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洋菓子屋「ラ・クレーム デ・クレーム」さんのこと。おいしいものを作るということ。

今日の「時々、コラム」はいつもとは少し内容が変わりますが…。

くらしアトリエが立ち上げ当初からずっとお世話になっていた松江市の洋菓子店「ラ・クレーム デ・クレーム」さんについて、今日お店のほうから正式なお知らせがありましたが、4月にオーナーシェフであるご主人が空へと旅立たれ、5月末をもってお店は閉店となりました。

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私たちにとってはかけがえのないお店だっただけに、いまだに現実を受け入れ切れないでいます。

4月、ご主人が旅立たれたというご連絡をいただき、お別れの場にも参列し、「故人の思いやお店のストーリーを最後に映像に残したい」というご家族のご意向のもと、動画制作のお仕事をさせていただきました。

※動画はお店のご意向で、現在は閉じられています。

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ずっと当たり前においしいケーキがあって、楽しいお人柄のご主人がいらっしゃって、お店にうかがえばいつも明るい声で迎えていただける、そんなお店でした。

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ケーキの撮影やパッケージ等のデザインのお仕事を通してはもちろんですが、プライベートでも、誕生日にクリスマスに、あるいは落ち込んだ時、疲れた時に、いつも幸せな気持ちをくれた、本当に大切な存在。

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同じように感じていらっしゃる方も多いのではないかと思います。

動画は、奥さまをはじめとするご家族が過去に撮影されていた映像やケーキの写真と、私たちくらしアトリエが撮影していた、本当にたくさんの写真の中から、ご家族のご意向をうかがいつつ、時間をかけて制作させていただきました。

背景に流れているギター音源も、今回の動画のために録音されたもの。素敵ですよね…。

写真を見るとどうしても当時のことを思い出してしまって、なんとも切ない気持ちになってしまいますが、時にご家族と一緒に思い出を語り合ったりして、とても特別な時間でした。
お店が大切にしてこられたものや、関わってこられたたくさんの方への感謝の気持ちを、1本の動画にのせる、ということで、大変責任のあるお仕事でしたが、最後にこのお仕事を担当させていただけて本当に良かった、と思っています。

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ご家族が思い入れのあるお菓子を中心に、お客さまに愛着のあるであろうクリスマスケーキなど、動画をご覧になる皆さんにも「ああ、このお菓子食べたなあ」と懐かしく思い出していただけるように…。

こんな形で思い出を振り返ることになるとは思っていませんでしたが、皆さんの心の中にも、記憶がふっとよみがえっていただけたら嬉しいです。


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「ラ・クレーム デ・クレーム」さんは、くらしアトリエにとっては本当にかけがえのないお店でした。何度も救われ、助けていただきました。

20年前、「おいしいケーキ屋さんが島大の近くにあるよ」という話を聞き、買って食べたケーキが本当においしくて。シンプルで果物がみずみずしくて、生クリームの甘さややわらかさのバランスが本当に素晴らしく、すぐにファンになりました。その時点では、普通に「お気に入りのお店」だったラ・クレーム デ・クレームさん。

そして15年ほど前。くらしアトリエの立ち上げ当初、お花と雑貨を組み合わせた商品企画を行い、全国発送していた頃(まだネットショップ、という規模のものでもありませんでした)のこと。お花と組み合わせる商品がなかなか決まらず、企画が難航したことがありました。

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その日も、依頼をしていた作家さんに断られてしまい、どうしたものか…とほとほと困り果てていて…。「じゃあいっそ、自分たちが大好きなお店にダメもとでコラボをお願いしてみたらどうだろうか」ということになりました。

何しろ、当時の私たちはまだ何者でもなく、存在も知られておらず、ただやりたいからやってる、みたいな、何というか…若かった。
「大好きなお菓子屋さんにコラボをお願いしてみよう」というのは、今から思うと非常に行き当たりばったりなアイデアでしたが、落ち込んだ勢いもあって「ダメでもともと!」と変なエネルギーが出て、アポなしでお店に飛び込んだのです。

話したこともないオーナーシェフに「実は私たち…」と拙い説明をしたところ、意外にも二つ返事で「いいですよ!やりましょう!」と言ってくださった、その時のご主人の声や笑顔は、今でも忘れられません。なんと、奥さまが少し前から私たちのホームページを見てくださっていて、存在を知っていてくださったのでした。あのとき笑顔でOKをいただけなかったら、くらしアトリエが今のように活動していることはなかったかもしれません。

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その後、クッキーとお花を組み合わせた商品を企画して発送したところから、私たちとラ・クレーム デ・クレームさんのお付き合いが始まります。

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作り手の方と一緒にお仕事をする、ということの責任や、出来上がったときの充実感、お客さまに喜んでいただく嬉しさ…みんな、ラ・クレーム デ・クレームさんが教えてくださいました。

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大好きなお店と一緒にお仕事ができることは本当にありがたいことであると同時に、いろんなことを学ばせていただきました。どれも本当に、得難い経験でした。この出会いがあったからこそ「くらしの学校」が生まれ、「シマシマしまね」が生まれたのだと、振り返ってあらためて思います。

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また、未熟で経験も浅い私たちがいろんな失敗をして落ち込んだ時も、ご夫婦で笑顔で励ましてくださいました。
「全然気にしなくていいですよ。なあに、次頑張ればいいんですよ!」とおっしゃってくださった、その声と笑顔に、本当に救われた場面がたくさんあったのです。

いろいろな記憶が鮮やかによみがえりますが、その中から、ラ・クレーム デ・クレームさんとの大切な思い出を少しだけ、綴ってみたいと思います。


◎「暮らしを楽しむ朝市」のオリジナルキッシュ

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雲南市木次町の「健康の森」で開催した「森の冬じたく朝市」。

このイベントで初めて、オリジナルのキッシュを焼いていただきました。
開催地にある木次乳業の牛乳やチーズを使って作ろう、ということになり、奥出雲舞茸を具材に入れることに。舞茸が栽培されている場所まで直接買いに行ったのもよい思い出です。

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試作を経て出来上がったキッシュは本当に素晴らしくて…キッシュの生地がお菓子屋さんならではの繊細さで、クリーミーなフィリングとの相性が抜群で…。

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あんなにおいしいキッシュはもう二度と食べられないと思います。

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その後、松江市島根町で開催した「海辺のピクニック朝市」では「海のキッシュ」、お米がテーマだった「秋のおむすび朝市」では「お米のキッシュ」と、おいしくて、まさにオリジナルなキッシュを焼いていただきました。

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朝市といえばキッシュ、ということで楽しみにされていたお客さまも多くいらっしゃったのですが、一度に焼ける量に限界があり、すべての方に食べていただけなかったのが申し訳なかったなあ、と今でも思っています。

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お店の営業もある中で、試作にも本当に時間をかけていただき、いつも期待以上のものを作ってくださって、感謝しかありません。


◎プリンアラモードと桃のパルフェ

「シマシマしまね」が始まってから、お持ち帰り用のちょっと豪華なスイーツを作ってほしい、という依頼をさせていただき、こちらも試作を重ねて作ってくださった「プリンアラモードのパルフェ」と「桃のパルフェ」。

この記事の中でも書いていますが、見た目はシンプルながら、「パフェってこんな手が込んでましたっけ」とこちらが不安になるくらいの「作品」で、最後のひと口まで本当においしかった。

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とにかく一層一層の具材がそれぞれ凝っていて、食べ進めるごとにどんな味だったらおいしく感じられるか、という点も計算し尽されていました。

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お菓子屋さんの世界は詳しく分からないのですが、なかなかこんな作品を作ることはできないんじゃないかと思います。

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フルーツそのもののおいしさも際立っていて、プリンもめちゃくちゃおいしくて…まさに夢のようなお菓子でした。当日のパルフェは完売してしまったので食べることはできませんでしたが、お客さまの喜んでいらっしゃる様子、とても印象に残っています。


◎「さんいんおやつクッキー」

ラ・クレーム デ・クレームさん、米子市の生活雑貨店「ティズクレイ」さん、そして私たちくらしアトリエの三者で、「おいしいお土産の洋菓子を作ろう」と企画した商品です。

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山陰っていわゆる和菓子とか「山陰銘菓」みたいなのはあるけど、地元の素材を使って作られた、本当の意味での「山陰のお土産のお菓子」ってないよね、というのが企画のはじまり。

はちみつやきな粉、茶葉やおからなど、山陰各地の食材を生地に練りこんだシンプルなクッキーで、かわいいお花の形はくらしアトリエスタッフが描いたイラストから型をおこして作られました。

お子さまにも安心して食べていただけるように素材にこだわり、お土産として自信を持っておすすめできるおいしさ。

パッケージは絵本作家のかげやままきさんにイラストをお願いし、箱の質感なども打ち合わせを重ねて作り上げられたもの。
私たちにとっても思い入れのあるお菓子です。

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その後、もっと気軽に食べていただけるように、とミニサイズの「ちびおやつクッキー」もできて、多くの方に召し上がっていただきましたし、結婚式の引菓子などにされる方もいらっしゃいました。
皆さんの心に残っていたらいいなあ、と思います。


ほかにも、

イベントの際に作っていただいた、さくさく感とあんこの絶妙なバランスがいまだに記憶に残る「あんクロワッサン」。

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ハロウィンの際に焼いていただいて、感動しすぎて「おいしかったです!!!」とご主人に伝えたパンプキンパイ。

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ご夫婦と一緒に奥出雲まで出かけてお話をうかがった「日森りんご園」さんのりんごのおいしさ。

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そしてそのりんごで作られたアップルパイ(ラ・クレーム デ・クレームさんのアップルパイにはシナモンが入っていないので、シナモンが苦手な私にとっては二重に嬉しかったのでした)。

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朝市の時に販売させていただいた、いちごと紅茶のコンフィチュール。朝市のコンセプトに賛同していただき、安来のいちごと、出雲のお茶を使って作られていました。

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よく手土産にさせていただいたロールケーキ、甘いものが食べたい!でもケーキはちょっと贅沢かな…というときにお世話になったシュークリーム。

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朝市の会場にもなった、松江市西長江町のお米の粉で作られた「千鳥城サブレ」。お土産としても人気でした。「しまねふるさと館」で手に取っておられる方を見かけた時は、とても嬉しかったです。

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こちらもすごくすごくおいしかったキャロットケーキ。しっとりとした食感で、ナッツが効いていて…。

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…どれも、オーナーシェフであるご主人がいなければ出会えなかったお菓子ばかりです。

素材の良さ、果物のおいしさをそのまま、食べる方に楽しんでいただけることを一番に考えておられたご主人。
「お客さまに喜んでいただけるように」という思いで、いつも一生懸命身を削ってお菓子作りをされていたのだと思います。

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「おいしいものを作る」って本当にシンプルなことだけど、難しい。休む暇もなかったのだなあ…と、おいしいお菓子の向こう側にあるいろんなものを感じて、本当に悔しい気持ちになります。

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作り手としての矜持を見せていただいたと思うし、「おいしいものを作る」という当たり前のことが、一番大変で苦しいことなんだというのも、あらためて突き付けられた気もしています。

でも、お店が今年の1月にお休みになってからも、「再開を待ってますね」「誕生日ギリギリまで待ちます」といった声が絶えなかった、と奥さまからうかがい、たくさんの方々にラ・クレーム デ・クレームさんの思いが、矜持が届いていたのだということをあらためて感じました。

特別な日はやっぱり、とびきりおいしいケーキでお祝いしたいですもんね。これからはきっと皆さん、何か嬉しいことがあるたびに、ラ・クレーム デ・クレームさんのケーキやお菓子を思い出されるのではないでしょうか。

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活動を続けていると、こうやって悲しいお別れをしなければならない場面が必ずやってくるのですが、会えなくなった方々にもがっかりされないように、呆れられないように、しっかりとコンセプトをブレさせることなく活動を続けていこう、という気持ちもいただきます。

作り手として大切なことをいつも教えていただいたご主人のことをいつも心に置いて、今後の活動もまっすぐに歩んでいきたいと思います。

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動画は、「ラ・クレーム デ・クレーム」さんのInstagramからもご覧いただけます。

そして、もし皆さまの中に「ラ・クレーム デ・クレームさんのケーキやお菓子の写真、スマホに入ってる」という方がおられたら、ぜひご自身のインスタにて、「#ラクレームデクレーム」をつけて投稿してください。思い出を皆さんでシェアできたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


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