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新しい技術への投資ジレンマと、ハッケーション(ハッカソン+バケーション)の話

(タイトルの内容は最後まで無料で読めます)
先週の前半は、ソニックガーデンのメンバーたちと、宮崎県にハッケーションをしに行ってきました。

ハッケーションとは、「ハッカソン」と「バケーション」をあわせた私たちの造語です。そもそもハッカソンとは何かということですが、コンピュータで色々する「ハック」と「マラソン」をあわせた造語で、一定期間を集中的に開発をするイベントです。

私たちソニックガーデンでは定期的にハッカソンは開催していて、たまに今回のように地方に行ってハッカソンをして、そのあとにバケーションということで観光に行くようなハッケーションをやっています。

ソニックガーデンは全社員リモートワークで働いていることもあって、普段は物理的に会うことはありません。日々の仕事に関しては全く問題なく進捗させることが出来ているからこそ、こうした機会を大事にしています。

今回のハッケーションについては、以下に記事を書いてくれています。

私たちが実施しているハッカソンは、社内のメンバーで行っています。社外の方を誘うこともありますか、基本的には社内の人たちです。それも平日に業務扱いでやっています。

いったい社内の人たちで、業務の時間を使ってまでハッカソンをする意義はなんでしょうか。それを語るには、エンジニアならではのモチベーションについて考えねばなりません。

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ソフトウェア開発の世界は日進月歩で進化し続けています。日々、新しい技術が考案されて、適用されて、さらに新しい技術を生み出していきます。オープンソースの考え方があるため、どこかの大手企業だけでなく、あらゆる人がソースコードを作り続けています。

10年前に扱った知識が今では使い物にならないことはザラです。私も10数年前までは第一線のプログラマとして活躍できましたが、経営者になって、しばらく現場のプログラミングから離れてしまったら、当時のノウハウでは同様の生産性は出すことはできなくなりました。

もちろん、ソフトウェア技術はコンピュータやネットワークを抽象化して積み上げていくことで進化していくことや、プログラミング技術も本質的なところは変わらないため、経験者である方がキャッチアップのスピードは早い。しかし、それでも知識は日々アップデートしていかないとすぐ陳腐化してしまいます。

私はソフトウェア開発以外の産業に関わったことはありませんが、これほどまでに常に新しい知識と経験が求められる職業はあるのでしょうか。経営者も日々、新しいインプットを得て考える必要のある職業ですが、ソフトウェアエンジニアほどではないと思います。

だから優れたエンジニアは、常に新しい技術に向き合うことを自分自身に課しています。とはいえ、それは職業ロスの危機感からではなく、むしろ新しい技術を学ぶこと、身につけることが楽しくて取り組んでいます。新しい技術に取り組むことが好きなエンジニアが優れているとも言えます。

新しい技術を身につければ、今よりも良いコードが書ける、今よりも楽に開発ができる、そんな風に、より良い状態になることが、自分自身の成長につながるし、成長することは楽しいことだからです。ロールプレイングゲームで新しい武器を手に入れるようなものです。

そして、新しい武器を手に入れると、やはり使ってみたくなるのが人情です。実地で使うというのは、すなわち仕事で使うということです。新しい技術は、日々の仕事の中で使いたくなります。

しかし、普通に仕事をしていると中々その機会は訪れません。

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私がシステムインテグレーターでエンジニアをしていた頃を思い出してみると、まず仕事中の時間で新しい技術について調査したり、試してみたりする時間は、基本的には与えられませんでした。研究部門とかでない限り。

システムやプロダクトを開発することが仕事で、見積もりをして開発をするのですから、正直に見積もり通りに仕事をしているなら、そこに新しいことをする余裕はないはずです。

自分の興味ある新しい技術について勉強したり試したりするには、どうすればよかったか。業務時間ではなく自分のプライベートな時間で勉強します。このこと自体は別に苦ではなかったですが、仕事が忙しくなるとプライベートな時間が減って、必然的に新しいことに取り組む時間が減ります。

もしくは、見積もりをするときに、かなりのバッファを積みます。本当に正直に見積もりをしてしまうと余裕がなくなるので、余裕のある見積もりにしておくのです。そうすると、締め切りまでの間に余裕ができれば、その時間で新しいことに取り組むことができます。これは、エンジニアの生きる知恵みたいなものですが、続けると色相が濁ってしまいそうです。

新しいプロジェクトとかに配属されて、そこが自分の希望のテクノロジーを扱うところだったらラッキーですが、そうそううまくはいきません。むしろ、希望のプロジェクトに配属されるように、自分の時間で勉強しておいてアピールするくらいはできるかもしれません。

自分の希望するテクノロジーを扱っている会社に転職するという手もありますが、それも結局は経験者でないと中途採用は難しいとなると、まずは自分の時間で勉強するしかないわけです。

かろうじてあったのは、SIer特有の話ですがシステムの納品が終わってプロジェクトが解散したあと、次のプロジェクトにアサインされるまでの期間は暇になるため、そのときばかりは新しい技術の調査などをしたものです。

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あとは、少し偉くなって実力が認められた頃くらいから、プロジェクトの提案に関われるようになります。そうすると、新しい技術を活用した提案ができるようになります。お客さまだけでなく、上司や会社に提案することもありました。

しかし、そこでしていた提案は今考えると、本当にお客さまのため、会社のためだったのかというと疑問ではあります。

当然、提案であるからには、必然性と価値がなければ採用されることはありません。しかし、エンジニアが使いたい技術だからといって提案をしようとしている本心がある限り、本当に合理的な内容ではない場合もありました。

要件にしてはオーバースペックな技術であったり、先進的すぎて世の中にノウハウがなかったり、運用面でリスクがあったり、メンテナンスできるエンジニアが少なかったり・・・

自分自身に経験があって、知見もあり、世の中で枯れた技術を使う方が生産性でみると圧倒的に良いとわかっていても、新しい技術や設計手法などに取り組みたいからという気持ちを抑えられずに提案に盛り込んでしまったことがあります。あぁ懺悔。

そうしてしまうのも、仕事の中で新しい技術で経験を積む術も、試す場も時間もないからです。だから提案して叶わないと絶望してしまうと、新しい経験ができる場を求めて転職してしまうことになるかもしれません。

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本来、仕事で成果をあげるために技術はあります。技術は手段であって目的ではないのです。・・・というのは、経営者から見るとまっとうな言葉ですが、エンジニア的には納得がいきません。ここにジレンマがあります。

では、どうすれば良いのか。1つは仕事の時間の中で、技術を目的とする時間があると良いのです。言ってみれば、新しい技術への投資の時間です。

今もあるのか知りませんが、Googleが「20%ルール」と言っていたものに近いかもしれません。イノベーションに繋がる活動ということだった気がしますが、成果など気にせずに、もっと純粋に技術で遊ぶ時間にしたい。

私たちソニックガーデンでは基本的にセルフマネジメントで、自分の時間をどのように使うかの裁量は完全に社員一人ひとりが持っているため、クライアント向けの仕事さえキチンとしていれば、それ以外の時間は自由にできます。その時間のことを「部活」と呼んでいます。

その時間を使って、自分の好きな技術について調査をするもよし、そのまま何かしらの開発を行ってもよいのです。この部活の前提にある考えは、仕事なのか新しい技術なのか、細かいことは管理しないということです。そこに明確な境界をつくることはナンセンスだからです。

20%という感じで時間で管理しようとすると柔軟性を失ってしまうと私たちは考えています。

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さて、ようやく話はハッケーションに戻りますが、業務時間で実施する意義は、新しい技術への取り組みの一環であるということです。

自由に時間を使うことができるとはいえ、どうしても普段の業務を優先してしまうことがあるため、ハッカソンという形で、しかも物理的に集まって拘束することで、業務外のことに集中することになります。

また、ハッカソンという形で動くものを作り上げることを目指すことで、単なる調査では終わりません。新しい技術の限界や、難しさみたいなところも把握することになります。

という理屈はありますが、そもそもソフトウェアを開発すること自体が楽しくて、しかもゼロから作り上げるという体験は他に得難いものがあるから、その時間を作っているというのも本当のところです。

ハッケーションはハッカソンとバケーションの組み合わせですが、どちらもレクリエーションの一環とも言えます。ある意味で、エンジニアにとっての福利厚生みたいなものです。

ハッケーションの共同開催に興味ある方、ぜひお声がけください。

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