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老後の不安を減らすイノベーションに成功した星の話

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。
その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。
ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。
ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。
では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、宇宙移民の考えた交通イノベーションを紹介しました。
その記事はこちらです。
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目次はこちら
理想社会の設計方法について

今回の話

自分や親の老後を考えると、老後資金に始まり、介護、相続、葬式、お墓などの問題が思い浮かび、気が重くなる人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、宇宙移民の考えた老後の不安を減らすイノベーションを紹介します。
どのような秘策を使ってそれらの難題を解決したのか。
その答えを明かしていきます。

質問介護イノベーション

故郷の星で感じた老後の不安

お陰様で、老後の不安を減らすイノベーションに成功した星に住んでいるので、今は老後の不安に苦しめられることはなくなりました。
しかし故郷の星に住んでいた頃は、老後の不安で頭が一杯になり、かなり悲観的に将来を考えてしました。

いちばん近くに感じていたのは、両親が要介護になったらどうしよう、という不安でした。

二人も介護サービスを利用するとなると、相当お金がかかるはずです。
お金が足りなければ、短い時間しか介護サービスを受けられないでしょう。
そうなると、私への負担が増します。

しかし私は忙しい職場で働いていたので、仕事と介護を両立する自信はありませんでした。

老後負担

かといって介護離職をしたら、自分の老後のために蓄えた資金がなくなってしまいます。
年金に頼れればいいのですが、年金財政が厳しくなっていて、自分がもらう頃にはどうなっているかわからない状況でした。

年金で生活ができなくて仕事を探すとしても、足腰の弱った老人にいい仕事が見つかるとは思えません。
また死ぬまで安い賃金で重労働をする姿を想像すると、暗たんたる思いになりました。

そういう強い不安に襲われ、老後の不安を減らすイノベーションが発明されないかと、心の底から願ったものです。

何をイノベーションすれば老後の不安が減るのか

不安を減らすには、何に対して不安を抱いているのか見極める必要があります。
では、問題解決の第一歩として、老後の問題を整理してみましょう。

まず問題になるのは、お金の問題です。
つまり自分や親が要介護になったら、その費用をどうするかということです。

次の問題は、介護の負担です。
介護の負担を軽くするには、どうすればいいか?
この問題が解決されれば、介護離職をしなくても済みます。

相続や葬式、お墓の問題を解決するイノベーションもほしいです。
相続税や葬式、お墓にも、結構なお金がかかるからです。また相続した実家の固定資産税を払わなければならなくなりますし、それを解体するにも多額の費用が必要になります。それらにお金を費やせば、ますます自分の老後の資金は不足してしまいます。

介護サービスを提供する側のイノベーションも必要になるでしょう。
たとえば、施設や人員が不足している問題です。需要が増えているのに、事業者がそれに対応できなければ、要介護者のいる家族への負担が増えてしまいます。

さらにスケールを広げれば、少子高齢化を改善するイノベーションの重要性が見えてきます。
少子高齢化が悪化すると、現役世代にかかる負担が増していき、いつか支えきれずパンクしてしまうからです。

最後に重要なのは、環境問題を悪化させないイノベーションです。
住んでいる星が人類の生存に適さない環境になってしまったら、明るい老後を築くどころではなくなってしまいます。
そうならないためには、老後の不安を減らすイノベーションを環境負荷の低減に役立つものにしなければなりません。

故郷の星の老後の不安を減らすイノベーション

故郷の星に住んでいた頃、どうして私が老後の不安を強く感じていたのか。
その理由を明確にするために、私の故郷の国で行われていた老後の不安を減らすイノベーションを簡単に説明します。

まず、国が行っていたイノベーションです。

医療については、国民皆保険制度が発明されました。
これは国民すべてが公的な医療保険に加入する制度です。国民で負担を分かち合ったことで、誰もが低い負担で医療を受けられるようになりました。
老化による大きな健康問題が発生する年齢の高齢者(75歳以上)は、さらに低い負担で済むような仕組みにしました。これで老後の不安を減らすようにしたのです。

介護については、介護保険制度がつくられました。
これも国民皆保険制度と同じ方法で、介護にかかる費用負担を軽減しています。
国民皆保険制度と違うのは、加入年齢が40歳以上になり、サービスを利用できるのも40歳以上になっている点です。

介護保険で利用できるサービスには、訪問介護などの在宅サービス、通所介護など日帰りで施設に通って受けられるサービス、短期入所介護など一時的に施設を利用するサービス、施設に入所して受けるサービスなどがありました。
ただし要介護度に応じて、利用限度額や自己負担割合、利用できるサービスが違っていました。

この他、老後のお金の心配を減らす方法として、国民皆年金制度が創設されました。
これも負担を分かち合うことで年金の財源をつくる仕組みですが、20歳以上60歳未満のすべての国民に加入義務がありました。

介護保険

会社などの職場でも、国の命令に従い、介護の負担を減らす就業規則がつくられるようになりました。
介護離職を増やしてしまうと、経営を行うのに必要な人的資源を減らすことになってしまうからです。
介護の負担を減らす代表的な制度は、介護休暇や短時間勤務制度などです。

崩れた設計

しかし故郷の国は、財政悪化で社会保障制度の運営が厳しくなる事態に陥りました。

設計を狂わせた要因は、少子高齢化です。
つまり急速に子供の数が先細りする事態になったことで、老後の不安を減らす制度の持続が困難になってしまったのでした。

修正策

このピンチに対して国がたてた方策は、次の3つです。

1つ目は、労働力人口を増やす方策です。
つまり、リタイアする年齢を遅らせたり、専業主婦を減らしたり、移民を増やしたりすることで、制度を支えるボリュームを増やすという方法です。

2つ目は、財源支出を抑制する方策です。
例えば、年金の受給開始年齢を遅らせたり、支給額を減らしたりする手法です。

3つ目は、収入を増やす方策です。
支出を抑制して収入を増やせば、財政が改善され、制度は持続可能になります。
収入を増やすために、税金や保険料をあげる方法が使われました。

しかし、この方法も根本的な解決にはなりませんでした。
何に問題があったのでしょう?

故郷の星の老後対策イノベーションの問題点

いちばんの問題は、修正策は一時しのぎにしかならないということでした。

たとえば、健康寿命という限界があるので、いつまでもリタイアを遅らせることはできません。

また加齢とともに心身の活力の低下が速くなるので、高齢者は一年ごとにできる仕事が減っていきます。
そうなれば、高年齢者の雇用拡大政策で労働力人口が増えても、数に比例して労働生産性があがる計算にはならなくなります。

女性への負担を高めてその狂いを修正する政策にも、問題があります。
主婦に現役世代の男性と同じ成果を求めると、仕事と育児の両立の難易度を高めることになり、少子化に拍車をかけてしまいかねなくなるからです。

それが原因で、合計特殊出生率が1台に常態化してしまうと、人口減少に歯止めが効かなくなり、国家の存続すら危うくなりかねません。
合計特殊出生率が1台になると、父親と母親という2人の人間から子供が1人しか生まれなくなるので、ひと世代かわるたびに人口が半減してしまうからです。

高齢者労働生産性

事実、故郷の国はそういう事態に陥り、加速度的に人口減少が進行。国際競争力も、坂道を転げ落ちるように低下してしまいました。

しかし収入が減って困っている国民が激増しているにも関わらず、増税と値上げは容赦なく続いたのです。これでは移民で人口を増やすどころではありません。国を見限る若者が跡を絶たなくなり、余計に人口を減らす事態を招いてしまいました。

また故郷の国には、移民も入ってこなくなってしまいました。
他の先進国でも少子高齢化が深刻化し、激しい移民の奪い合いが始まったことで、魅力を失った故郷の国は移民に選ばれなくなってしまったからです。

イノベーションに成功しても悲劇を招く

故郷の星が考えたイノベーションを成功するには、支える世代(現役世代)の人口が支えられる世代(高齢世代)の人口を上回る構造にしなければなりません。

しかし構造転換に成功しても、結局は悲劇を招いてしまうでしょう。
超長寿社会を支えるために出生率を増やすと、今度は人口増加が加速し、遠くない未来に人口爆発を起こしてしまうことになるからです。

人口が増えすぎると、以下のような問題が発生します。

・ 食料不足や土地不足が深刻化する
・ 資源利用量やエネルギー消費量が増え、環境問題が深刻度を増す
・ 少ないパイをめぐる紛争が多発し、核兵器を使う大きな戦争に発展するリスクが高まる

食料消費量

つまり住んでいる星を急速に生存に適さない環境に変え、最後は戦争でとどめを刺してしまうことになるのです。

少子高齢化の改善は必要ですが、後先を考えない人口政策で構造転換を行い、その構造を維持することを目指さないと成り立たないような社会保障制度では、いずれにしても一時しのぎの成果しかあげられないのです。

故郷の星の失敗の原因

故郷の国の社会保障制度がうまくいかなくなる原因は、老後問題をすべてお金で解決しようとしているからだと私たちは考えました。

では、なぜそれで失敗するかというと、答えは次の2つです。

① お金で解決できなくなるから
② 事態を悪化させてしまうから

①と②の理由を説明すると、以下のようになります。

① お金で解決できなくなる理由
①の理由は、少子高齢化社会に適応できなくなるからです。
つまり少子高齢化になれば、社会保障の財源が不足していくのは当然であり、それに対応できない制度は成功するわけがないということです。

社会保障がうまくいかないのは少子高齢化のせいだと考えがちですが、少子高齢化はアクシデントで起こるものではありません。
少子高齢化は裏返せば、人々の暮らしが豊かになった証拠だからです。

まず豊かになると少子化が進むのは、栄養摂取や衛生状態の改善、優れた医療を受けられることで乳児の死亡率が低下することにより、子供の数を増やさなくても子孫を絶やす心配がなくなるからです。

また生活が豊かになると、高い教育を受けるようになったり、贅沢になったりして、養育費がかかるようになるので、子供を増やしづらくなります。

そして高学歴社会になれば、結婚後も仕事でその能力を活かしたいと思う女性が増加します。これも子育ての時間を増やせなくするので、少子化の原因になります。

豊かになると平均寿命が伸びて超長寿社会になるのも、乳児の死亡率が低下する理由と同じで、食生活が良くなり、質の高い医療を受けられるようになるからです。

そう考えると、私の故郷の国の老後の不安をなくす社会保障制度は、古いタイプのものといえるでしょう。
古いタイプとは、故郷の星が豊かになる前の時代、つまり故郷の星の成長期に合った社会保障制度ということです。

私の故郷の国は、敗戦後、奇跡的に急成長をして経済大国になった国です。
国民皆保険制度や国民皆年金制度などの社会保障制度は、その急成長期につくられたものでした。

それができてしばらくの間は、それは世界に誇れる社会保障制度であると高い評価を受けました。
それがうまく機能したわけは、戦前、兵隊を増やすために子供をたくさん生むことが奨励されたことで現役世代の人口が増えたのと、戦死した成人男性が多かったことで高齢者人口が減り、平均寿命もまだそれほど長くなかったからです。

故郷の星の失敗は、状況がかわったのに、古いタイプの社会保障制度でやりくりをしようとしたことにあります。
当然、それは無理があるので、持続可能な社会保障制度にはなりません。

② 事態を悪化させてしまう理由
故郷の国の社会保障制度は、環境問題を悪化させる原因にもなっていました。

持続可能な社会をつくるには経済と環境を両立しなければなりませんが、無理にでも経済を大きくしなければ財源を得られない社会保障制度では、そのバランスを崩す重石になってしまうからです。

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経済を大きくすることだけを追求していれば良かった時代につくられた故郷の国の社会保障制度は、環境に適合できない点においても時代遅れであったのです。

問題解決の正しいアプローチ

持続可能な社会保障にするために、私たちは次の2つの状態を目指しました。

究明
成功の秘策を見つけたぞ

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