皆既月食の夜に、倉敷でライブコンサートを聴く〜オカリーナ奏者 軽部りつこ さんと、アコーディオン奏者 檜山学さんによるデュエット〜
11月10日は、日本全国で天体ショーが注目されていました。日暮れから皆既月食があり、さらに442年ぶりに天王星食が起こる神秘的な夜です。宵の空には赤銅色の月が浮かんでいました。
感染禍は続いていますが、倉敷の街にも人の流れが戻ってきました。倉敷美観地区の本通り商店街にあるカフェ&ギャラリー、青い鳥では小さなコンサートが開催されました。この3年間、倉敷の街にとっても、ミュージシャンにとっても、本当に厳しい日々でした。
今宵は、岡山に縁のあるお二人、オカリーナ奏者の軽部りつこさんとアコーディオン奏者の檜山学さんによるデュエットです。
オカリーナ奏者の軽部りつこさんは、岡山市足守在住で、自作のオカリーナで演奏活動をされています。オカリーナは、イタリア語で「小さなガチョウ」とう意味で、イタリアで考案された陶器製の笛です。足守にある古民家を再生した工房では、オカリーナの製造販売と演奏講習会を運営されています。今では、もも笛やりんご笛などフルーツの形をしたユニークな陶製の笛も制作されていて、誰でも手軽に音楽を楽しめるように普及に努められています。
軽部さんは、子供の頃から粘土が好きで、地元で粘土を見つけると、採取して野外で土器を焼いていたそうで、その体験が今に繫がっているのだそうです。
檜山学さんは岡山市福渡の出身です。3歳の頃から父親が所蔵していた小型のアコーデオンを演奏し、アコーディオンに親しみました。十代の時に単身で、アコーディオンの本場であるヨーロッパに渡り、イタリアとフランスで足掛け6年間の演奏旅行して、“武者修行”をされています。今は、国内と海外とを往き来して演奏活動をされています。
オカリーナは、唇を震わせて笛の共鳴管によって音を出します。音は笛自体のみならず、頭蓋骨に共鳴して増幅されます。ですからオカリーナーの音色には、演奏者の身体性が色濃く出ます。それは、素焼きの器のように、触覚的な摩擦感を感じさせるものです。
アコーディオンは、熟練の楽器職人によって制作される複雑な「道具」です。その音色は、演奏者の熟練の操作技術によって左右され、オカリーナのように直接身体は関わってきません。いわば、演奏者の純粋な精神の産物と言えます。檜山さんのアコーディオンは、プロ奏者用の複雑は個体で、常に最高な状態に整備・調律されていて、音にざらつき感が一切ありません。その平滑さは、さながら、輪島塗の漆器のごとくです。
お二人のデュエットにおいて、身体性と精神性のそれぞれ両端に位置するオカリーナとアコーデオンの音色は、決して渾然一体に混ざり合うことはありませんでした。それは、軽く混ぜたコーヒーに、ミルクを垂らしたときのマーブル模様のようです。コーヒーとミルクは、よく攪拌するとカフェオレになって、味が一様になります。しかし、マーブル模様に混ざったコーヒーとミルクは、混ざり具合によって様々な味わいに変化します。オカリーナとアコーディオンのデュエットには、そんな、多様な味わいがありました。
コンサートのテーマは、「エキゾチックな秋」でした。中央アジアや東欧をイメージさせる、落ち着いた哀しみに満ちた旋律でした。世界を覆った感染禍は、終息したわけではなくて、少し慣れただけです。私たちは、そろり、そろりと進みながら、どうか、心穏やかに過ごしたいものです。
最後に、お二人はユーモアに溢れ、とても明るいお人柄で、お二人の楽しい掛け合いトークも満喫できたことを、付け加えておきます。
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追伸
このような機会を企画運営された、青い鳥のマスター、田口哲男さんに感謝いたします。
追記
会場のステージには、軽部さんがイスラムの商人から譲り受けた絨毯が敷かれ、エキゾチックな情緒がさりげなく設えられていました。
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