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子どもが入院した寂しさを埋めた”あの壺の話” よなよなふうふ話01

「くらしてん」をやっている私たち夫婦は、よなよなよく長話をする。

ネタは、なんとなく「くらしてん」に通ずる暮らしの話だったり、空間の話だったり、面白かった本の話だったり(そう、この手の話が多い)。とりとめのない会話だけど、なんか気づきもあって、自分たちは面白く感じている。
これは、そんな”よなよなふうふ話”の記録です。
少し堅い話もあるけど、夜のテンションで許してもらおう。

子どもが入院した寂しさを埋めた”あの壺の話”

otto:この間、うちの子入院したでしょ※。
※この夏、子どもが”川崎病”という病気になり、1週間入院した。

yome:コロナ禍で付き添いの交代もできず、1週間家族離れ離れだったね。

otto:こっちは3人でいた日常の暮らしが急に無くなって、がらんとした空間に1人(と1匹)になったから、虚無感みたいなものがきて、すごい寂しかったんだけど。そういう感傷に浸る期間が1、2日あって、そのあとで何にも無くなるのよ。

yome:やることが?

otto:これまで話す相手がいて、感情を動かすものがいたけど、感傷期間を過ぎると、それがなくなって”感情を動かせない”って状態になるの。だから、本を読みだしたんだけど。せっかくだから難しめのやつ。

yome:だから退院したら”積読”がすごかったわけね。

otto:最初読み始めたのは「構造と力」で。

yome:あの壺が出てくる難解な本…。

otto:クラインの壺ね。そこの話もあるんだけど、基本的にはこれまでの構造主義の流れについて解説している本なんだよね。自分たちの行動が環境の構造によって規定されているっていうことが構造主義なんだけど。

で、読んでみて、そういうところにやっぱり興味があるんだなと思った。「くらしてん」で同じ地域の何人かの暮らしを見ていると、地域の構造みたいなものが透けて見えてくるんじゃないかと思っているところが共通してる。

yome:その人自身の暮らしももちろん面白いんだけど、集めていくと別の角度で興味深いところが出てくるっていうことだよね。

otto:そうそう。だから、入院期間中、その再確認をしたって感じがする。

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※例の壺はこちら↑↑

哲学の抽象さと”ココアの話”

otto:そこから哲学書にはまって読んでいるわけなんだけど、哲学書って面白いんだけど、読めば読むほど虚しくなってきちゃうというか。

この本では、人類何千年というものすごい長い年月の営みを、ものすごいわかりやすく、つまりこういうことって説明しているわけだけど、そうすると自分とかその辺に歩いている人の存在とか”どうでもいいじゃん”って思えてくる。
抽象化されたその論の中には具体的な話がないから、具体的な存在の価値みたいなものが希薄な気がして、虚しくなるというか。

yome:そうそう、哲学って抽象的であることもそうだし、時代背景はあるとしても、具体的なところが薄いから古びない感じするよ。って、哲学をわかってないまま哲学科卒業した私が言うのはなんだけど。

なんか、その話してて思ったんだけど、岸政彦さんの「タバコとココア」の”ココアの話”みたいなものはその対岸にあるようで、でも人間や社会を理解するっていうことの一つだなって気がする。エピソードのなんてことのない断片から、その人の境遇や環境や社会、その人の心情を理解するっていう感じなんだけど、その”ココアの話”は、痛さと苦しさを伴ってそれが理解できる感じで。

otto:誰も相手にしてこなかっただろう個人のエピソードから、そこにある社会、生活の構造を理解するっていうね。結局、そっちの方が哲学よりも興味があるんだよね。

yome:ちょっと外れるかもしれないけど、歴史も哲学と似ているというか、選ばれた強い者の視点で語られているものだから、そこから抜け落ちているものがあるんだよね。網野善彦さんの歴史の本はその抜け落ちたところを拾っている感じがしていいんだよね。「異形の王権」とか、後の時代には差別されてしまう異形の人たちが普通に溶け込んでいた時代があり、それを使った王権が存在したっていう話で、メインストリームの人たちがスポットを当ててこなかった事実に出会う面白さがあってさ。

otto:だから、「くらしてん」みたいなことをしているっていう感じがするよね。


<出てきた本>

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atプラス28 特集「生活史」(太田出版)
※ここに入っている「タバコとココア」(岸 政彦著)
この号の特集は「生活史」。生活史とは個人の生い立ちと人生の語りを指す社会学の調査の一つだったらしい。どれも興味深いのだが、やっぱりココアのエピソードが、自分のココアの意味を変えてしまうほど、深い。

構造と力 ー記号論を超えて/浅田 彰著(勁草書房)
難解なので、動画などで一回要約されたものを見ておくとよさそう。調べたら、著者の浅田さんは20代あたりでこれを書いたというのでびっくり。

異形の王権/網野 善彦著 (平凡社ライブラリー)
絵巻物を中心に「異形」の人について語るパートと、その「異形」を活用して権力を持った王権のパートとで分かれていて、絵巻物をこうやってみると面白いんだ、ということに気がついた本。

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