メルカリで見つけた思い出の品
「#メルカリで見つけたもの」をテーマに、投稿コンテストをしているので、「SY22」について書きます。
メルカリの私のマイリストに保存している検索条件が「SY22」です。
7,000円から15,000円ぐらいで出品されていて、けっこう売れています。
「SY22」というのはヤマハのミュージック・シンセサイザーです。なんと34年前、1990年に発売された電子楽器です。当時の定価は110,000円。それが今でも取引されているのは驚きです。
「SY22」は既存楽器や効果音などを録音したサンプリング音源とFM音源を1音色あたり4つまで組み合わせて新しい音を作ることができます。
鍵盤数は61鍵で、イニシャル・タッチ、アフター・タッチが付いていてピアノのようにタッチで強弱をつけたり、鍵盤を押し込むことで音色や音量を変化させたりできます。
特徴的なのは、「ベクター・コントローラー」と呼ばれるジョイスティックのような丸いコントローラーを搭載し、四方に4つの音源をアサインして、リアルタイムに音源の音量バランスや音程などを変化させることで、音色が変えられるという点です。
さらにこのベクター・コントローラーの動きは、最大50ステップまでリアルタイムで記憶させることができ。リアルタイムに動かさなくても、音色が変化します。その変化も含めて音色として保存できるようになっていました。
「SY22」は実は私が開発に携わった思い出深い商品なのです。
私はシンセサイザーの開発がしたくてヤマハに入社しました。配属面接ではシンセサイザーの開発をしたいとアピールしましたが、残念ながら配属先はホームキーボードの開発部門でがっかりしました。
子ども用の鍵盤の小さい楽器や電子ピアノのプログラム開発を担当しました。ホームキーボードの市場はシンセサイザーの市場よりも大きく、実はけっこう面白かったのです。
4年目からは電子楽器の音源のデータ制作の仕事を担当することになりました。ボイシングと呼んでいました。私が最初に担当したのは電子ピアノです。元になるグランドピアノの音を1音1音録音し、加工してデータ容量を小さくし、音源メモリー用のデータを作ります。
グランドピアノを入れたスタジオで、一日中一人で、録音した音からひたすら良さそうな音を拾って加工し、試作楽器に取り入れて弾いて確認し、ダメならまた別な音を探して加工するという作業を繰り返していました。
当時はノウハウやツールも少なく、試行錯誤の日々でした。最初の録音では残響音が入りすぎていて、試聴会では「風呂屋のピアノか」と酷評されました。
電子ピアノやポータブルキーボードなどの音源開発に携わって5年目、初心者向けの低価格のシンセサイザーを、私の所属するホームキーボードの部門で開発することになりました。念願のシンセサイザー開発がついにできることになったのです。それがSY22でした。
ホームキーボードは、できるだけ既存の楽器に近い音が出せるように音源データを加工します。一方シンセサイザーはユーザーが音色を自ら作る楽器なので、音源データはその素材を準備することになります。
SY22は低価格モデルでしたから当時まだ高価だったメモリーの容量は限られていました。そこでシンセサイザーの合成音源であるFM音源とのハイブリッドの音源を採用したのです。
2つのサンプリングした素材と2つのFM音源の4つをミックスして音色を作ります。そのミックスの割合を動的に変化させて1つの音色が作れます。ミックスの割合は「ベクター・コントローラ」をグリグリ動かすことで記録できます。これを「ダイナミック・ベクター・シンセシス」と命名して新しい音作りを提唱したのでした。
シンセサイザーのボイシングは一人スタジオにこもって行うのではなく、ミュージシャンや音作りの専門家が加わって素材の作成を一緒に行いました。それはかなりエキサイティングでした。
搭載するプリセット音色は、試作品を海外のR&D(Research and Development)部門に送って各国のミュージシャンやアーティストに作ってもらいました。最終的には制作者を本社に招いて、「ボイシングセッション」と呼ぶ評価、選択のためのセッションを行って選択しました。私にとってはとても刺激的なセッションでした。
そういうわけで、いまだにメルカリに出品されているSY22は私の思い出深い製品なのです。
大事に使ってくださり、また新たに次の人の手に渡っていくのはとてもうれしいことです。そのような商品開発に関わることができて幸せです。
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