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酒造業の1年

酒類によって酒造期は異なります。同じ酒造業者でも、造っている酒の種類によって繁忙期が違うのです。今回は、醸造酒の酒造期についての話です。

ビールの場合

ビールの原料は麦とホップ。
例外として生のホップを使うこともありますが、基本的にどちらも乾燥させたものを使います。

「乾燥している=保存期間が長い」ということ。
なので、ビールには酒造期がありません。年間を通して仕込みをする事が可能。むしろ、賞味期限が短いので、こまめに仕込みをする必要があります。

ビール、特にクラフトビールはイベントでよく売れます。5月から11月までは、全国でビールイベントが開催されます。ビール屋さんにとっての繁忙期です。

麦の収穫期である5月は「麦秋(ばくしゅう)」と言い、ゴールデンウィークと連動してイベントが盛んになります。気温が高いことも追い風となり、屋外イベントでのビールの売れ行きはとても良くなります。

6月は梅雨もあり、一旦イベントは落ち着きます。その隙に、夏のイベントで売るビールを造り貯めします。

7〜9月は夏のイベントで毎週のように出展ラッシュ。全国でビールイベントが盛り沢山!

そして10月は、オクトーバーフェスト。ビールのイベントが盛り上がる季節です。

ビールができるまでは2ヶ月程度かかります。5月のイベントのために仕込みを始めるので、3月からは忙しくなります。10月に売るビールは8月に仕込むわけですが、その頃はイベント出展ラッシュの中に仕込みをし続ける事になるので、1番忙しい時期になります。

ビールはイベントでは屋外で売る事が多いので、売れ行きが天候によって左右されます。寒い日、雨の日は全然売れません。
なので、11月にはイベントは下火になります。クリスマスやお歳暮の用意でバタバタしますが、それを乗り越えた1月からは、落ち着いた日々が続きます…。

そして春を迎えた3月から、また忙しいシーズンが始まります。

まとめると…

  1月 落ち着いた時期
  2月    ↓
  3月 仕込みペースアップ
  4月    ↓
  5月 イベントが増え出す
  6月 イベントを見越して造り貯め
  7月 イベント ラッシュ
  8月    ↓     & 御中元
  9月    ↓
10月    ↓
11月 最後のイベント
12月 御歳暮

清酒の場合

「清酒は寒造り」と聞いた事があるかもしれません。遠い過去には、腐造を防ぐため、酒造りは冬季のみに制限されていました。

しかし現代においては、自由。設備によっては通年醸造をしているお蔵さんもあります。冬にしか造らないお蔵さんもあります。酒造期は、蔵によって違うのです。

そうは言っても、多くのお蔵さんが冬季のみ酒造りをされています。通年仕込む場合でも、冬季が繁忙期になります。

清酒の原料は米。なので、米の収穫がある10月頃から酒造期に入ります。神事をおこない、酒造りがスタートします。

年によって米の出来が違うので、最初の方は様子をみながら仕込みをします。その年の傾向がわかってから、吟醸酒など、より付加価値のある酒の仕込みをします。

また、気温が低くなる時期に造った方が良い酒ができるので、年末から2月頭ぐらいにかけて、その蔵の肝煎りの酒を仕込みます。
鑑評会に出品する酒や、生酛・山廃はこの時期にする事が多いのではないでしょうか。

そして、暖かくなる3〜5月頃に造りを終えます。
最後の米を蒸した後、甑倒し(こしきだおし)をします。甑とは、米を蒸すための道具で「甑を倒す=その年の造りが終わり」ということ。

甑の周りに祭壇を組み、神事を行います。その年の造りを無事終えた事、良い酒ができたこと、すべてに感謝します。甑倒しはめでたい事なので「おめでとうございます」と言い合います。良い文化だと思います。

甑倒しの日は宴会をします。清酒製造業は年末年始が最盛期なので、忘年会・新年会も中々やりにくい。この甑倒しの宴会が、一番羽目を外して盛大に楽しむ宴席になると思います。

甑倒しの後は仕込みはありませんが、まだ仕込んだ酒はあります。その酒を搾り、貯酒タンクや瓶に詰め終えて、そのシーズンは本当に終了。皆造(かいぞう)を迎えます。あとは使った道具類の洗浄をしたり、蔵の補修、設備の修理などをして、次の酒造期に備えます。

米を作っていないお蔵さんなら、皆造の後は長期の休みに入ったり、セミナーや他の蔵見学に行脚します。米を作るお蔵さんであれば、5月から田植えが始まるので、また忙しく仕事することになります。

まとめると…

  1月 造りの最盛期!
  2月   ↓
  3月 蔵によっては甑倒し
  4月   ↓  
  5月 イベント出展もあるよ。セミナーもある。
  6月   ↓
  7月 休みの蔵が多い。蔵見学とかする。
  8月   ↓
  9月 造りの準備(道具を洗ったり)  
10月  酒造期   
11月   ↓
12月 造りの最盛期!

ワインの場合

「ワインの原料は生のぶどう」なので、酒造期はぶどうの収穫期です。北半球なら7〜12月でしょうか。収穫するための畑仕事をしながら仕込み作業を、することになるので、その時期はかなり忙しいです。

特に日本は秋雨前線と台風のせいで、収穫スケジュールはコロコロ変わります。台風が来るとなったら、収穫をしておかないと大変なことに…。「ぶどうが全部もってかれた!」なんてなったら笑えません。急いで収穫するわけですが、そうなると急いで仕込まなければならず…。夜通しとまでは言いませんが、タイトな仕込みスケジュールになります。

1月からは仕込みはなくなりますが、樽にワインを入れたり、貯酒管理に追われます。一度樽に入れたら終わりではなく、その後何度も開栓して中身をチェックします。なぜなら樽に入れたワインは、減るから。

樽は木なので、ワインを吸います。吸って、表面から水分を放出します。だから、中身のワインはどんどん目減りしていきます。放っておくと、品質に影響しますから、定期的に中身を補填する必要があります。醸造所によって差はありますが、2週間に1度程度のペースで補填されるようです。

3月〜5月くらいに瓶詰めをして、シーズンは終わり。しかしその頃にはぶどうも新芽を出しており、すでに畑の仕事が忙しくなっています。そして、畑の仕事に追われているうちに、すぐに次の酒造期がやってきます。

仕込み期間そのものは一番短いですが、年間何かしらの仕事に終われているのがワイン屋さんですね。

まとめると…

  1月 貯酒管理
  2月  ↓
  3月 瓶詰め & 畑
  4月  ↓
  5月 瓶詰め終わり。畑、イベントやセミナー
  6月 畑が忙しい。蔵見学、セミナー。
  7月  ↓
  8月 この辺から酒造期 & 畑
  9月  ↓
10月  ↓
11月  ↓
12月 遅くてもこの辺で酒造期終わり

仕舞い

それぞれのお酒で、結構違う。
同じ酒類でも、会社によっても違う。

ビールは冬にゆとりがあるが、清酒とワインは忙しい。夏場は清酒とワインはゆとりがあれど、ビールは忙しい。

醸造所見学をしたい方は、酒造期を外して休造期に行かれるのが吉です。その方が、醸造家も丁寧に対応してくれますから。多分。

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