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「貿易と無縁の国」がある

自分がまだ社会人なりたての頃「世界で唯一、貿易とは縁の無い国はどこか?」と聞かれ、「そんな国あるか」と答えて自分の無知を晒した事がある。

この質問の答えは米国だった。

だが、当時米国は貿易してないどころか巨額の貿易赤字を抱え、日本や中国と貿易摩擦を起こしていることを連日ニュースで目にしていたので、若き日の自分はこのクイズの意味が分からなかったが、ポイントは「貿易とは無縁」という聞き方だ。

ドルは国際通貨の中で中心的な地位を占める基軸通貨とされているので、米国は相手がどの国でも輸出入はドルで決済する。

貿易は通貨が異なる国との取引で、自国の通貨を他国の通貨に両替して行われる取引なので、米国は自国通貨で他国と取引ができるため、どこの地域で取引をしようが貿易をしていないのと同じ(=貿易とは無縁)と言える。

通貨が異なる国と取引を行う場合、どの通貨に対しても基準となる通貨を挟む必要がある。

例えば、トルコとロシアが取引を行った場合、ロシアの通貨であるルーブルとトルコの通貨であるトルコリラは、相互の通貨の流通量がアンバランスなのと交換市場が小さいため、取引市場が成立しない。
そのため、双方の通貨は基準通貨を挟んで交換する必要がある。

この通貨基準がドルとされているのだ。

国際取引の多くはドルを使わないと成立しない。
世界でドルが通用しない地域はないから、米国にとって地球はすべて自国経済圏と言える。

80年代の米国は財政収支と経常収支の二つの赤字(所謂「双子の赤字」)による景気低迷(Stagnation)と物価上昇(Inflation)が併存するスタグフレーション(Stagflation)に悩まされ金利が上昇し、ドル高となった。

通常、景気低迷は需要が落ち込むことからデフレ(物価下落)となるが、原油価格の高騰など、原材料や素材関連の価格上昇などが起こるとインフレ(物価上昇)が起こり、景気低迷と物価上昇が同時に起こるスタグフレーションに発展する。

スタグフレーションの時に起こるインフレをコストプッシュ型インフレと呼び、これは、需要拡大に伴い起きるインフレであるディマンド型インフレと異なり「悪いインフレ」と呼ばれる。

現在、ほとんどの国はこのコストプッシュ型インフレに伴うスタグフレーションに悩まされ、生活が苦しくなっている。

米国はコロナ対策で大量にドルを発行し、消費を下支えしてきた。
更にGAFAをはじめとしたグローバル企業やコロナワクチンで大儲けをした製薬会社を抱え、世界中の通貨を米ドルに換えているので現在は米ドルが大量に流通し余っている。

通貨が余る状況では、通貨の価値が下がり、物の価値が上昇する。
そうなると中央銀行は金利を上げ、人々に貯金をしてもらい通貨の流通を抑えようとする。

だが、金利が上がると今度はお金を借りている人々の生活が苦しくなったり、お金を借りてくれなくなったりするので住宅・車・建設の業界や企業の設備投資が影響を受け、対策として企業が雇用の抑制や解雇を始め、やはり景気は後退する。

現在、米国は景気対策として金利を上げる施策を取り、ドル高の状態になっている。
ドル高になると、米国は購買力が高まりドルを印刷しなくてすむ。
逆にドルが安くなっても貿易国がアメリカ市場を守るために輸入先国が死に物狂いで生産性を改善して同じ値段で売る努力をしてくれる。

そしてアメリカは各国通貨の為替レートを上手くハンドリングし、より良いモノを安く買うことに成功し、インフレのコントロールを続けている。

米国からしたら、自国通貨で他国と貿易ができるのだからカリフォルニアで買おうが上海で買おうが同じだ。世界でドルが通用しない地域はないので地球はすべて自国の経済圏になる。

これが米国が貿易と無縁と言われる所以だ。

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