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エスプレッソマシンはもう見えなくても良くなった – Kyoto Stand改装から紐解くKurasuの歩み

2024年3月、桜を楽しむ人々で賑わい出す季節を前に、Kyoto Standの改装が行われました。2023年に新たにタップマシンが設置された時を除いて、Kyoto Standの見た目がガラリと変わった改装は開店から8周年を前にこれが初めて。

カウンター中央にあったタップマシンはお店に入ってすぐのレジ横に、そこにあったエスプレッソマシンは今度はカウンターの奥側へと移動。お客様やスタッフの動線も大きく変わりました。

「なぜ今、この形で改装を行なったのか?」「そもそもKyoto Standは、どうやってできたのか?」を紐解くと、そこにKyoto Standが担ってきた第一号店としての役割、7年間の成長の歩みと京都のコーヒーシーンの変化、そしてこれからのKyoto StandがKurasuのアイコンとして存在し続ける未来への姿が見えてきました。

(話し手:YozoAyaka

—— Yozoさんにとって、Kyoto Standは初めてのお店作りでしたよね。最初の動線設計はどのようにしましたか?参考にしたデザインなどはありましたか?

Yozo:当時住んでいたオーストラリアなどでコーヒー屋さんをいろいろめぐって、いいなと思うところはインプットをしていました。狭い店内だったので、その中でどういう風にしてやりたいこと(エスプレッソ、ハンドドリップ、器具の販売など)や、当時Kurasuとして見せたかったものを見せるには?と考えていました。

メルボルンのカフェ。黒のMarzocco(エスプレッソマシン)はこのカフェで見て、かっこいいな、と感じインスピレーションになった。

Kyoto Standのメインの設備として、当時日本のカフェではまだ珍しかったエスプレッソマシンがありました。Marzoccoなど、ちゃんとしたエスプレッソマシンが置いてあるお店はまだなく、Kurasuのアイデンティティとして重要な存在だったので、まずマシンを入口正面から見える位置に置きたいと考えました。

外の通りから見える位置で、通りがかりの海外のお客様などがエスプレッソマシンを見かければ、エスプレッソやエスプレッソベースのドリンクを出す店なんだな、とわかりますよね。マシンを見ただけで入ってくれるのを狙って、外から見える位置に置いたんです。

また、エスプレッソだけでなく、プアオーバー(ハンドドリップ)も、日本のコーヒー屋さんとしてしっかり見せたかったというのがあり、角の立地で2面の窓があることを利用し、店側面の横に長い窓からはドリップするカウンターが見えるようなデザインにしました。

Kurasuの大切にしている要素としてのドリップを、一番大きな窓でしっかりディスプレイするようなイメージです。

—— まずは通りがかる人がどんなお店か気づいてくれるところからがスタート、ということですね。機材の配置や客席などは実際のオペレーションに関わる部分だと思いますが、そのあたりとの兼ね合いはどのように進めていったのでしょうか?

Yozo:それまで、お客さんとしてしかコーヒー屋さんやカフェのセットアップというのは見たことがありませんでした。

例えば、最初は入ってすぐ、前の方に席を確保して、カウンターを奥に、という案もあったんです。でもそれが、オペレーション的にどうなのか?という部分は経験がなかった。

そこで、Single O Japanの山本 酉(ゆう)さんに、設計も含めて、そもそもどういった機材がいるのか?など、いろいろ色々手伝っていただいたんです。エスプレッソ用の豆などコーヒー豆の仕入れも、マシンの発注などもSingle Oさんを通して進めさせてもらいました。

Single O Japan(シングルオー ジャパン)の山本さんと

また、オーストラリア・メルボルンのチャイブランド、Prana Chai(プラナチャイ)の日本法人を2016年に立ち上げた野村功太朗さんにも、たくさん相談に載っていただきました。

チャイももちろん仕入れているのですが、野村さんはメルボルンでバリスタとして長く働いた経験をお持ちで、人材についてもご紹介いただくなどお世話になりました。オープン当時からKurasuを盛り上げてくれているAyakaちゃんや、他のオープニングスタッフも多くが野村さんのご紹介でKurasuにジョインしてくれたんです。

—— カフェ経営の、それぞれの分野で良き相談相手に恵まれたのですね。実際の設計・建築となるとまた別のスペシャリストに関わっていただくことになりますが、店舗の内装設計は、デザイン会社さんにイメージを伝えるような形だったのでしょうか?

Yozo:そうですね。まずは自分で、エクセルみたいなのを使って図面を書いて、自分の中にあるイメージを起こしていきました。

リンサーやモップボックス、ミルク用の冷蔵庫の大きさなどを四角で表して、こうやって入れ込んで行って……(図面を見せながら)

当初思い描いていた店内図

デザインボードも作りました。全体的な雰囲気は、明るい感じの木にしたい、と思っていたんです。当時、コーヒー屋さんってなんだか「暗い」イメージがあったんですよね。静かで落ち着いた、大人のための喫茶店というか。

思い描く雰囲気に近い写真を集めたデザインボード

内装に木を使っているところも、色味が暗めの木だったりとか。Kurasuは、気軽に入って来ていただける、オープンなコミュニケーションの空間にしたかったので、色味も明るいナチュラルな雰囲気を目指しました。

デザインは、施工をご担当くださった株式会社フクケンさんのご紹介で、今栄亮太建築設計事務所の今栄さんにお願いしました。

施工中の様子

今もそうですけど、デザイン会社さんはつながりで、というご縁が多いですね。Ebisugawaのデザインをしてくださったeveredgeさんは友人の配偶者の方の事務所だったり、2050 CoffeeのデザインをしてくださったTEKI DESIGNの西永さんも、知人のつながりです。

みなさん、海外に住まれていた経験があったり、英語も話せるなど、グローバルな視点をお持ちのところがあり、国内・海外の枠組みを超えた要素を取り入れていただけるところも、Kurasuのブランドアイデンティティとリンクしています。

—— 今回、レイアウトを変えたきっかけはなんだったのでしょうか?旧動線に、使いにくさなどがあったのですか?

Yozo:ワークフローとかで、もう少しうまくできるところはあるよね、という話はしていましたね。開店当時の知識やお客様の量では、対応できていたということもあると思います。その後、タップマシンの導入や、新しい機材も入ってきたり……

Ebisugawaができたので、器具の陳列という面でも、Kyoto Standで全てをカバーする必要がなくなったし、オリジナルグッズやその場で買えるものにフォーカスすれば良いのでは、という話もありました。そういった話も含めて、現場でスタッフの声をヒアリングしながら具体的に進めていきました。
見た目が大きく変わった改装では無いですが、中にいるスタッフにとっては変化はあったんじゃないでしょうか。

Ayaka:元々のレイアウトは、実はワンオペではやりやすい配置だったんです。全部手が届く範囲にあった。それがいいところもあったので、個人的には変え難い部分もありましたね。

ただ、お客さんとして行ったときなどにはっきりと課題として見えていたのが、入り口の角に全てが集まっていたので、お客様もスタッフも団子状態になっていた、ということです。

バリスタもお客様も含めて、人が渋滞するスポットができていて、並んでいる人、提供待ちの方、など、受け渡しのところも明確ではなく、ややこしいところがありました。バリスタ目線では、カウンター内でレジ対応や人が1箇所に集中していて身動きが取れず、動線確保が難しかったです。

—— 今ではエスプレッソマシンもあまり珍しくなくなりました。また、Kurasuで本格的なエスプレッソを出す、ということも今ではよく知られています。開店当時と比べると、エスプレッソマシンの位置付けや役割が変わってきていたんですね。新しい位置はどうやって決めたのですか?それによって、ワークフローにどんな変化があったのでしょうか?

Ayaka:実は、タップマシンを導入した時には、エスプレッソマシンは動かさない前提だったんです。今話したように、ドリンク作るのも、レジも、提供も、一箇所で全て手が届くところにあったので。

でも、実際タップマシンを入れてみると、注文をいただくレジから少し離れていて、馴染みのないマシンなのに、目の前で見ていただいてご案内する、というのがやりにくく、モヤモヤしていました。なので、今回のレイアウト変更は、エスプレッソマシンを動かそう、というより、まずタップマシンの位置は絶対に変えた方がいい、という目線から始めました

Yozo:目新しい存在であるタップマシンを入り口すぐ正面のところに置くことで、レジ横で見ていただきながらのおすすめもしやすく、視覚的なアプローチができるので、売上も改装前と比べて20%増えました。

Ayaka:また、これまで通りに面した窓が、大きなエスプレッソマシンがあることで物理的に視線が遮られていたのが、視界が大きくひらけて、外で列に並んでいる方々も見えるようになりました。気持ち的にも、お客様をお迎えしやすくなりました。

Yozo:これまでは入ってすぐ水、グラインダー、パックプレス、エスプレッソマシン、といろいろなものがあったのですが、それを全て奥側に移動させ、レジとタップマシンだけを前に。そこでご注文とタップのご提供は完結して、それ以外のドリンクはご注文が終わったら奥へ移動していただいて、そこでドリップやエスプレッソベースのドリンクを作ってご提供する、という流れができて、お客様の循環がうまく作れるようになりました。

Ayaka:商品の受け渡しの流れも、明確になりましたね。ドリンクを作るセットアップも、オープンなところに置くことで、スチームする人、ドリップする人、という連携が余裕をもってできるようになりました。

一番手前にレジとサポート担当、その奥にエスプレッソ係2人、と忙しい時期でもオペレーションの流れが良くなりました。

—— 今回の改装では、その他にはどんなところが新しくなりましたか?

Yozo:バックヤードとして使っていた奥の部屋との間仕切り壁を無くして広くしようとか、バックヤードのエリアとの間に新しくドアを作ろうかとか、いろんな話が出たのですが、動かせない電線があるなど、実際には制限があることがわかりました。

そのなかで解決できることとして、店舗の建物の2階と3階にドアが閉まる部屋を設けたり、2階は畳の部屋を作って、キッチンも使えるようにして、スタッフのお昼休憩が快適にできるように整えたりしました。

あとはバックヤードを倉庫にして、ラックを置き、冷蔵庫も大きいものを置いて使いやすくしました。

—— 動線もそうですが、スタッフの働きやすさや居心地の良さにもフォーカスした改装だったんですね。

Yozo:Kyoto Standのイメージや見た目は、今でもすごくいいと思っているので、今回の改装で外装もがらりと変えることはできたけれど、変える必要はない、と判断しました。どちらかというと、オペレーションの変更や汚れ・傷みの補修がメインになりましたね。

—— 今回の改装は、桜の季節の繁忙期直前に終わりましたよね。営業に影響はありましたか?

Ayaka:3月21日から、2週間お店を閉めて行いました。でも、数字には思ったほど影響はなく、終わってみれば去年の3月よりも売上が多いほどで、ほっとしました。

改装後は、お客様が「お店に入って注文しよう」と思えるような空間になったと思います。ドリンクを待っている人がいるエリアと、注文するところとがはっきり分かれて見えるので、混んでいるのかどうかがわかりやすくなりました。入り口に人やモノが固まっていない分、広さを感じやすくなったのもあると思います。

あと、リニューアルオープン後ということで、スタッフも人数を多めに待機したので、回転数もよかったです。また、外のテーブルもできたので、席数も増えましたね。

—— 今回の改装で働き手の心境やモチベーション、店内の雰囲気に変化はありましたか?

Ayaka:ワンオペで回さないレイアウトになったので、人数が増えて、それだけでもモチベーションが違いますね。皆、チームワークを生かしてやろう、という気持ちでできていると思います。

これまでは、忙しさもあり、ドリンクを作るのに一生懸命になってしまう時があるのが気になっていたんです。でも、ワークフローが整って、オペレーションにも余裕ができて、オープンな空間でお客様にもより目を配りやすくなって……お店の雰囲気作り、体験作りにより意識を向けやすくなりました。

一つ課題があるとすれば、お店の一番奥の、商品陳列棚への動線でしょうか。オリジナルグッズ、店頭で使用しているカップ、豆、カプセル、ドリップバッグなどを販売しているのですが、そこまでたどり着いたお客様が、何か気に入ったものを買おうと思うと、入り口まで戻って、ドリンク注文の列にまた並び直さないといけない。

器具などの商品用に、奥にもう一個レジがあったらいいな、と思っています。

Ayaka:今回の改装で、改めて、Kyoto StandがKurasuの各店舗のロールモデルでありたい、という事が確認できました。

Kurasuの接客スタイルや、小さい空間で、早いスピードでもスタンダードが守られるサービスの質などは、Kyoto Standに立つことで身につけることができます。

常にお客様に面した作りで、オーダーを取る時も、ドリンクを作る時も常にお客様を気にかけて働くことのできる空間です。また、京都駅近くの店舗なので、初めましての方も、KurasuのSNSなどの長年のフォロワーで、今回初めて日本に来て……というような会話が生まれることもすごく多いお店なんですよね。

今後、オフィスであるHQでも充実したコーヒーの勉強ができるような環境をどんどん整えて行く予定ですが、オペレーションや接客、Kurasuの原点を体験するという意味で、Kurasuで働く人がKyoto Standに立つことはすごく大切な意味を持っています。

Kurasuがどんなコーヒー体験を提供しているのか、既存のスタッフがお客様とどう接しているか、なども見てもらえるいい機会になるので、今後は職種問わず、入社したらまずカフェに立ってもらって、雰囲気やお客さんとのコミュニケーションを現場で体験してもらうようなことも考えています。

Kurasuが初めてお店の形になったKyoto Stand。その成り立ちと、たどってきた変化、成長するにつれて新しく生まれたニーズや課題、そしてこれからどうなっていきたいか——今回の改装には、そんなKurasuのエッセンスがぎゅっと詰まっているように思いました。Yozoさん、Ayakaさん、ありがとうございました!

Kyoto Standからのお知らせ

Kurasu Kyoto Standでは、8月9日〜12日の4日間限定で、8周年記念スペシャルドリンク「プレミアムエスプレッソトニック」をご提供しています。ぜひ、Kyoto Stand8周年のお祝いにいらしてください!

チームメンバーを募集しています

Kurasuでは現在、事業拡大にともない採用活動を強化しています。私たちのビジョンに共感してくださる方、より良いコーヒーの未来を共につくってくださる方を募集中です。まずはカジュアルにお話しましょう。Wantedlyからお気軽にご応募ください!