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【バリ島一人旅の足跡_#7】この出会いを、信じる。

旅行と旅(たび)。

辞書によっては「同じ意味」だと書かれているけれど、僕の中のニュアンスはちょっと違う。旅行に比べ、旅は目的地で得る感動よりも、その過程の中に価値を見いだそうとする行為に近い気がする。大雨が降ったり、体調が悪くなったりして予定に変更が出ても、何ら問題はない(というか大歓迎)。思ってもみなかった展開や、その状況に立ち向かう自分の姿こそが、旅人にとって一生ものの、お土産になる。

ちなみに僕はフリーランスなので、一人で10日間もの休暇をとるために説得しなければならないのは妻だけだったのだが、

俺:「バリ島に10日間ぐらい行きたいんだけど…」

妻:「いけば?」

という、ぞっとするほどの二つ返事でOKをもらった時のことを鮮明に覚えている。よほど僕に理解があるのか、または興味がないのかについては、怖かったので詳しく聞かなかったのだが。


で、前回の続き。

ングラ・ライ国際空港を徒歩で脱出した僕は、トゥバンからクタの繁華街へと向かう道中で、一人のおっさんに呼び止められる。正直どうしても名前が思い出せないので、エディ(仮称)ということで進めていく。

「お前の言い値で、どこにでも連れて行ってやる!」

と、いかにも怪しい誘い文句を、カタコトの日本語で話しかけてくる彼に僕の〝妖怪レーダー〟がピコーンと激しく反応する。

「怪しい。怪しすぎる…」

空港からクタに向かう途中でエディに出会った
(以下の写真は、胸元に装着したGoProで撮影したもの)

一瞬ひるんだ僕の心を見透かすように、突然僕の髪の毛の隙間から目玉おやじ(妄想)がひょこっと顔をだし、甲高い声で心の中に話しかけてくる。

「恐れるな!ゆけ、ゆくのぢゃ!」

脳内葛藤のイメージ
(ゲゲゲの鬼太郎:フジテレビ、東映)

出発前に読みあさったネットの情報では、このような話に迂闊に乗るのは危険だと書いてあった気がするが、そもそも、そんな一方的な情報に振り回される旅はしたくなかった。情報の受け取り方を間違えれば、その旅は不信感や損得勘定に覆われたものになる。そんなのは御免だ。

この先に何が待ち受けているのか。それを知るには、前に進んでみるしかない。ツーリングで海沿いの道を走る時も「あのカーブの向こうには、どんな風景が広がっているんだろう?」といつもワクワクする。それと同じだ。

しばらくエディと立ち話をした後、(目的地なんて本当にどこでもよかったけれど)僕はとっさに、とある寺院名を告げた。

俺:「んじゃ、タナロット寺院に行きたい」

エディ:「…..。OK!乗れ!」

彼の返答に一瞬の間があったのは、目的地が少々遠方にあるということもあっただろう。タナロット寺院はバリ島6大寺院の一つとされており、タバナン県と呼ばれるバリ島中部の海岸線に位置する。世界の観光客からは〝夕日の名所〟として知られ、ネットでその名をググれば、大きな岩の上に建立された寺院の美しいシルエットがたくさん出てくるはずだ。

さあ、行こうか。意を決して彼のバイクの後ろにまたがった瞬間、腹の虫が鳴く。そう言えば、早朝のクアラルンプール国際空港で朝ご飯を食べたっきりだ。

俺:「あのぅ、お腹がすいたんですけど」

エディ:「了解だ!」

彼は、お安いご用だと言わんばかりの表情で、僕をバイクの後部座席に乗せると、すぐ目の前の小道にするすると入っていく。普通の観光客はまず絶対に入らないようなド級の田舎道。わずか数十秒進んだ先に、年季の入った大衆食堂(ワルン)が現れる。エディは店先にバイクを止めると、オーナーらしきおばちゃんと、何やら親しそうに話し始める。どうやら行きつけの飯屋らしい。

観光客は絶対に選ばない道
地元の人で賑わう大衆食堂

なんということだ。

バリ島に到着してわずか30分足らずで、一つ目のミッションを達成してしまった。小綺麗な観光客向けのレストランではなく、現地の人々が利用する大衆食堂で食事をする。とても些細なミッションだが、以前の団体旅行では経験できず、ずっと心残りだったのだ。

そのお店は、大らかな笑顔が印象的な女性が切り盛りしており、店頭のショーケースには10種類以上の見たことのないおかずが並んでいる。エディに「どれがお勧め?」と聞くと、いくつかのおかずを指差しながら、彼女への注文を仲介してくれる。

通訳してくれるエディ
なんて美しい笑顔。みんな絶対いい人やん。

お皿に盛った白飯の上に、選んだおかずを乗っけるだけなので、待ち時間はゼロ。あっという間にテーブルに食事が運ばれる。ちなみにこの食事こそが、インドネシアの国民食とも言える「ナシ・チャンプル」である。
ごはんの脇には「サンバル」と呼ばれるインドネシア人には欠かせない辛味調味料が付いており、辛いもの好きの僕にはたまらない味だ。

人生初のワルンで食べるナシ・チャンプル

紙皿に添えられたスプーンとフォークで、見たことのないおかずを口に運ぶ。…..うまい。好き嫌いのない体質に生んでくれた両親におもわず感謝したくなるほど、うまい。(おかげでメタボリックな体形も維持するハメになっているのだが)

エディが運んできてくれたペットボトルの水を口に含みながら、ついにスタートした一人旅に心を躍らせる。ホテルのチェックインまで約4時間。急きょ目指すことになったタナロット寺院は、異国の地での第一歩を踏み出した僕に、どんな刺激を与えてくれるだろうか。

#8へ続く

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