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読書紹介 第二冊 『キドナプディング』

 キドナプディング 著:西尾維新

待ちわびた『戯言シリーズ』の新作である。
いーちゃんと玖渚友の娘が主人公という安易な設定ではあるが、
シリーズのファンとしてはまさにこれを望んていたのだから、文句なしである。

私は実をいうとこのシリーズのかなり重度なファンである
どれぐらいかというと

このシリーズのファンすら
姿形に見覚えないのない副読本を所有しているぐらいである。

ちなみに後書き以外で、解説とはいえ西尾維新先生本人の文章を
長く読めるので、シリーズのファンでなくても1読の価値はある。

『ザレゴトディクショナル』と銘打ってはいるが
先生の他の作品、例えば『きみと僕の壊れた世界』などに対する
ごく簡単な解説と、その作品へのこれまたごく簡単な思いが
綴られている。

戯言シリーズを中心として、2006年までの
西尾維新の布石を振り返った一冊、といったところだろうか。


話を戻す。
肝心の『キドナプディング』についてだが
これは旧シリーズ終盤のような
戦闘とキャラクター同士の人間活劇
ではなく
1作目の『クビキリサイクル』のような、ミステリーである。
新シリーズ開幕にあたり、一応の原点回帰ともとれる。

残念なことに、ミステリーの上で重要なトリックの部分は
高名な作家以外がこれを書いたとしたら
間違いなく出版社の一次選考で落第しそうな出来であった。

しかしながら、そこは西尾維新。
ミステリーの出来なんて気にはならないぐらい
キャラクターを生き生きと書き出してくれる。

そもそも、今作は完全にシリーズ続編を熱望するファンのために
書かれたものであるから
あの『戯言シリーズ』の世界観に触れられるのなら、何でもいい
というのが、一ファンとしての意見である。

とはいえミステリーとしての出来を期待する作品ではないことは
重ね重ね忠告する。


では『戯言シリーズ』としての出来はどうか、と
問われれば
いーちゃんの娘が登場する以外にも注目すべき点は多い、と返す。

旧シリーズでは名前のみの登場に終始した玖渚友の兄である
玖渚直がついに姿とセリフを携えて登場する

それに伴った玖渚機関の掘り下げも行われており
シリーズの流れを踏襲している

新しい要素だけでなく
スピンオフが3作品程度作られるほど、作者と読者に愛された

哀川潤

も登場する。変わらぬ彼女の豪放磊落っぷりに懐かしさすら禁じ得ない。

また
かつての主人公であるいーちゃんも、登場こそしないものの
娘の口からパパの戯言、という形で
間接的に本人の雰囲気を味わえる。


総じてこの作品を評価するなら
西尾維新のファンサービス、といったところか。

したがって、旧シリーズに目を通したことがない者は
面白さ半減、とんで80%カットである。
ファンとしては十分満足できたので
次回作もお願いしたい。


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