たまには泣いてもいいじゃない、こんなに頑張っているんだから。
まごうことなき愚痴だけれど、少しだけ吐き出させて欲しい。
今日、初めて仕事で泣いた。えぐえぐ、という表現が似合うくらいには本気で泣いた。
私が何をしたっていうんだ。私がやってきたことは、全部間違いだったのか。泣きながら、自分の全てが否定されたようで悲しくて、今回ばかりは本気で営業職に向いてないと思った。
私は、ルート営業をしている。担当顧客を回って、商品の導入や活用を支援している。その担当顧客の一人に電話して次のアポイントをもらおうとした時に、突然言われた。
「正直、会いたくないんです。顔も見たくない」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。このお客さんのお願いはわりと無理をしてかなえてきた。前から言葉がきついお客さんだと思っていたけれど、地域柄そういう言葉遣いの人も多いし、と納得していた。
きっかけは、そのお客さんの取引先に商品を納品しに行った際の私の態度だという。
とても、不満そうにイライラしているような態度をとっていたそうだ。こんな小さい会社なんてと見下しているように見えたと言われて「そんなことないです」という私の言葉は遮られて伝わらなかった。
何が悪かったのか、一切思い当たるところがない。丁寧に、失礼のないように誠心誠意尽くしてきた。そう思っていたのに、裏切られたようだった。
例えば、私がお客さんに暴言を吐いたとか、舌打ちをしたとか、見下すように嘲ったとか、そういうわかりやすい行動をしていればよかった。それなら納得できる。誰が見ても、わかりやすく私が悪い。
何が悪いのかを聞いても、ただ「態度が悪かった。こんなに態度が悪くて、嫌そうにする人初めて」と言われた。
彼からみて、私がそう見えたのであればきっとそうなのだろう。私の努力も、頑張ろうという気持ちも、何にも伝わってなくて空回りだったんだと思えば思うほど、自分が無価値であると言われているようだった。
30分、具体的に何が悪かったのかわからないまま自分が無価値だと言われ続け、それでもクレームをもらったからには上司に報告せねばと電話をした。
上司は私から事実関係を聞き取って、すぐにお客さんと電話をしたらしい。ぐるぐると何が悪かったのかを考えては、死んでしまいたくなった。
帰社後、上司と面談して仕事が理由で初めて泣いた。すぐに泣くような、甘ったれた人間にはなりたくなかったのに、あっけなく私の涙腺は決壊した。
上司は、お客さんから聞いた内容を静かに私に伝えてくれた。「くれないさんから聞いた通りのことを、言っていたよ」と。
「私、この仕事向いてないと思うんです。他のお客さんも、お世辞で私を煽ててるだけで、本当はダメな子だから担当を変えて欲しいって思ってるんじゃないかって、全部間違ってたんじゃないかって思うんです」
吐き出した言葉と一緒に、涙が溢れた。泣かないって決めていたのに、もうダメだった。
30分泣きっぱなしの私に上司は「どうしても、合わないって人はいるし、そういう酷いことを言ってくる人もいる。くれないさんはやることやって、合わなかっただけだよ。だからさ、今度の会合とかでやりかえそうよ。ほら、資料配るとき順番飛ばしてみたり、画鋲椅子に置いてみるとか。お酒作る時に、めーっちゃ濃く作って渡すとかさ」と、笑った。
相変わらず、子供っぽい仕返しするなぁと思いながら「別に、担当が変わってお客さんがやりやすくなるなら、それが1番いいです」と答えた。
上司は笑って「そういう奉仕の精神とかいいからさ、少しぐらいやり返したっていいんだよ?」と言う。
その後、お昼ご飯を奢ってもらってデリカシーの全くない上司の昔話を聞きながら、これくらいくだらない話をしていた方が気が紛れるなと思っていた。
泣き過ぎて痛い頭のまま、残りの仕事を片付けた。さあ、仕事が終わったと思った時に、来月で別の部署に異動が決まった大先輩に声をかけられた。私とは分野が違うけれど同じエリアを担当している人だ。
「今日、異動の挨拶をしに〇〇さんに行ってきたらさ、『お前はええねん、くれないさんがいてくれればうちは大丈夫』って言ってたよ。ほんっと、愛されてるなぁ」
いつもなら、天にも登るほど嬉しい言葉がどうにも空虚に聞こえて「私なんて、そんな大したことしてないですよ」と無理やり笑った。
昨日聞いていたら、素直に喜べていた。今日はどうにも「どうせお世辞でしょ」と言う声が聞こえる。「お前なんかが担当てか最悪だとか思ってるよ、本当は」と囁く声が聞こえる。
最近ずっと忙しくて、身体を壊していたのも相まって、なんのために頑張っていたのかがわからなくなった。動悸、目眩、手の痺れに耐えて笑った私の努力は、何にも意味なかったんだなぁと力が抜けた。
もう、二度と担当することはないお客さんだけど、少しくらい意地悪してもいいだろうか。例えば、有益な情報を渡さないとか、毎日小指をタンスにぶつける呪いをかけるとか、万が一相手が法をおかしたときは示談せずに立件するとか。
しばらく死ぬ予定はないけれど、私が自殺する時に遺書に書き連ねる予定の、私を追い詰めた人リストに追加しよう。それくらいの意地悪、許してくれてもいいと思う。
帰り道、過ぎ去る電車をぼーっと眺めて「ホーム柵って偉大だ」と、鉄道会社の努力に喉の奥がつんとした。
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