見出し画像

「一生もの」って必要ですか?

今日の「時々、コラム。」は、「一生もの」の意味について。

25歳くらいの時、企業の総務課に勤務していた私は、女性の上司から「いい大人なんだから、きちんとした礼服を持っておきなさい」と言われ、とあるフォーマルウエアの展示会に連れて行かれました。

そこで女性の店員さんに「礼服は黒で差が出るから」と言われ、「この礼服はね、一生ものだから。本当にいいものだから」と勧められるがままに一着のフォーマルウエアを購入しました。
その額、およそ7万円。

ワンピース+ジャケットのフォーマルで、少し凝ったデザインでした。「一生ものかあ」と思って、ほくほくしたのを覚えています。

その頃…20代半ばの私は、「一生もの」という言葉に弱い人間でした。独身でお金がある程度自由にでき、巷にはファッション雑誌が溢れていて、私はかなりのブランド信仰者でした。高くても長く使えるものを身につけよう、というメッセージに、何だかすごく大人になった気がして夢中になりました。

そんな経緯もあって7万円で購入した礼服ですが、結果から言うとその礼服を一生着る、ということはありませんでした。
というのも、30代後半あたりから「ひざ丈の短さ」が急に気になり始めたのです。
20代半ばの自分にとって、重要視すべきなのは「一生着られるかどうか」であり、「そのデザイン、おばちゃんになっても着れるの?」という疑問は当時はまったく浮かびませんでした。そして、店員さんは誰も私に「そのひざ丈で10年後も着れますか?」とは聞いてくれなかった。

その結果、30代後半には「ちょっとひざ丈短いわ…」と思い始め、そう思い始めたら気になって仕方がなくなり、結局手ごろな値段のフォーマルウエア(当然、ひざ下丈の)をネットで購入し、その7万円の礼服の出番は終わったたのでした。

約10年の期間で、その礼服に袖を通したのはおそらく、20回もなかったと思います。7万円という金額が見合っていたのかどうか、今となっては甚だ疑問です。

長く使える、ということはもちろん大切だけど、その前に、自分がそれを「本当に長く使うのか」という根本的なところに立ち返る、そのひと手間を省いてしまっていたなあ、と思います。「一生もの」という言葉に踊らされ、盲目的に「いいもの」と思ってしまうことって、実は危険なんじゃないか、と、この一件が考えるきっかけに。
もっと自分に想像力があったら…と、悔いの残る買い物になりました。

「一生使える」ことと「一生自分の人生に寄り添ってくれる」ことは、実は違うんだ、ということを知っておくと、モノを購入する時に少し、選択肢が増えるんじゃないかと思います。

たとえひざ丈が短かろうと、「私はこれを一生着る!」と思うことができれば、それはいい買い物だし、そうじゃなければ、もっと無難なデザインのものを選んでおいた方が良かったのかもしれません。

何しろ若い頃は、自分がおばさんになってひざ丈を気にするようになるなんて想像もしていなかったので…。
仕方がないことなのかもしれませんが、でもそれでも、もう少し多角的に考えることができていたら…と、今でも礼服を身につける時にちくりと胸が痛くなるのでした。

……なんだか話が「ひざ丈」のことに終始してしまったのですが、言いたいのはそこではなく…。「一生もの」という言葉に踊らされることなく、ちゃんと自分の暮らしに照らし合わせて選びたいですよね、ということが言いたかったのです。

そして、自分が50代を迎えてあらためて、「人生100年」と言われるこの時代に、今後の暮らしを楽しむためには何が必要なのか、をもっと考えたいなあ、と思っています。
30代の頃、40代の頃とは、モノ選びの基準が大きく変わりました。ともすれば、それを「歳、とったなあ」とため息交じりに嘆いてしまいそうです。

でも、もっと前向きに考えられれば、と思うのです。

それは例えば「動きやすい礼服」なのかもしれないし、「歩きやすい靴」なのかもしれない。あるいは、「筋力を維持する運動器具」だったり「楽に料理ができる軽い鍋」なのかもしれません。

どれも、若い頃には想像もし得なかった選び方です。
逆に、いま「一生ものですよ」と勧められても、そんなに惹かれない。

今、自分の暮らしに寄り添ってくれる大切なものは、アンティークだったり、椅子だったり。

ストウブやル・クルーゼの鍋は、重たくていつか使えなくなっても子どもに受け継ぎたいなと思っているので、それも「一生もの」と言えるのかもしれませんね。

20代、30代くらいの時は未来がまだぼんやりしていて、だからこそ「一生もの」「一生使える」という言葉が輝いて見えるのかもしれません。面白いですね。

歳を重ねるごとに買い物をする時の「選び方」は変わるけれど、それをネガティブなことととらえず、「暮らしを楽しく」という目線でモノと対峙できたらなあ、と、そんなことを考える日々です。


サポートありがとうございます。とてもとても励みになります。 島根を中心としたNPO活動に活用させていただきます。島根での暮らしが、楽しく豊かなものになりますように。