見出し画像

読書記録:アイリーン・M・ペパーバーグ『アレックスと私』

人間以外の動物に感情があるか?

その質問に私は手放しでイエスと答える。長く猫と暮らした経験に基づくが、巷に溢れる動物たちの動画を見れば、誰でもそう感じるはずだ。

そして、人間にも個性があるように他の動物にも個性があり、賢さにもグラデーションがあるように感じる。4匹の兄弟姉妹の猫を飼っていたとき、活動的で狩りができるのは1匹だけ。人間に愛想を振りまくのがうまい子、こだわりが強くマイルールを曲げない子、能天気に寝てばかりの子。同じ母猫から生まれた4匹でもまったく違った。

現在、実家のパトロールを担っている猫。
幸せを全身で表現している気がする。
爆睡してるだけかもしれないけど。

でもこれは私の主観であり、科学的に立証されているわけではない。ただし、立証のために実験を繰り返してくれている鳥たちなら居るらしい。

アイリーン・M・ペパーバーグ 著、佐柳信男 訳『アレックスと私』(ハヤカワ文庫NF)を読めば、ヨウムの賢さに驚くだろう。アレックスと名付けられたヨウムは、著者である博士による訓練を経て色の識別、素材の識別、1から6までの数字を人間と同じように言葉で伝えることができるようになった。その他にも、ケージに帰りたい、ナッツが食べたい、なでてほしいという要求や、ごめんなさい、まで言ってのける。

(どうぶつ奇想天外のBGM、懐かしすぎる。。)

彼の脳みその大きさはクルミほど。鳥にはくちびるがないので発音しにくい音もあり、また、簡単すぎる訓練には飽きてしまったり、接し方を間違えてスネてしまったり、著者の思い通りにいかないことが多いけれど、それまで鳥には不可能だと思われていたことをことごとく覆した。アレックスは、『人間以外にも知能がある』という現在では当たり前のことに気づかせてくれた鳥、ヨウムなのだ。

また、この本は、著者が1970年代から2000年代という長きにわたって研究を続けるなかでの苦労話でもある。アメリカといえども女性の研究者が稀有であった時代、専門外の研究に魅力を見出したものの資金は集まらない。まして西洋的思想によれば、知能を持つのは人間だけである。それを否定するような実験をしようというのはなかなか理解されなかった。

そんな人間たちをアレックスはどのように分からせていくのか。是非、彼と博士の30年間を読んで知っていただきたい。

私自身は生まれた年代なのか、はたまた東洋的な思想なのか、人間以外の動物にも知能があるという考え方に全く抵抗がない。しかし著者も触れていたが、鳥に知能があるかどうかを「人間と同じことができるかどうか」で測定することには違和感がある。それに意味はあるのだろうか。

いや、アレックスへの実験は、アレックスを知るためではなく人間を知るためのものだった。それを忘れてはならない。彼が賢くなっていく過程は、人間の知能の発達過程とリンクする。人間について知るために、アレックスに人間のマネをしてもらっている、というのが正しい理解なのかもしれない。

さて、アレックスは人間の言葉で意思表示ができたが、他の動物にも独自の言語があるのだろうか。

通勤途中に草がボーボーの公園がある。ある朝、その脇を通りかかったとき、草のなかにカラスが2匹いた。何をするでもなくブラブラ歩いているという雰囲気だ。私も何の気なしに見ていたのだが、カラスたちが小さくカァカァと囁いていることに気づいてしまった。

てっきりカラスは声を張り上げることしかできないのかと思っていたのだが、お互いしか聞こえないようなコソコソ話もできるらしい。何を話していたのかはもちろんわからない。しかし人間が聞いてしまったことはバレてはいけない気がして、何食わぬ顔で通り過ぎた。カラスは侮れない。

猫の集会も不思議に思う。会社の隣の駐車場は集会場のようで、夕方に地域猫が一堂に会してたたずんでいることがある。目線は合わせず、しっぽ以外は動かさない。人間には聞こえない周波数で話しているのか、テレパシーを送り合っているのか。最近見かけないなぁと勝手に心配していた猫も参加していてほっとする。何をきっかけに集まるのだろう。私調べでは月の満ち欠けが関係している気がするのだけれど。

ふと、アレックスは他のヨウムとどうやって会話するのだろうかと思った。他のヨウムが実験中に先に答えを言ってしまうなど茶々を入れてしまう描写はあったが、人間のいないところではヨウムの言語で話していたのだろうか。

アレックスが亡くなったあとも、ヨウムたちの実験は継続されているようだ。いつか天才ヨウムが人間の言葉を自由に使いこなし、動物たちの秘密を解き明かしてくれるかもしれない。感情があることも証明してくれるだろう。犬語や猫語の通訳もお願いできるかしら。

今回も読んでいただきありがとうございました。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?