《取材記事①》ながく、つかう『漆の無限の可能性に魅了されて』
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《取材記事①》ながく、つかう『漆の無限の可能性に魅了されて』

想いをこめた「手しごと」と、「食」、作り手と使い手が出会える新しいクラフトイベント「くらしずく」。いよいよ開催まで1か月を切りました。

今回のテーマは「ながく、つかう」。
くらしを豊かにする、世界に一つしかないものを、丁寧に手入れをし、使い続ける。長く大切に使われてきたモノに込められた「想い」をつなぐ作り手と使い手の新しい物語を、ここから紡いでみませんか?

開催に向け、作り手が大事にしている「ながく、つかう」を取材しました。取材したのは、水野谷八重さん。「くらしずく」では、金継のワークショップを開催します。
彼女にとって「ながく、つかう」とは。

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こちらの記事は3回にわたりお届します。
第1回 9月6日(木)、第2回 9月13日(木)、第3回 9月20日(木)

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 第1回 『漆の無限の可能性に魅了されて』

水田を取り囲む森から、わき上がるように蝉の声が生まれてゆく。早くも首を垂れ始めた稲穂をさわさわと揺らす風は、濃い夏の色を広げた空に舞い上がっていった。
房総半島内陸にある長柄(ながら)という小さな町の、ごく当たり前の風景。その田舎道に立つ『この先行き止まり』の看板に逆って、谷津田の奥へと進む。

木洩れ日の庭に足を踏み入れると、木陰に懐かしいビニールプールやブランコが。アトリエの脇には整然と薪が積まれ、ちいさな菜園に実るミニトマトが緑の庭に彩りを添えている。「日々の生活を楽しく」・・・漆作家、水野谷八重さんのものづくりに対するその姿勢が、そのまま暮らしの風景になっているようだった。

八重さんと雄大さん、みことちゃん。自宅の庭にて

八重さんはご主人の橋本雄大(たけひろ)さんと、2歳になる娘のみことちゃんとの3人暮らし。雄大さんは小学校の先生をしながら、鉄作家として活動。八重さんのアトリエとは別に、家の裏山の中腹に雄大さんの作業場が設けられている。庭やアトリエ内に点在しているひょうきんな鬼の顔や、おばけのキャラクターの造形は、みな雄大さんによるものだ。

この日は涼やかな装いの八重さん。耳元のピアスがよりシックな印象を引き立てている。

「このピアスは麻糸を編んで、編み物みたいにしてから漆を染み込ませて固めているんです」と、その漆のピアスにそっと手を触れる八重さん。その深みのある艶は、見つめていると吸い込まれてしまうかのよう。素材のベースが布であるため、重さが軽いのが特徴だという。

「金属のピアスだと耳に付けると重くて疲れますし、ブローチも重みで服が下がったりしますよね。でも、これだとまるで気にならないくらい軽いんです」

そういう意味ではデザインの良さだけではなく、機能的である、とも言える。

「その辺は重要っていいますか。一時期、伝統工芸みたいなこともやっていたんですけども、でも、飾るだけであまり使わないのはどうかなと。自分が使いたいものとか、同年代の友だちとかが使ってくれるような漆をやりたいなって思っていて。特に漆の場合は、特別なものというイメージがあるじゃないですか。ずっと仕舞われてしまうのはもったいないと思うんです」

元々、陶芸の道を志し、東北芸術工科大学に入学した八重さんだったが、1年生の時に初めて漆に触れてからは、すっかり漆芸に魅了されてしまう。その時のことを

「漆と波長が合った」

と振り返る。

「同じ工芸でも作業が違うんですよ。陶芸は瞬間瞬間で形になる。すぐ形になるじゃないですか。瞬発力がいるというか。逆に漆の場合は時間がかかる。でも、じっくり作れるんです。少しずつ前に進めていく工程が、自分には合っているなと思って」

そんな八重さんが行っている技法が「乾漆」だ。

レモンを添えたグラスをイメージして製作したという、遊び心あふれる椀。黒漆に金箔で模様を描いた

乾漆とは、石膏や木で型を作り、型に沿わせながら麻布を漆で貼り重ねて造形物の素地を作る技法で、能登の輪島塗のように、木地に漆を塗り重ねていく塗物のやり方とは異なる。例えば輪島塗の椀なら、木地がその形のベースになるが、乾漆で作った椀は、麻布と漆で作った素地自体がボディとなる。

また、輪島塗のような、いわゆる伝統工芸の漆芸は木地師、下地師、塗師といった具合に分業化されているのが一般的。一方で、乾漆では分業化されておらず、型作りから塗り、加飾までを一貫して行われることが多い。そのため、一人で担う工程が非常に多くなる。

「漆って『塗り』という印象があると思うんですけど、どちらかというと『下地』の仕事です。表面にある凹凸を、できるだけなくすように下地作りをするんです。仕上げに漆を塗る時など、後々の仕事に響いてくるので。だから、ひたすら研ぎます。」

貼り終えた麻布の表面に、漆や珪藻土などを混ぜた下地を塗り、乾いたら研ぐ。そうしたら、次は粒子の細かい下地を塗り、乾かして研ぐ。その次はさらに微細な下地を塗り、やはり乾かして、また研ぐ・・・

「この繰り返しです。最終的に表面がつるんとなってきたら、ようやく漆の塗りに入るんです」

伺っているだけでも根気のいる作業であることが伝わってくるが、

「大変だけど、その大変さが楽しい」

と、さらりと言う八重さん。それは、漆の無限な可能性に触れる悦びでもある。

乾漆では麻布を漆で貼り合わせて素地を作る。写真は2枚重ねた状態。作品にはだいたい5枚を重ね合わせて素地とする

「漆はどんなものにも塗れる。自由度が高いんですよ。素材が漆を吸ってくれれば様々なものを固められるから、他の素材との組み合わせも無限にできる。それに私、色漆が好きなんです。油絵みたいに色と色を混ぜて中間色を作ってみたりして。漆って、赤や黒のイメージが強いですが、それだけじゃないんです。漆の可能性はもっといろいろあると思ってやっています」

色漆を施した椀。漆の色彩は暮らしの様々なシーンに馴染んでくれる。

そう話す八重さんが今、のめり込んでいるのが、乾漆で行うバッグ作りだ。

乾漆で作り上げたバッグ。上部の蓋は麻の素材感をあえて残してアクセントに

「形を作って、それを持ち歩ける。それが面白い」

自身が製作した漆のバッグを手にする八重さん見て思った。漆の可能性への探求が、ふだんの暮らしの中で使われることの楽しさに結びつく。そこに、美しいワンシーンがあるのではないかと。さらに、八重さんはその作られる「過程」にも悦びを見出せる方なのだと。

自ら作った漆のバッグを手に、八重さん

取材・撮影:暮ラシカルデザイン編集室 沼尻 亙司
編集:くらしずく実行委員 三星千絵

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《9月23日(日)くらしずく2018にて開催。》

「ながくつかう」金継ワークショップ【初級編】
講師:水野谷八重

金継ぎは割れたり欠けたりした器を漆で補修し、金粉などで加飾する日本古来からの修理方法です。
今回は初めての方でもできる、初級編の金継ぎワークショップです。欠けてしまったお気に入りの器をご自分の手で素敵に甦らせてみませんか?

募集内容
●時間 午前の部 10:00−12:00  
   午後の部 13:30−15:30
●定員 各回8名
●参加費 3,000円お茶代+送料
●持ち物 欠けのある器1点
     *欠けの大きさは2㎝以下の小さなもの
     *今回は割れ、ヒビの修理は不可(修理のご相談はお受けいたします)
     *スペースの関係上大きな器(径30cm以上)はご遠慮ください
●申込み方法 予約は電話またはメールでの受付となります。定員に達した場合は先着順に締め切らせていただきますので、ご了承ください。
電話:0475-76-3551(菅原工芸硝子 月~金 10時~18時)
メール:kurashizuku@gmail.com

●作業内容 欠けた部分をパテで埋めて漆を塗り、金粉(銀粉)を蒔くところまで行います。器は一旦講師がお預かりし、仕上げ作業をしてから後日郵送でお返しします。




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暮らしをより豊かにしたいと願う使い手と。 使い手の暮らしを想い、作品を生み出す作家と。 その双方が出会い、心を通わせることが出来る場をつくりたい。 そんな想いから生まれた新しい形のマーケットイベント『くらしずく』の実行委員会が綴っています。