生き方、暮らし方、働き方vol.06 伊藤友子さん【イベントレポート】
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長野県内には、自由に自分らしく生きている女性が多数いらっしゃいます。
女性の幸せって何?の答えは、数限りなくあります。社会の「こうあるべき」という姿から自由になって、本当に自分のやりたいことをしなやかに実践している方々のお話を伺いながら、「自分にとっての幸せって何?」を探したり、再発見したり。
第6回目のゲストは、株式会社七久里農園 伊藤友子さんです。
自分の好きなこと 心が動いたことをカタチに
「地域の優良農地を守ること」「農業を志す人を応援すること」「高品質な野菜を求めるお客様の要望に応えること」を理念に、長野県飯田市でトマトを中心とした野菜の栽培に取り組む「株式会社 七久里農園」。
豊富な日射量や昼夜の寒暖差などおいしい野菜作りに適した南信州の土地の特性を生かしつつ、ミネラルや有機肥料も積極的に使用し、作業に必要な資材も自然に優しいものを用いるなど環境にも配慮。意欲ある農業人の育成や障害者雇用を通じて、農業のみならず地域の活性化にも力を注いでいる。
夫である伊藤貴裕さんと共に、同農園を営む友子さんは幼い頃から無類のトマト好き。今もおいしいトマトのことを考えるとワクワクが止まらないという。
伊藤友子さん:「このトマトがおいしいかな」「喜んでもらえるかな」と考えながらトマトを選んで箱に詰め、お客さんに送る瞬間がいちばんの幸せ。また、割れたり傷ついたりして出荷できないトマトを生かすために2010年ごろから無添加のトマトジュース作りも始めました。この商品が、縁あって2018年にベルギーの「iTQi品評会」に出品させていただけることになり、優秀味覚賞を受賞できた時はうれしかったですね。また、2022年には西表島のパイナップル農園「西表島フルーツ」のパイナップルジュースとコラボレーションしたミックスジュース「七久里島のJ」も発売することができました。自分の好きなこと、心が動くことを無視しないでカタチにしてあげる。それが自身の心を保ち、前を向いて生きるためにも大切なことだと感じています。
0歳の娘を連れての移住・新規就農
愛知県のサラリーマン家庭に生まれた伊藤さんは高校を卒業後、親元を離れて県外の大学へ進学。理学部の研究畑に身を置き、農業とは関係のない世界を歩んでいた。そんな中、大学のある友人の一言をきっかけに自分の将来について考えるようになったという。
友子さん:私が学んでいた分野は、研究所に就職すれば生かせる仕事でしたが需要はそれほど多くない。かといって、PCを前にデスクワークをするような仕事に就く、という選択肢もなくて悩んでいました。そんな折、大学の友人の一人が「私、マカロニサラダが好きやねん!」とめちゃくちゃ明るく話してくれて。その言葉に触発されて「私の好きなものってなんだっけ」と考えた時、小さい頃からトマトが好きだなと改めて思ったんです。また、もともと理学部に入ったのも環境問題に興味があったからで「砂漠に木を植えたい」みたいなことも考えていたんですよね。トマトが好き、さらに環境問題に直結するものってなんだろうと思いを巡らせる中で「農業だ!」と。農業なら、実際に環境を変えていけるチャンスがあるかもしれないと思いました。
大学時代から実家を出ていたため、結婚するまでは親元で暮らそうと帰郷し、愛知県豊明市でトマトとマスクメロンの生産・直売に取り組む「横山農園」へ就職。それまで実家は農業とはまったく無縁の家庭だと思っていた友子さんだったが、父から「実は子どものころに農業をやりたかったけれど、病気がちだったから親に反対されて諦めた」という話を聞き、不思議な縁も感じたという。
その後、同じ愛知県の農業法人で働いていた貴裕さんと結婚。
農家としての独立を考えていた貴裕さんと共に「トマト農家」での新規就農を目指し、情報収集を重ねていった。そんな中、愛知県の農業試験場の先生から「恵那山の向こう側がいいよ」とのアドバイスを受け、ドライブがてら訪れたのが飯田市だった。
友子さん:ハウスで農作業をしていた方に話を聞いたところ「山本のあたりに空いているハウスがあるから聞いてごらん」と教えてくれて。農協や市役所に相談をする中で、借りられる広いハウスが見つかったんです!なのに住む家が見つからない。
せっかくハウスはあって、すぐにでもトマト作りたいのにどうしてーって(笑)。思えばまだそのころは、今みたいに移住が盛んではなかったから、移住者が家を借りるのってハードルが高かったんですよね。結局、最初に声をかけた方を通じて住む場所を借りられることになり、2005年に移住することができました。その時、娘はまだ7ヶ月。本当に勢いというか、やりたいという気持ちで突き進んでいましたね。
順調に進んだ起業
一方で生じた体と心の変化
こうして、2005年に飯田市山本の地で起業を果たした「七久里農園」。
二人にとってゼロからトマトを栽培するのは初めての経験だったが、周囲から教えを受けながら進め、収穫量も上々。1年目から良いスタートを切ることができたという。
友子さん:飯田市は日照量も多いですし、土地も程よく乾燥していてトマト栽培にはバッチリ。採れるトマトがおいしいから、トマト好きな私はうれしくて仕方なくて。「おいしいトマトを皆さんに届けたい」という一心で、農協に出荷したり、実家の両親のつながりで個人へ販売したりして暮らしていました。
伊藤さん夫妻の明るく人懐っこい人柄、そして「農業に心底惚れ込んでいる」姿も共感を呼び、地元の人々とのつながりも生まれる中で「あの土地が空いているよ」「使っていいよ」と声がかかるように。遊休荒廃地も積極的に借り受ける中で、2013年には農業法人化も果たした。トマトに加えて長ネギなどの栽培も行うようになり、現在は20人の社員を雇用。スーパーフードとして知られる「ビーツ」の栽培にも力を注ぐなど時代に即した新たなチャレンジも続けている。
そんな日々の中、3人の子どもにも恵まれ順調な毎日を送っていた友子さん。しかし仕事と子育てに追われる中で、39歳の時、体と心に変化が現れた。
友子さん:やらなければいけないことが山積みで、でも子どもを保育園に迎えに行く16時までには農作業も終えなければいけなくて。ちょうど暑い時期でもありましたし、もしかしたら自律神経失調症みたいな状態だったのかもしれないですけど、モチベーションがめちゃくちゃ下がって、泣けて、泣けて仕方ない時期がありました。「自分の時間も持てないし、言われたことしかやっていないし、私ってなんなの」と考えてしまって。このままでは感情や表情のない人間になってしまいそうで体調的にも精神的にも不安定でしたね。
なんとかしなければならないと、インターネットで探して見つけたのが東御市でご主人がぶどう農家を営む岡田みな子さんのブログ。好きなことを選び、自分らしい幸せを見つけていくその内容に強く惹かれ「会いにいくしかない!」と岡田さんの元へ。岡田さんが考案した「魔法の夢ノート®」ヴィジョントレーナー(認定講師)の養成講座も受講するなど学びを重ねる中で、持ち前の前向きさと明るさを取り戻すことができたという。
友子さん:この出会いを通じて世界が変わりました。「魔法の夢ノート®」は、一見キラキラした感じですが奥が深くて、心の学びも入ったワークショップのようなもの。根本がわからなければ自分を改善する事はできないと思いましたし、知りたい欲求も生まれて、講師の養成講座を受けました。
「子育てはこうあるべきだ」「女の人はこうでなければならない」など、自分自身で勝手に思い込んでしまっていたことがたくさんあったことに気が付きましたし「人間ってこういうことするために生きてるの?」「これって日本の社会だけのことなんじゃないかな?」「小さいコミュニティならこれは普通だけど、別のコミュニティにいけば非常識かもしれない」などと考えられるようになり「普通」という概念がなくなりました。
子どもたちにも自分にもやりたいことができる環境を
現在は、同じように農業に取り組む女性と「農業女子」のコミュニティーで交流し、さらに子育てを通じて仲良くなった地元の友人らとおしゃべりをする時間も楽しんでいるという友子さん。
今後の夢について「いつも笑顔であふれていて、平和で穏やかな世界になるといいですね。あ、あとおいしいトマトが食べられることは絶対に必要です!」と朗らかな笑顔で話す一方、世界の各地で起きている戦争などのニュースを目にするたびに、こんな風に考えることもあるという。
友子 自分の中にも誰かを排除しようとか、そういう気持ちはあると思っていて。まずはそこから解消していくことが大切かなと考えています。もちろん私が直接、戦争を止めることはできませんが、身近なところにいざこざがあれば、まずはそれを解決していける人間になっていきたい。そういう風に歳を重ねていきたいですね。
自分の心と向き合い、シンプルに自分らしく豊かに生きていきたい。そんな友子さんは大切な3人の子どもたち、そして自分自身にもこんなメッセージを送る。
友子:自分の心が動く、その瞬間を大切に。子どもたちも、やりたいことが見つかったらやってほしいし、やらせてあげたいと思っています。また「女性だから」「母だから」という概念にとらわれず、自分自身もやりたいなと思うことが見つかった時には、それを許してあげられる自分でありたいです。
【profile】
伊藤友子さん
愛知県出身、1976年生まれ。3児の母。大学を卒業後、大好きなトマトに関わる仕事がしたいとトマトを栽培する農園へ就職。農業法人で働いていた夫・貴裕さんと結婚し、トマトの栽培適地を求めて2005年に長野県飯田市へ移住、新規就農する。三十代後半は農業と子育てに追われ、一時は体力的にも精神的にも不調をきたしていたが「魔法の夢ノート®」との出会いで前向きな気持ちを取り戻し、学びを重ねてヴィジョントレーナー(認定講師)の資格も取得。現在は図書館でアルバイトもしながら野菜の宅配発送、無添加トマトジュースの開発・販売にも力を注ぐ。2018年ベルギーの国際味覚審査機構「iTQi品評会」で同社のトマトジュースが優秀味覚賞を受賞。2022年には沖縄県西表島のパイナップルとのミックスジュース「七久里島のJ」も販売するなど新たな挑戦も続ける。
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