見出し画像

行政スリム化でサステナブルな社会に成功した星の話

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。

その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。

ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。

ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。

では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、宇宙移民の考えた幸福な長寿社会を実現する医療イノベーションを紹介しました。
その記事はこちらです。
最初の記事はこちら
次の記事はこちら
目次はこちら
理想社会の設計方法について
持続可能な社会のつくり方はこちら

今回の話

今回のテーマは、行政のスリム化を成功させるイノベーションです。

行政のスリム化は、地域の持続性を高めたり、住民の負担率を低めたりするために必要です。
しかし今の世界を見ると、経済や環境問題の悪化、少子高齢化の進展などで行政の仕事量が増加しており、行政のスリム化が難しい状況にあります。

そこで、行政のスリム化に成功した宇宙移民の行政イノベーションを紹介します。
ゼロイチから創造できる未開の星の利点を活用して、宇宙移民はどうやってこの難題を解決したのでしょう?
どこにもない斬新なアイデアのなかから、明るい未来をつくるヒントを見つけてみましょう。

行政イノベーションが必要な理由

行政のスリム化を成功させるイノベーションは、あなたの住んでいる地域社会を守るためだけでなく、あなたの暮らしを壊さないためにも必要です。

自治体の財政が苦しくなっても、自分の稼ぎで豊かに暮らせれば困らないと考えるかもしれませんが、自治体が破綻したら、空気のように当たり前に存在していた利便性は失われ、安全な暮らしを送れなくなり、生活コストもかかるようになります。

たとえば、ゴミ収集が有料化になります。この他、水道料金や軽自動車の税金、介護保険料、保育料、市営バス料金など、生活に欠かせないものが高くなります。

しかし値上げをすれば、前と同レベルの行政サービスを提供できるようになるわけではありません。

いくら住民税や固定資産税をあげてもそれは借金の返済に使われるので、老朽化して修繕や交換が必要な水道管や道路、橋などはそのまま。防災対策にかける費用もなく、住民の生活は非常に危険な状態にさらされます。

さらには、自治体が運営している病院も縮小を余儀なくされたり、公立の学校が統廃合されたり、図書館や市民会館、市民体育館なども引き受け先が見つからなければ閉鎖せざるをえなくなったりします。

これは行政サービスが低下するという問題に終わらず、失業者の増加を引き起こすという問題に発展します。
行政機関も支出削減のために、先頭に立ってリストラを行わなければならなくなるからです。

このような未来のない地域になれば、若者は次々に逃げてしまい、ますます自治体の再生は難しくなります。

地元に残った人は、加速する人口流出で負担が増していく一方の生活。その上、住宅ローンもたっぷり残っていれば、生活の余裕はまったくなくなってしまうでしょう。
しかし財政破綻した自治体にある売り家を買ってくれる人など簡単に見つかるはずはなく、若者のように身軽に他へ移住することはできません。

増税や値上げなどで生活が苦しくなれば、消費も冷え込み、その影響で収入が激減したり倒産が激増したりするリスクも高まります。

自治体の破綻に連鎖して住民の生活も破綻することは、十分に起こりうるのです。

税金の無駄遣いが発生する原因

自治体が財政悪化に陥る理由は、住民の人口減少で税収が不足するパターンと税金の使い方に問題があるパターンがあります。

私が前に住んでいた星の故郷の国での税金の無駄遣いが発生する主な原因をあげれば、次のようなものがありました。

  1.  予算単年度主義

  2.  前年度実績主義

  3.  行政機関の肥大化

  4.  労働生産性の悪さ

  5.  政策の失敗

1〜5の問題を順番に見ていきましょう。

1.予算単年度主義の問題

予算単年度主義とは、予算を年度ごとに作成し、その年の予算で行われる事業は年度末までに終わらせ、支払いを済ませなければならないというものです。

年度末に道路工事が増えるのも、予算の消化を急ぐからです。

しかし、とにかく予算を残らず使い切ってしまおうという思考は、少しでも税金の無駄遣いを減らすために改善を励もうという思考とは正反対です。

だから予算単年度主義は、税金の無駄遣いを増やすことになるのです。

2.前年度実績主義の問題

前年度実績主義とは、予算消化額に応じて翌年度の予算が決定されるというものです。

そうなると、予算を切り詰めたり不要不急の事業を抑制したりすることは、獲得できる予算を減らす損な行動になってしまいます。

これもコストダウンの意欲を削ぐ要因になっています。

3.行政機関の肥大化の問題

行政が肥大化する理由は2つあります。

ひとつは、行政の仕事や権限が大きすぎることで発生する肥大化。
もうひとつは、増え続ける公務員の新しい受け皿(職場)を確保するために発生する肥大化です。

それにより新しい組織が増えていくと、仕事の内容がかぶったり無駄が発生したりする縦割り行政の弊害が発生します。

これでは税金は、より良い社会をつくるためでなく、無駄に肥大化する行政機関を維持するために使われることになってしまいます。

4.労働生産性の低さの問題

労働生産性が低くなる最大の原因は、労働生産性の向上に励まなくても安定した収入を得られるからです。

少し悪い言い方になりますが、顧客のニーズに合うものを提供しなければ買ってもらえなかったり、労働生産性を高めないと収益を増やせなかったりする民間企業と違い、行政はどのような仕事をしても住民から税金を払ってもらえます。

また税金をごまかす人は罰せられても、税金を有効活用できていない労働が罰せられることもありません。

こうしたぬるい環境に置かれると、時間もお金も無駄にしないような働き方をしなければならないという意識が低下してしまいます。

5.政策の失敗の問題

政策に問題があると、税金の無駄遣いが発生します。

また首長が変わるたびに前の政策が否定されれば、その政策に使われてきた税金が無駄になってしまいます。

たとえ、行政が失敗を認め賠償金を払うにしても、その費用は税金です。借金の返済にもすべて税金が使われ、住民は行政の失敗の尻拭いをするはめになります。

為政者は、一方的に増税できる権限をもっていたり、失敗をしても自分の懐が痛まなかったりするので、税金の浪費に対して鈍感になってしまいます。

税金の無駄遣いをなくす難しさ

行政の問題で税金の無駄遣いが生まれる一方で、行政の仕事には税金の無駄遣いをなくすのが難しい側面もあります。

その難しさを挙げると、以下のようになります。

  1. 人によって無駄がかわる難しさ

  2.  費用対効果で測れない難しさ

  3.  無駄を削りすぎると起こる問題

  4.  時代に合わなくなる難しさ

1.人によって無駄がかわる難しさ

これはたとえば、累進課税で人より余計に税金を払う立場の人からすると、生活困窮者に対する福祉が手厚くなることは税金が無駄遣いされていると感じる度合いが高くなるようなことです。

さらに例をあげれば、美術館やスポーツ施設に多額の税金が使われることは、芸術やスポーツに関心のない人には無駄に見えやすくなるというのもあります。

これは飲み放題の食事会で、お酒を飲まない参加者が損をしている気分になるのと同じです。

だからといって、これらの事業が削減されてしまうと、弱者に冷たく、面白みのない社会になってしまいます。

2.費用対効果で測れない難しさ

これは災害をたとえにするとわかりやすくなります。

費用対効果で判断されれば、万が一に備えて行う防災の公共事業は税金の無駄遣いに選別されてしまうでしょう。

しかし恐れていた事態が現実になれば、損害額は無駄遣いと却下された公共事業の費用をはるかに超えるものになってしまいます。
そのうえ、結局はその公共事業をせざるをえなくなるとすれば、はじめからやったほうが得になります。

もうひとつ例をあげれば、人口の多い都会と人口の少ない田舎では、都会に比べ田舎で行う事業は費用対効果が低くなります。

だから格差があっていいのだという理屈になると、田舎の人にとっては同程度の税金を払っているのに費用対効果の低い、不公平な社会になってしまいます。

3. 無駄を削りすぎると起こる問題

これが起こす問題は、安物買いの銭失いになりかねないということです。

たとえば、人件費の無駄を削減するために必要以上に公務員の給与と人数を減らすとします。
そうすると、どうなるでしょう?

人手不足で仕事が回らなくなり、行政サービスが低下するのがオチです。

おまけに、更なる人手不足の悪化も招いてしまうでしょう。
安い給料でこき使われ、住民から文句を言われるでは、こんな仕事はやっていられないと離職を選ぶ人を増やしてしまうからです。

また魅力のない職場になれば、就職希望者も激減してしまうでしょう。とくに優秀な人から選ばれなくなるに違いありません。そうなると、人手不足の上に人材の質が落ち、ますます行政サービスは劣化してしまいます。

4.時代に合わなくなる難しさ

こうなる理由は、物価が変動しないことはありえないからです。

つまり年月の流れとともに、原材料などの値上がりで商品価格があがったり、テクノロジーの進歩で値段があがったり、新しい商品やサービスが誕生して出費が増えたりします。

しかし税金の無駄遣いを増やさないために、予算が増えるのを許さないとしたら、公務員の仕事だけ時代遅れになってしまいます。

これでは仕事の効率化を図れず、行政サービスも発展・充実させていくことはできません。
その結果、損をするのは、やはり住民になってしまいます。

なぜ無駄のない行政にするのが難しいか

行政の無駄をなくすのが難しい理由は、次の2つです。

  • お金にならないことをするのが行政の仕事

  • ある程度無駄がなければ公平な社会はつくれない

民間企業の仕事と行政の仕事の大きな違いは、利益追求を目的にしているか、していないかの違いです。

民間企業が利益追求をする目的は、ただお金を儲けたいだけではなく、利益をあげなければ事業を継続できないからです。

一方、行政は税収があるので、民間企業ほど利益をあげることにこだわる必要がなくなります。

だから行政は、民間企業がやりたがらない、社会的に重要でもあまりお金にならない仕事を行うことができるのです。

また行政が金儲けを追求すれば、公平な社会をつくるのは難しくなります。

たとえば道路で利益を最大化しようとすれば、すべての道路を有料にしたり、割の合わない道路は廃止したりします。
そうなると、日常生活がとても不便になり、経済活動にも悪影響が生じてしまうでしょう。

行政には労働生産性においても、それが高ければ高いほどいいといえないものが多くあります。

たとえば、消防や警察の仕事です。
これらの仕事が休む暇もないほど増えるということは、火事や犯罪が非常に多い世の中になるということになります。
これは良いことではありませんし、逆に行政コストを増やすことにもなってしまいます。

以上のようなことから、民間企業に対するのと同じ感覚で行政を評価するのは難しいのです。

スポーツにたとえれば、行政の仕事はスポーツ施設や競技のルールをつくったり、その運営をしたり、審判をしたりするなどの裏方的なものです。

それに対し、民間企業は野球選手やサッカー選手などのプレーヤーです。民間企業がそこでゲームを行ってくれるから、観客が入り利益があがるのです。

行政と民間企業は敵味方の関係ではありません。それぞれ役割が違うから、世の中はうまく回るのです。

間違った行政のスリム化とは

自治体の財政が健全化しても、行政のスリム化に成功したとはいえないケースがあります。

財政再建だけを目的にして、お金のかかる行政サービスや公共事業をどんどん削るような行政のスリム化です。

これは、住民を置き去りにした行政のスリム化です。

誰もが暮らしやすい社会をつくってもらうために住民はお金を出しあって、行政機関にその委託をしているのです。その期待を裏切ることは、職務放棄をしているのと同じになります。

確かに、自治体の持続性を高めるには財政再建は必要です。そのためには住民が我慢をしなければならないこともあるでしょう。

しかし健全なのは行政機関だけで、住民は悲惨な生活を強いられるという結果になるのは、目的を間違えた行政のスリム化であると言わざるをえません。
これでは、健康を犠牲にしても体重を減らすことを目的にしたダイエットと同じになってしまいます。

住民の体力を弱らせることは、すなわち自治体を支える力を弱らせることであり、その先に待っているのは共倒れなのです。

もちろん、住民の理想を叶える行政のスリム化は容易ではありません。
だから不可能を可能にする行政イノベーションが必要になるのです。

行政のスリム化に失敗した故郷の国

私が前に住んでいた星の故郷の国は、行政のスリム化に失敗しました。

深刻化する高齢化問題や地域格差問題、気候変動による災害の多発など行政がやらなければならない仕事量が増えているのに対して、グローバル競争の激化と経済の低迷、人口減少などで国力が低下したことにより収支バランスが崩れ、より一層、行政のスリム化の難易度があがってしまったからでした。

政府はこの問題に対して、財政赤字を重ねることで対処をする方法をとりました。
国は通貨発行権をもっているので、財政赤字で破綻することはないと楽観的に考えていたのです。

しかし通貨を発行して問題解決できるのならば、国民の負担を増やさなくても、財政難にあえぐ地方公共団体や国民皆年金、国民皆保険などの問題を解決できているはずです。もっと言えば、世界一の借金国から世界一のお金持ち国になることだってできるでしょう。

そんなことをしたらもっと大変な事態になり、偽造国家であると世界から非難されてしまうと言うのなら、いつまで経ってもこの手は使えないということになります。

また赤字を垂れ流すことはよくって、無節操に通貨を発行することはよくないという理屈もおかしなものです。

故郷の国民はそのせいで、生活の余裕がどんどん奪われていきました。

国民の生活が苦しくなれば、少子化も格差拡大も進むばかりです。
環境問題の改善も膨大な手間とコストがかかるので、困窮の度合いが増していくに従い、誰も真面目に取り組まなくなっていきました。
そして経済社会も環境もボロボロになった結果、あらゆるものが不足し、餓死者が発生する事態にまでなってしまいました。

取り返しのつかない事態になれば、いくら通貨を発行しても問題解決はできなくなります。

財政赤字を重ね問題を先送りにすれば、そういう事態に発展するのは自明の理であるのに、そうした不都合に目を背け現実世界を破壊していったことで、故郷の星は持続不可能になってしまったのでした。

問題解決の正しいアプローチ

私たちは故郷の失敗を見て、やはりおかしな方法に頼らないで行政のスリム化に成功して財政の健全化を図ることが、持続可能な社会を実現する正しいアプローチであると考えました。

行政がスリム化すれば、住民も増税に苦しむことから解放されます。

もちろんそれは、住民が幸福に暮らせる社会をつくるという行政の使命を忘れたものであってはなりません。

しかし行政のスリム化と住民が幸福に暮らせる社会の建設・維持は、トレードオフ(一方をててれば他方が立たず)の関係にあります。
住民が幸福に暮らせる社会を建設・維持するには、行政のコストと仕事量を増やすことが必要になるからです。

この難問を解決するために、どの問題を解決すれば行政のスリム化に成功できるのか、問題を整理してみることから始めました。

行政のスリム化を成功に導くたった2つの方法

問題を整理した結果、私たちが導き出したのは、次の2つの方法で攻めていくのが行政のスリム化を成功に導くルートになるということでした。

成功の秘策を見つけたぞ!

ここから先は

12,475字 / 21画像

¥ 300

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは明るい未来を創造する活動費として大切に使用致します。