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心の片隅の国へ -伝統衣装と王宮-

小さな温かい部屋で読書に耽っていると、ドアが控えめにノックされる。

扉を開けると2人のブータン人の女性。
ブータンの伝統衣装、キラを着せてくれるためにやって来てくれたのだ。

美しく織られたスカートと華やかなジャケットの組み合わせ。
拙い英語で彼女たちと、どの組み合わせしようかなどとのささやかな会話を楽しんでいる間に、キラを身に纏ったわたしがいた。

キラは女性の伝統衣装のことで、男性のものはゴと呼ばれる。
街中に出ればもちろん、一般的なデニムやダウンの装いの人もいるが、ブータンでは仕事をしている間は、このゴとキラを着用することになっている。

キラを着て、ガイドと共に街へ繰り出す。
一本道のメインストリートを歩き、ブータン人になったような気分を味わった後は、王宮でもあり、寺院でもあり、国の最高機関でもある、タシチョ・ゾンへと向かった。

要塞のような作りの大きなゾンは、わたしに圧倒的な印象を与えた。

今では、どこに何があったのか断片としか思い出せないほど存在感のある場所だった。

写真を撮ることも忘れて、夢中で目の前の光景を目に焼きつける。

一つの国を、ある場所を、心に焼き付けようと必死になったのは初めてだった。

わたしは、もうすでにブータンという国の虜になっていた。

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