見出し画像

健康長寿を伸ばす医療システムの創造に成功した星の話

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。
その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。
ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。
ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。
では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、宇宙移民の考えた老後の不安を減らすイノベーションを紹介しました。
その記事はこちらです。
最初の記事はこちら
次の記事はこちら
目次はこちら
理想社会の設計方法について
持続可能な社会のつくり方はこちら

今回の話


今回のテーマは、医療問題を克服するイノベーションです。

さて、遠い昔から人類の夢であった健康長寿。テクノロジーの発達で数々の夢が実現したように、その夢も叶えられようとしています。
先進国で生まれる子供の半数は100歳以上生きるという予測も出ており、「人生100年時代」を見据えた人生設計を考える人も増えてきました。

しかし世の中を見ると、100歳も生きられる時代が到来することに浮かれている顔はあまり見えません。
地球環境や経済社会の未来を考えると、生きづらさが増していくのが予測され、「そんな大変な時代を長生きするのは、本当に幸福なのか」と考えてしまうからではないでしょうか。

そこで今回は、宇宙移民の考えた幸福な長寿社会を実現する医療イノベーションを紹介します。
人間を健康長寿にするだけでなく、住んでいる星や社会を持続可能にするにはどのような医療システムにしたらいいのか?
さて、宇宙移民はどのような方法を使って、この難問を解決したのでしょう。

簡単じゃない「人生100年時代」

故郷の星に住んでいた頃、私は偉い人たちが言うように、経済成長の道を邁進すれば、「人生100年時代」が来ると信じていました。

確かに、経済を大きくして生活が豊かになると、食べ物が買えなくって低栄養になることがなくなったり、衛生的で快適な住宅に住めるようになったり、高レベルな医療を受けることができたりするので、必然的に寿命は伸びるでしょう。

それを証明するように、私の故郷の国は高度経済成長で経済大国になるのと同調して平均寿命が伸び、ついには世界一の長寿国になりました。

ところが、医療やテクノロジーの発展で治せる病気が増えても、平均寿命が100歳以上になることはありませんでした。
それどころか、逆に平均寿命が短くなり、生きるのがどんどん大変になっていったのです。

なぜ人生100年時代が実現しなかったのか

人生100年時代が実現しなかった理由は、次の3つの問題が深刻化したからです。

  • 貧困問題

  • 環境問題

  • 医療崩壊

問題が悪化した原因を個別に見ていきましょう。

  • 貧困問題

貧困問題が深刻化したのは、少子高齢化が進んだからです。

少子高齢化が進むと貧困が広がる理由は、国民皆年金制度や国民皆保険制度などの社会保障制度の維持が困難になることにあります。
つまり高齢者は年金支給額が減るので生活が苦しくなり、現役世代はそのしわ寄せで負担が増していくということです。

生活が苦しくなれば、食費を削って低栄養になったり、風呂の回数を減らして不衛生になったりする高齢者が増加します。

また国民皆保険制度を維持するために医療費の自己負担があがれば、少ない年金でカツカツの暮らしをしている高齢者は病院に行きづらくなります。
その結果、人生100年時代を可能にするレベルまで医療やテクノロジーが発展しても、その恩恵を受けられる高齢者は少なくなり、平均寿命は短くなってしまうのです。

故郷の星では少子高齢化は世界的規模で進んでいきましたが、特に私の故郷の国は進行が早かったので、大変な事態になりました。
労働力人口の減少に歯止めがきかなくなったことで激しいグローバル競争についていけなくなり、先進国の地位を維持するのも難しくなってしまったからです。

そのせいで故郷の国の国民は収入が激減し、生活が不安定になってしまいました。
そのうえ、物価上昇と増税が止まらず、社会保障も国民を救う力を失ってしまったため、国民はますます食べられなくなり、故郷の国は世界一の長寿国の地位からも転落していきました。

  • 環境問題

環境問題が深刻化したのは、経済を大きくすることで人生100年時代の達成を目指したからです。

経済のメタボ化は、住んでいる星の健康寿命を縮めます。
経済が大きくなれば、資源やエネルギーの消費量、汚染物質やゴミの排出量などが増えるので、環境破壊や環境汚染が激化してしまうからです。

そしてそれは、人々の健康寿命を縮めることにもつながります。
たとえば、温室効果ガスの排出量が増えて温暖化が進めば、異常気象が発生しやすくなります。
それにより、農作物に被害がでたり、不作になったり、漁獲高が減ったりすれば、食料品の値段があがってしまいます。これではいくら食費を削っても追いつかなくなり、ますます栄養不足に陥る高齢者を増やしてしまうでしょう。

また温暖化は、光熱費の上昇ももたらします。
温暖化の進行を抑止するために火力発電が禁止され、発電コストの高い自然エネルギーへの転換が進められるようになるからです。

しかも猛暑日が増えるなど気象が厳しくなれば電力需要が増大するので、電力不足が起きたり、料金の値上げが行われたりします。
そうなると、生活が苦しい高齢者は冷房や暖房を思うように使えなくなり、熱中症や低体温症になりやすくなってしまいます。

さらに環境問題の深刻度が増してあらゆるものが不足するようになれば、少ないパイを巡る争いが激化します。
それで軍事費に財源が食いつぶされるようになると、社会保障費はますます欠乏していくことになります。

私の故郷の星は、餓死者の増加に加え戦争の犠牲者が増えたことで、人生100年時代どころか、平均寿命が急激に低下してしまいました。

  • 医療崩壊

医療崩壊は、患者数の減少が激しくなったことで起こりました。

患者数が激減した理由は、高齢者の貧困が増大したからです。
つまり少子高齢化の進行で社会保障費の抑制が強まったせいで、食べていかれなくなる高齢者が増えてしまったのです。

医療機関にとっては高齢者がお得意様なので、高齢者の客離れが進むことは大打撃になります。

医療機関の衰退は、人口減少率が高い地方から始まりました。
そういう地域は公共交通機関も衰退しており、車をもたない高齢者は交通弱者になっています。自治体も税収減で財政難に陥っているので、この問題を解決することはできません。
これが医療機関から高齢者の足を遠退ける後押しになってしまったのです。

医療機関の経営が厳しくなれば、最新の医療設備を整えることも、医療サービスを高めることもできなくなります。
言い換えれば、医療やテクノロジーが発達しても、それを活用することができなくなるのです。

また良い商売にならなくなれば、研究開発も不活発になり、医療の進歩も止まってしまいます。

このような事態に陥ったことも、平均寿命を縮める引き金になりました。

国民皆保険制度の問題点

私の故郷の国の国民皆保険制度は、それがうまく機能している間は世界に誇れる社会保障制度でした。

国民皆保険制度の素晴らしさは、その名の通り、すべての国民が公的医療保険を受けられる点にあります。

しかも、ほぼすべての医療が保険適用なので、最先端の質の高い医療を低い自己負担で受けることができますし、ほとんどの医療機関が保険医療機関になっているので、好きな医療機関を選ぶこともできました。

さらに、診療報酬で医療価格が統制されているため、大病院であっても名医の診療であっても医療サービスの価格は同じであるという美点もありました。

国民皆保険制度がいちばんうまくいっていた頃は、高齢者の自己負担は無料でした。
私の故郷の国が世界一の長寿国になれたのは、国民皆保険制度のお陰であると言っても過言ではないでしょう。

国民皆保険制度の弱体化が進んだ理由は、収支バランスが崩れたことにあります。

国民皆保険制度は、国民から保険料を集めることで成り立っています。そして保険料を集めるのは「保険者」という機関です。この保険者がそのお金をやりくりして、医療機関から請求されたお金を支払っているのです。

収支バランスが崩れるとは、収入(保険料と患者の窓口負担)が減って、支出(医療費)が増えるということです。
そのような事態が慢性化すると、保険者の財政状況が悪化してしまうので、国民皆保険制度が危機的な状況になるわけです。

故郷の国で収支バランスが崩れた主な原因をまとめると、次のようになります。

収入が減少した原因は、
・ 労働力人口の減少
・ 経済の悪化
で、

支出が増加した原因は、
・ 高齢者人口の増加
・ 医療技術の高度化などによる医療行為の単価の上昇
でした。

つまり「少子高齢化」と「医療の進歩」が、国民皆保険制度の存続を難しくしたのでした。

しかし存続の危機は、国民皆保険制度の成功が招いた結果ともいえます。
長寿社会になったのも、乳児の死亡率の低下で子供を多く生む必要がなくなったのも、質の高い医療を誰もがお金の心配をすることがなく受けられるようになったからです。

以上のことからわかるのは、国民皆保険制度を持続可能にするには、高い経済成長率と労働者人口の増加を維持し、高齢者の分も若い世代が補えるほど保険料がザクザク入ってくる状態にする必要があるということです。

確かにそうなれば、国民皆保険制度は持続可能になり、人生100年時代
が成就する確率も高まるでしょう。

しかしそれも一過性に終わってしまうにちがいありません。
人生100年時代なると働けなくなる期間がさらに長くなりますし、増え続ける高齢者を支えるために出生率をあげていくことは、人口爆発への道を加速することになるからです。

故郷の国の医師からはこの問題を解決するために、増税を行って国民皆保険制度を維持する必要があるという意見が多くありました。
そうすれば、患者の自己負担をあげずに済み、患者の病院離れを防げるという発想です。

しかしそれは国民皆保険制度しか見ていない考え方でした。
危機的状況にあったのは、国民皆保険制度だけではなかったからです。

国民皆年金制度や介護保険制度などの社会保障も財政が悪化していましたし、老朽化したインフラの修繕費用もつくれないほど財政難に陥っている自治体も多くいるなど、あらゆる事業が資金不足に苦しんでいました。

収入が増えないのは国民も同じです。
にもかかわらず、これでもかというほど値上げや増税が繰り返され、今にも押しつぶされそうでした。

そういうなかにあって、自己負担の増加分を税金に転嫁して得をするのは誰でしょう?

健康は一番の財産なので優先権はあるかもしれませんが、このやり方では医療システムを持続可能にすることはできません。

病気は、過労や重いストレスによってかかりやすくなります。
どういう方法であれ、国民の負担増に加担することは病気にかかりやすくなる事態を発展させてしまうことになるので、医療費を小さくするイノベーションにならないのです。

難題を解決に導く5つの作戦

私たちは医療イノベーションを行うにあたって、故郷の星のいいところは見習うことにしました。
たとえば、国民皆保険制度の「誰もが低い自己負担で質の高い医療をいつでもどこでも受けられる」ところです。

もちろん、その状態が維持できなければ、故郷の星と同じになってしまいます。

それを持続可能な医療システムにするには、

  • 少子高齢化

  • 環境問題

という難題に対応できるものにしなければなりません。

そこで難問を解決に導くアプローチとして、私たちは5つの作戦をたてました。

成功の秘策を見つけたぞ

ここから先は

19,646字 / 32画像

¥ 300

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは明るい未来を創造する活動費として大切に使用致します。