休日の過ごし方
皆さん始めまして。僕はグレンと申します。
僕の仕事は移動花店。愛車の夢花号で世界中を回ります。
だから僕には一日だって休日の日はありません。
一日も…そう、それはあの人も同じはず…なんですが…
今日、僕は初めて休みをとりました。そう、それはあの人の言葉によって…
休日の過し方
「…………(グレン)」
「何ですか?いきなり。『暇だから付き合え』…と言われましても…僕には仕事がありますし」
何かの花の種を袋に入れていたグレンは突然暇そうに辺りをぶらぶらしていた彼にそう言われ答えた。
グレンは天然で少しはねているツンツンの髪は耳を隠しており、肩にかかるかかからないかと言う具合の黒髪に黄色のバンダナをかぶっている。シンプルな形の銀縁眼鏡にでかでかと『花』と書かれた水色のエプロンを着けている。ノーマルなTシャツに紺色のジーンズ、白い長靴を履いている。困ったように顰められた瞳は黒だ。
「……(…俺…く)」
「あのですね。ただ『俺は暇。どこか行きたい』って言われましても。と言うよりもGD(正式登録番号GodFighterDollNumber06→通称GDN06→愛称GD)あなたいったい何処に行くつもりですか?」
グレンは彼、GDにそう問いかけた。ちなみにGDのいでたちは黒一色に統一された戦闘を目的とされたボディー・スーツに頑丈なブーツ、それを多い隠すような魔導師のローブを身に纏っている。唯一の共通点と言えばその銀縁眼鏡だろう。そこから無感動に覗く瞳は赤だ。髪は長く腰まで届くのを無造作に一本縛りしていて耳を覆っている。
「……」
「まさか…特には決めていないとか言うのではありませんよね?」
グレンは花の種を袋に入れる作業の手を止めてGDにそう聞いた。
「(コクリ)」
「…はい?!行きたいって言ってませんでしたか?GD、あなた何処に行くか決めてないで行くと言ってたんですか?!」
無言で力一杯頷いた彼にグレンは唖然として大きな声でそう言った。
「……(行)」
GDは常の無表情ながら瞳だけはこれでもかと言わんばかりにキラキラと輝いてジーッとグレンを見下ろしている。
「『それでも行く』ですか…。分かりました。付き合いましょう(GDを一人で行かせたら何処まで行ってしまうか分かりませんからね…)」
グレンは心の中でそう呟いて言葉では理解したように言った。こうしてグレンはGDと近くの町まで行くことになった。
人々でにぎわう港町は、磯の香りと海生類の焼ける美味しそうな香りが辺りに漂いそれを飾るかのように色とりどりの店がずらりと並んでいる。
「やはり港町は人でいっぱいですね。とりあえず食料を買いに行きますか…」
グレンはそうGDに向かって言うと肉屋の方へと歩き出した。GDは、ぼんやりと辺りを見ながら後をついて行くも時おり別の方角へ行こうとしぐらりと揺れる。彼の手はしっかりとグレンの手によってつかまれていた。
「すみません」
「はいよ!!らっしゃい!お兄さん!」
グレンが店の中へ入って行くと肉屋のおじさんは潮風によってよく日焼けした顔でニッコリと笑い、大きなよく通る声で景気良くそう言った。
「えっと、ラビット肉を300kgください」
グレンは大小様々な種類に分かれ並んでいる肉の中からラビット肉を指差してそう言った。
「はいよ!300kgで20グレードだよ!」
店のおじさんは営業スマイルで答えた。
「……」
「まいどあり!」と言うおじさんの声など関係なくGDは始めて見る港町をキョロキョロと首ごと振りながら見回していた。
「………(あ…な)」
不意に目に入ったテントをGDは不思議そうに見つめた。
「GD?どうかしましたか?」
ラビット肉を買い終わったグレンは止まっているGDの方に振り返って不思議そうに聞いてきた。
「………(あ…な)」
彼はテントの方を見続けたまま繰り返した。
「『あそこは何だ』…ですか。…?…あそこは…」
グレンはGDの視線を追ってその先にあったテントを見て疑問の声を発する。そのテントは店で賑わう人々を避けるように薄暗い路地の一角にひっそりと立っていた。不思議とその辺りに人通りはまったく無い。
「…(く)」
「はっ?『行く』って…ちょっと…待ってください!!」
GDは唐突にそう言うと繋がれたままのグレンの手を忘れて勢い良く歩き出した。グレンは当然引っ張られてぐらりと傾ぎ躓きそうになりながら抗議した。
「……」
「…はぁ。仕方ないですね」
グレンの言葉などお構い無しにスタスタとテントの方へ無言で近づいて行くGDに後ろからついて行きながらグレンは溜息交じりに呟いた。
「ここは…どうやら占い屋みたいですね…」
怪しげなテントの前まで来たグレンはそうGDに言った。
「…(い)」
「『占い』…ですか?えっと、つまり僕たちの未来を見通してしまうんですよ」
不思議そうに首を傾げて聞いてきた彼にグレンは説明した。
「如何するんですか?入りますか?」
「(コク)」
入るかどうかを聞いてきたグレンにGDは無言で小さく頷いた。
「では、入りますよ」
そう言うとグレンは入り口の布をバサリと開いて中へ入って行く。GDはその後をスタスタとついて行った。
「…いらっしゃいませ。旅の人…ここは占い屋。ここへ来た汝等に旅の安全を占いましょう…」
そう言うと若い女性の占い師は水晶に手をかざした。
「……(あ…る)」
「『あいつは何をしてる』のかって、あの人はあの水晶玉を使って僕たちの未来を占ってくれてるんですよ」
尋ねてきたGDにグレンは丁寧に説明した。
「…見えました。…汝等の旅は災いと苦難の連続であろう。…しかし臆する事なかれ。その果てには多大なる力と何者にも断たれぬ絆を手にするであろう…」
占い師はそう言うと二人をじっと見つめた。
「…。大きな力と絆」
グレンは思わずそう呟いていた。GDは何の事か解っていないのか、それとも単に興味がなかったのか、黙って立っている。
そして、この時の占い師の言葉通り二人は大きな災いと苦難に出会うのだが、それはまた別の機会にお話しよう。
「……(グレン)」
「『グレン。何だ』と聞かれても…僕にも良く分かりません…まぁ、兎に角この先の道中気をつけて進みましょうね」
「(コクリ)」
占い師の話した言が理解できない様子の二人だったが、グレンはそうGDに言った。
二人はテントを出て広原をグレンの夢花号で走っていた。
「……(左)」
「えっ?何ですか?…『グレン左に行け』ですか?」
それまでボウっと車の窓から景色を見ていたGDが唐突にグレンの服の裾を引っ張り左に行けと言い出した。
「……(け)」
「『行けば分かる』ですか…分かりました」
突然のGDの行動にさして驚いた風もなくグレンは簡潔に言うとGDの言った左の方角へとハンドルを切った。
(いったい何があるんでしょうか?)
グレンは心の中でそう呟くと何か見えはしないかと前方を見続けた。
しかし、いくら走っても何も見えてはこない。視界に映るのはただただ広い広原だけだった。
「GD…もう日が傾いてきましたよ。いったい何処に行くんですか?」
「……」
GDに聞くも彼は何も答えようとしない。ただじっと前を見ていた。
「……(ろ)」
彼は行けと言った時と同じように突然グレンに車を止め外に出ろと言った。
「いったい何なんですか?」
グレンはGDに引っ張られながら車を降りた。
「…っ!!これは…」
「……」
そこで二人が見たものは、夕日に染まって紅く燃え上っている空と広原に目一杯広がる花畑だった。
「……(良)」
「ええ…本当に今日は、『ここに来て良かった』ですよ。…GDありがとうございます」
GDがここに来て初めてフワリと笑って「来て良かった」と言った。そんな彼を見てグレンもニッコリ笑ってそう言い返した。
(本当に今日は休みをとって良かったですよ。GD…こんなに素晴らしい景色を見せていただいて嬉しいですよ)
と声には出さず心の中で囁いてグレンはこの素晴らしい絵に見入っていった。
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