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⑬同期はまさかの・・・

それから約1か月半後の11月はじめ、内定式が執り行われた。

面接で何度か足を運んだ、ちょっとだけ懐かしくもある社屋へと足を踏み入れた。

4月からは、ここが毎日の大半を過ごす場となり、労力を提供して生活するための給与を得る場となり、スキルを得たり高めたりすることになる「会社」である。

ようやく大人の仲間入りを果たすような誇らしげな気持ちにもなりつつ、これからあと約40年は社会人として生きて行かねばならないのかというプレッシャーめいた気持ちも感じたのだった。

どんな人がいて、どんな事をして毎日が過ぎてゆくのか想像もつかなかったが、とにかくこれからの長い社会人人生がうまく行くよう心の中で願った。

会場となった会議室は小さな部屋で、椅子は4個しか置かれていなかった。

開始時間前に全員が揃ったが、そこで私は衝撃を受けてしまった。
椅子に座るべき内定者4名は、全員が女子だったのだ。

初夏に失恋し、そのまま何もなかった自分にとっては、同期という存在から何かが始まったらいいなと淡い期待を勝手に抱いていた。

古い考えかもしれないが、当会社に入り、同期や同僚と結婚するというのが無難な人生のレールのようなものだとも当時は思っていたところもあったのだった。

そして、会社の規模から同期は10人~20人くらいはいると予想していたが、まさかの4名という少なさにも衝撃を受けてしまった。

初対面の同期達は、少々ぎこちなさはあったものの、式を終えて最寄駅に向かう途中は学生ノリそのものだった。

きっと、なんとかやっていけるだろう。
漠然とした不安のようなものが、少しずつ自信へと変わっていったような気がした。

緊張から解放された、リクルートスーツに黒髪、黒いカバンの女子学生達。

11月ということで、皆ベージュのトレンチコートを身にまとっていたが、私だけはコートは地味めの私服コートだった。

…もちろん、トレンチコートなど持っておらず、もともと買うお金もなく、仕方ないとはいえ、ないない尽くしの自分になんとも言えない惨めな気持ちになったのだった。

今ならどうでもよすぎて笑える話であるが、社会人になってちゃんとお給料をもらえば、きっと必要な物が必要な時に買える。やりたいことをやりたい時にできる。

やっと人並みに生きていける。
私の人生はこれから。

そう実感したひと時であった。

つづく



つづく



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