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読書紹介 第8冊 『芽むしり仔撃ち』

『芽むしり仔撃ち』 著:大江健三郎

言わずと知れた大作家。
しかしながら、彼の作品を今迄読んだことがなく
世界の読書の海は、まだまだ広いと感じる。

というわけで、そんな私にとっては
彼の作品とのファーストインプレッション。


ストーリーとしては
大戦末期に山中の村に集団疎開した感化院の少年たちが
疫病の流行を恐れる村人たちによって
置き去りにされるというもの。

少年たちはめげずに同じく
置き去りにされた
女の子や朝鮮人の少年、脱走兵と共に
生活を始めるが、村人の帰村によって事態は一変していく。



ハッキリ言うのであれば、
この作品のストーリー自体はけして
気持ちの良いものではない。

大戦末期とはいえ、感化院の少年に対する
偏見や差別が容赦なく襲い掛かる。

それらにあらがう術を彼らは持たない。
大人たちの悪意や残酷な仕打ちをただただ
黙って受け入れるしかない。


最終的には村長が彼らを痛めつけた挙句
「新しく別の感化院の少年たちを連れてくる教官には
 置き去りにしたことを黙っておけ」と強要する。

もちろん食事という人質を取って。

最終的には主人公のみが、反対し村を追い出されてしまう。


救いのない、といえば簡単に聞こえてしまうが
その中でも打たれ強く抗おうとする主人公には
一種の尊敬すら禁じ得ない。


またこの作品の情景描写、地の文は非常に巧みでかつ美しい。
想像しやすく頭に入りやすい。





最後の場面では主人公が村から連れ出され
村人たちの手によって殺害されかける。
すんでの所で、それを避け山中に逃げる主人公の言葉を記す。


『僕は自分に再び駈けはじめる力が残っているかどうかさえ分からなかっ 
 た。
 
 僕は疲れきり怒りに狂って涙を流している、そして寒さと餓えにふるえ
 ている子供にすぎなかった。

 ふいに風がおこり、それはごく近くまで迫っている村人たちの足音を運
 んで来た。
 僕は歯を噛みしめて立ちあがり、より暗い樹枝のあいだ、より暗い草の
 茂みへむかって駈けこんだ。』


この作品の主人公の一貫する姿勢を表しながら、
現実の自分の姿を捉えての哀愁も漂う
素晴らしい文章である、と感じた。

ぜひ機会があれば手に取ってみて頂きたい。



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