味のない料理
何年も前に流行ったアニメ・小説に、才色兼備でスタイル抜群、眼鏡の可愛い委員長。そんな出来過ぎた女の子がいた。
私は作品が再放送をしている時にたまたま、その子を見かけたのだが。あるエピソードを見て、ガツンと殴られた気になった。それは以下のようなものだ。
某羽川さんはなんやかんやあって同級生の女の子に手料理を振る舞う。しかしその料理には味がない。そして彼女はそのおかしさに気付けない。
私は彼女ほど極端でもなければ、味がわからないという自覚もあった。でも彼女は私なのだと思った。
昔はどこに行って何を食べても美味しいと感じていた。そこに優劣はなく、特別の好きも特別の嫌いもない。自炊をする時は健康面にのみ気を払い、生の人参の皮を剥いてそのまま齧ったりした。
もっとも、それを美味しいと思っていたわけでは流石になかったけれど。
そんな有様なので、美味しい美味しくないで信じられる基準は口コミサイトの点数のみ。
ここは評価が高い店だから美味しいのだろうと食事をして、味を記憶することもなく、ただ食べに行ったという記録のみを積み重ねる。
何度も行きたいという店はなく、新しい店の開拓のみが生き甲斐。
何が趣味は食べ歩きだと、今ならそう野次ってやるところだが。
残念なことに当時の私は大真面目だった。
料理はコツだ、作るうちに上達するとはよく聞かされた。でも全くそんな気がしなかったし、その感想は正解だったろうと思う。
あの状態で回数を重ねたところで、私にはきっと何も掴めなかった。
問題は料理のみにあるのではなく、もっと根深いところにあったからだ。それは劇中で友人の女性が指摘したことでもある。
結局、私は羽川さんの味覚がどうなったのかは知らないままだ。
彼女はちゃんと自分を取り戻し、味の付いた料理を作れるようになったのだろうか?
ふと、そんなことを思い出した。
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