みたいだよ。あっちでもこっちでも、みんな熱線を吐き出して歩いてる。

〈ガオ〜〉
    〈ガオ〜〉

勝手にアテレコする。

ブーツが短いから気をつけて歩かないと、雪が入ってしまう。
・・・
ほら、入っちゃった。
溶ける前に出さないと。足が冷たくなる。
ブーツを脱いだ拍子にバランスを崩して、ソックスで雪を踏んづけた。結局足が冷たいという‥‥
ああ、この馬鹿らしさ。

学校へ行くことに比べたらなんてことはない。

そう、嫌いじゃない。


電線から雪が落ちてくる。
トサトサッ
うわ〜
初歩的ミスだ。雪は下からも上からも攻撃を仕掛けてくる。油断してはならない。


駅では電車を待つ人が溜まっていた。みんな真っ白い息を勢いよく吐き出している。
誰のが1番強そう?
お喋りしてる女生徒も〈ガオ〜〉
笑ってる男子学生も〈ガオ〜〉
鼻をすすってる会社員も〈ガオ〜〉
熱線同士がぶつかって、戦ってるみたいだ。
あ、鼻からなのにゴゴォ〜!と熱線出してる!
あの人が最強だ。


冬の通学で何が1番辛いかって、ただ黙って待ってること。じっと立ってると寒さがじわじわと体内に侵入してくる。
頬に当たる髪が冷たいと思ったら凍ってたし。さっき雪を被ったせい?

改札を抜けようとして、定期券を掴もうとした手がかじかんでるのに気づく。手袋してても手がカッチカチ。

ま、いいか。
あれもこれも、

     ま、いいか。


手をポケットに突っ込んで
ぐー、ぱー、ぐー、ぱー
血の流れを良くして‥‥

よし、行こう。

電車の窓は真っ白。
ドアの近くに立てたらラッキー。
窓ガラスに落書きできる。
ただし!
ドアが開く度に寒風に全身を引っ掻かれるけど。


冬の通学は大変だ。
でもね、いろんなことがあって気が紛れるから

そう、

嫌いじゃない。


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