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#009 | 映画撮影_紛失したはずのテープ

▼最初にこの作品を読んでおくと、より楽しめます。


この話は『映画撮影_のれんの奥』から半年後の事。

映画撮影に再挑戦することになった。

前回の監督であるT君は予定が合わなかったのだが、彼の紹介で後輩のU君が代わりを務めてくれる事になった。もちろんU君にはこれまでの経緯も話した。

早速、撮影の打ち合わせをしたところ、前回撮影した素材映像をぜひ確認してみたい、という申し出があった。
私自身もまだ見ていなかったので、早速T君に連絡をとった。
電話口の彼は申し訳なさそうにこんな事を言った。

「撮影の後、学校のロッカーに置いてたんやけど、気がついたらなくなってたんよ」

T君もそれに気づいてあちこち探し回ったが、結局見つからなかったらしい。
残念だったが仕方がないので、なくした事は気にしないように伝えて電話を切った。



翌日の午後。
私はU君に呼び出されて学校に近い喫茶店に来ていた。
席につくなり彼は鞄をゴソゴソと何かを取り出しながらこう言った。

「例の素材テープって、もしかしてこれのことですか?」

彼がテーブルに置いた物。それは、すっかりケースが傷だらけになった一本のデジタルビデオテープ。
手にとってラベルを見た瞬間、私は鳥肌が立った。

「『霊現象』素材」
私の字だ、間違いない。

「これ、どこにあったん?」

「今日の朝、ロッカーから教室に行く途中にエレベーターの前に落ちてたんです」

T君が紛失したはずのテープが、今日、学校の廊下に……。

私はT君に電話でこの事を伝えると、さすがに彼もも驚きを隠せなかったようだ。

中身を確認するために急いで学校に戻った。
T君も駆けつけて三人で最後まで見た。
しかし、映っているはずのある場所だけが入っていない。

台所ののれんだ。

さらに、どのカットを見ても、カメラが台所を捉えた箇所だけ映像が消えてなくなっている。

見終わった後、私はすぐに撮影の中止を決めた。






そのテープは、書斎の引き出しの奥深くに今も閉まっている。

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