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「素敵なものは、素敵。自虐ではない伝え方で。」について考えていたら、もう一歩進みたくなりました。

2月21日に綴ったコラムについて、あらためて自分たちが思う島根の魅力、のようなことを書いたのですが、いろいろと反応をいただきありがとうございました。

この、「素敵なものは、素敵と言おう。自虐ではない伝え方で。」という考え方は私たちくらしアトリエの芯の部分にずっと息づいているものです。

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私が子どもの頃、田舎は確実に都会より下に位置付けられていました。どこの出身なのか…すなわち「どこに属していたのか」はコミュニケーションをとるうえですごく大切なことで、東京がとにかく一番。ゆるぎないものでした。産業化が進み、人が以前よりも土地に縛られなくなり、「おれは村を出ていくんだ!」「東京で一旗揚げるんだ!」的なムーブメントの先に、若者がいない地方が出来上がる。都会は賑やかで人が多く、地方は静かで人がいない。それは人の流れに従うもので必然なのだけど、そこで「賑やかなほうが偉くて、静かなのは恥ずかしいこと」という暗黙の了解ができてしまった。そんな無言の植え付けが、ずっと前、子どもの頃から漂っていた空気だったと思います。

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実際に大学進学の時に「島根出身」というのを隠そうとしたという人は何人も知っていますし、「広島の上のほうから来ました」みたいな謎の自己紹介をしたという人もいます。私自身は地元の大学に進学したのですが、逆に遠方からわざわざ進学してきた同級生の子たちに「…なんでわざわざこんなところに?」と聞いてしまうくらいには、自分が住む土地の魅力が見えていませんでした。

そんな環境下で育った女性3名がいろいろあって覚醒し、「住んでいる土地を好きになろう」というコンセプトで活動を始めたとき、そもそも「島根が好き!なんて大々的に言っていいんだろうか」という不安がありました。「何言ってるの?田舎者のくせに」と変に思われないだろうか、賛同してくれる人が果たしているんだろうか。手探りの中で始めたウェブでの発信に、静かに、でも確かに答えてくださる方々がいました。「私も住んでいる土地を楽しんで暮らそうと思いました」という声も、本当にたくさんいただきました。

ウェブでの発信が活動の軸だったことで、島根や山陰にとらわれず、「どんなところに住んでいても、自分の身の回りの物事に目を向け、それを楽しむことができれば、人生はきっと豊かになる」という普遍的なメッセージを伝えることができたのだと思います。

※私たちが「島根の魅力を伝える」ことと「住んでいる土地を楽しむ」ことを同義として考えているのは、これらの経験からきています。自分たちは島根にいるからこの土地の魅力を発信するけど、島根に暮らすことを絶対条件に考えているわけではありません。子どもたちにも、外の世界をよく見てほしいから、無理に帰ってこなくていいよ、と話しています。例えば新潟に住む人は新潟の良さを、鹿児島に暮らす人は鹿児島の魅力を、それぞれに感じて誇りに思って暮らすのが一番で、その積み重ねで地域が元気になるんじゃないか、だから暮らしを楽しむことはそれぞれの地域にとって一番の地域貢献なんじゃないか、と考えています。「ここが好き」と「どこでも楽しく暮らせる」はダブルスタンダードみたいなのですが、どちらもゴールは同じだと考えているのです。

サイト立ち上げ当時の15年前、今で言うところのInstagramのような画像のコミュニティ「clip」をサイト上に作っていたのですが(先見の明があった…とスタッフ間で言っています)、「近所の桜の花が咲きました」「今日は雨だったけど紫陽花がきれいでした」「子どもとお出かけしました」など、皆さんが次々に日々の暮らしを楽しむ様子を画像で教えてくださって、住んでいる土地を大切に思いながら暮らしを紡いでいる方がこんなにたくさんいらっしゃるんだなあ、と驚いたのを覚えています。それがある意味、「住んでいる土地を楽しむ人々の可視化」の第一歩だったのかもしれません。

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ここ10年で地方をとりまく状況は劇的に変わりました。ひとつにはインターネットの飛躍的な進歩。もうひとつは東日本大震災。「自分はどこで暮らすべきなのか」あるいは「いっそホームなんてなくてもいいのではないか」、「会社に属する」ということからの脱却、「仕事」の概念の変化…そんな環境の変化の中で、地方で暮らすということはもはやマイナスではなくなり、強みとさえ言われるようになりました。

海辺のピクニック朝市2

なので時々、「くらしアトリエの役割はもう果たされたのではないか」と思うことがあります。もともと、「子どもたちが島根を巣立つときに、いいところだった、友達にもその魅力を伝えたいと思ってもらえたらいいな」という野望のもとに活動を続けてきた部分もありましたが、その目標はすでに果たされてしまった。周りの人たちもみな「島根いいね」と言ってくれているし、そう言ってもいい時代になった。そんな中で私たちがやるべきことってまだあるのかなあ、と考えることもありました。

でも、立ち上げてから今までに出会った「静かだけれど、確かにいる」人たちの存在が、やっぱり私たちにはかけがえのない財産だし、そういう方こそが地域にとっては大切なんだと感じています。声は大きくないから普段は見えないけれど、ちゃんと土地の魅力や課題に向き合える、そんな方たちに向けて、淡々と、「素敵なものは素敵、と言おう。住んでいるところを大いに誇り、それを発信しよう」と伝え続けることが、やはり自分たちに与えられた役割なんじゃないかと思っています。

現在、住んでいる土地を楽しみ、素直に素敵なものを素敵と言う、そんな人たちを可視化できるようなプロジェクトを鋭意企画中です。

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えいえいおー!と声を上げなくても、はっぴを着なくても、インスタ映えしなくても、(美肌じゃなくても、タピオカドリンクを作らなくても、)ただただありのままに、「いいよね」と言い合える島根を、もっと当たり前に、たくさんの人に伝えられるように。そんな思いで、企画を進めていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。


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