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B'zのいつかのメリークリスマスを題材に短編小説を書いてみました。

いつかのメリークリスマス

外は雪が降りメインストリートには大きなツリーが飾られている。街中はクリスマス一色で煌めいていた。この時期になると思い出す。あの子との事を……。そんなことを思いながら、いつものようにポストを開けると一通の手紙が来ていた。
 あの子との出会いは大学生の頃。バンドを組んでいた俺を応援してくれていたファンの一人だ。よく笑う明るく小柄な子だった。路上ライブや、俺たちのやるライブには必ず来てくれて一緒になって宣伝をしてくれていた。そんなことが何か月か続き、彼女のお陰でファンも増えてきたころに相方と話し合って正式に俺たちのバンドの広報になってもらった。ライブの調整や宣伝活動となんでも彼女はやってくれた。俺らも社会人となり彼女は広告代理店に就職し相方も大手製造会社に就職した。
 俺だけは、就職を選ばず一人音楽活動をしていた。周りからの反対を押し切って音楽の道に進んだ。もちろん簡単な道ではなく音楽での収入は月に1万もなく生きていく為にバイトをした。こんな俺を呆れもせずに支えてくれたのが彼女だった。いつも笑顔できっと大丈夫と言ってくれる彼女の存在は大きかった。気が付くと彼女とは、恋人同士となり同棲をする中になっていた。
 曲作りや作詩が上手くいかずに荒れたこともあった。いつも笑顔で大丈夫だよ。と言ってくれた。金銭面でも、俺なんかより稼いでいた。家賃も光熱費も食費も彼女が支払ってくれていた。彼女と同棲することで、自分で稼いだ金はすべて音楽活動に消えていった。新しいギターやアンプ。ライブ衣装に消え、足りないと遠慮なしに彼女から借りては給料で返す生活をしていた。だんだんと彼女の有難みなんてものは薄れ、女遊びに酒に溺れていく俺をいつも許してくれた。
 そんなある日、彼女がついに過労で倒れた。会社から、俺の携帯に連絡が来て驚いた。彼女が担ぎ込まれた病院に行くと、いつもの笑顔はとても弱弱しかった。付き合い始めたころは少しぽっちゃりしていた身体もいまは瘦せ細っていることに気づいた。俺はなんて事をしたんだろうと立ちすくんでると彼女の親友が来て屋上に連れてかれた。
 屋上に着くなり、思い切りビンタされ告げられた。彼女が自分の食事も節約して俺に貢いでたこと。昼の仕事だけでは足りず、夜女と遊んでいた俺に隠れてコンビニの夜勤をやっていたこと。もう開放してあげてと言われてしまった。
 こんなに愛おしい人をおれはボロボロにしてしまっていたのだ。俺は、心を入れ替えて楽器屋に就職した。休みに日は曲を作ったり作詩したりした。前みたいに路上ライブをすることはなくなり、動画配信アプリに曲ができるとアップするくらいになった。彼女の体調も戻り、彼女はコンビニバイトも辞めていた。
 月に一度は休みを合わせて、デートしたり旅行に行ったりした。海に行けば無邪気に遊ぶ彼女が愛おしかった。そろそろ家具も古くなり新しくしたいね。なんて話が出ていた。
 彼女が見せてくれたチラシにはアンティークでおしゃれな椅子が載っていた。いつかこんな椅子が似合う家に住みたいねと。その年のクリスマスの日、彼女は休みで俺は仕事だった。彼女と住む家で二人でお祝いしようねと約束をしていた。
 仕事を早めに切り上げ、あのアンティークな椅子が売っている店に急いだ。閉店間際の店に着くと感じのいい紳士が対応してくれた。一点物の椅子は少し値が張ったが彼女の喜ぶ顔が見たくて買った。本来は郵送のところを店主に無理を言って持ち帰らせれて貰った。
 電車の中では、少し異様な状況に周りの目が集まったが彼女の喜ぶ顔を思えばなんとも思わない。クリスマスイブの為か人がとても多く人の波に飲まれそうだったが椅子を上にあげながら彼女の待つ家に急いだ。駅を出て街を見渡せばイルミネーションが雪に映り込み更に華やいで見せた。つい、柄にもなくクリスマスソングを口ずさんでいた。
 家に帰ると、小柄な彼女が忙しなく夕食を作っていた。彼女はこちらを振り向きもせず台所を行ったり来たりしていた。彼女の名前を呼びプレゼントを見せると泣いて喜んだ。彼女に初めてあげたプレゼントに彼女は声も出せずに喜びの涙を流した。
 「今までごめん。そしてありがとう。もうあんな思いはさせないから。」
 そう伝え抱きしめた。小さい彼女は腕の中で何度も頷いた。もう、この子を手放さないと心に決めた。夕飯の準備が整い2人でろうそくに火を灯した。暗い部屋でろうそくの火だけが煌めいて、外を見ればイルミネーションがゆらゆらと輝きこの世のすべてが煌めいて見えた。きっとこんな幸せな日々が永遠に続くと思っていたし、聖夜に誓ったら急に何故か怖くなって涙がこぼれた。そんな僕をそっと抱き締めてくれた温もりは何よりも暖かく幸せだった。
 そして月日が経って翌年の秋に急にニューヨークのレーベルから連絡がきた。俺の音楽が世界的に認められたが、ニューヨークに移り住む必要があった。彼女にそのことを伝えると心から喜んでくれた。俺は、ニューヨークに連れていくつもりだったが彼女は違った。才能が認められたとしてもスキャンダルは足枷になると。俺が大切だから、身を引くと言われた。俺は納得できずに何度も説得したが無駄だった。最後の賭けで飛行機の出発時間まで空港で待ってる。気が変わったら来てほしいとメールをした。出発当日、やはり彼女は来なかった。正確に言うと来てくれたが俺が搭乗口に入って後戻りできないときに来たのだ。彼女は周りの目も気にせず叫んでいた。
 「誰よりも、貴方を愛してました。絶対夢を叶えてね。バイバイ!大好きな人!」
 それから、5年が経ち俺はミュージシャンとして有名になり、今は音楽で生計が建てられるようになった。ポストに来ていた手紙は、いつかのあの子からだ。
 <メリークリスマス!元気にしていますか?体調には気を付けてますか?私は、結婚が決まりました。大好きだった貴方の思い出と共にあの椅子と一緒に幸せになります。ありがとう大好きだった貴方。>
 手紙を読んだら泣けてきた。涙を零さないようにぐっと上を向きふと周りを見渡せば大切なプレゼントを抱え足早に歩く幸せな顔に幸せをもらった。いつかのあの子に届くことはないけれどそっとつぶやいた。いつかのメリークリスマス。幸せになれよと。

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