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独身の娘にかかる負担 介護

老前整理®は介護の現場から問題解決のために生まれました。また介護をする人に対して『老いた親とは離れなさい』朝日新聞出版を上梓しました。家族を介護している人は孤独です。そこでこの本を書きました。以下に一部を紹介します。

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 独身の娘は、夫も子どももおらず気楽な生活なのだから親の面倒を見るのは当然と思われがちです。姉や兄、弟や妹がいても、仕事がある、家族があるからという理由で、家族から見れば「お気楽な」独身の娘におはちがまわってきます。まるで娘の仕事は大した価値がないような扱いです。

 加えて、親が介護をしてほしいと望むのも娘です。結婚していれば夫や婚家の舅姑に気を遣うけれど、ひとり者の自分の娘ならだれに遠慮することもないし、何より気心が知れている。そして息子に自分のおむつを替えてもらうなんてとんでもないという母親や父親が多いことも事実です。
 さて、当人の娘はどう思っているでしょう。ひとことでいえば「仕方ない」です。
 中略
 誰かが介護をしなければという時に白羽の矢が立つのは独身の女性なのです。
 ではその独身の女性の本音はどうでしょう。バツイチでも未婚でも、本人はまだ結婚をあきらめたわけではないかもしれません。もしくは仕事で一流になり、世界に羽ばたきたいと思っているかもしれません。

 このような娘の可能性を周囲の者は考えてくれません。無理をして仕事を続けようとすると、残業ができない。親が突然具合が悪くなって入院すると、早退して病院に駆けつけなければならない。ヘルパーさんに来てもらっても、あそこが痛い、ここが苦しいと度々電話をかけてくる。きょうだいのフォローはまったくない。胃がきりきりと痛みだし、同僚たちに迷惑をかけているのではないか、仕事が中途半端になっているのではないかと考えだすと、明るいことは考えられず悲観的になり、もう無理だ、やめようということになります。

 こうして仕事が続けられず、仕事をやめていく娘が多いのです。この時も「仕方がない」です。
 この「仕方がない」が積み重なっていき、「わたしの人生は何だったのだろう。このまま親の介護で年を取って終わるのだろうか」と考え始めると要注意です。そして自分が犠牲者のように感じます。他のきょうだいは今までと変わらない日常を送っているのに、「どうしてわたしだけが」という思いが募るのです。灯りのない迷路で手探りで歩いている状態です。

 これがいつまで続くのか。介護が終わった時、わたしはいくつになっているの? 私の介護はだれがしてくれるの?
 このような娘の鬱屈にだれが気付いてくれるでしょう。その上、仕事をやめると収入がない。親も年金暮らしとなると、自分の貯金を切り崩していくしかありません。このようなことを理解して、介護ができないからときょうだいが金銭的援助をしてくれれば、悩みのひとつは解消しますが、そうもいかないのが現状です。そして「仕方がない」日々を送るのです。

 介護の月日が終わり、仕事に戻ろうと思った時には、戻れる仕事はありません。娘の年齢も60歳を超えているかもしれません。ここでまた自分の人生の仕切り直しです。親の介護で費やした年月を返してくれといっても、どうにもできません。また長年の介護疲れで体調も良くないかもしれません。
 このような大きな負担が独身の娘にかかっているのです。

『老いた親とは離れなさい』2014年 朝日新聞出版 より

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№31- 6 エンド 火曜


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