三章 春祭り本番2
そうして花祭りが終わったある日。お店の扉が開かれる。
「いらっしゃいませ……あ、レイヤさん」
「こんにちは~。今日はお礼を言いにきました。貴女のおかげで素敵なパレードができました。これで無事にこの国に春をお届けできました。本当に有難う御座います」
アイリスが気付き声をかけるとそこに立っているレイヤの姿に笑顔になる。
女神が優しい微笑みを湛えながらそう言って頭を下げた。
「そ、そんな。お礼なんて……喜んで頂けただけで私は嬉しいですから」
「ふふっ。本当にアイリスさんは良い子ですね~。そんなアイリスさんに、私からのお返しです~」
「え?」
レイヤが言うと手に持っていた花束を差し出す。それを受け取りながらアイリスは驚く。
見たこともない種類のお花で出来た花束に彼女は顔をほころばす。
「わ~。素敵なお花」
「これは精霊のお花と言って、永遠に枯れないお花なんです。このお花をお店に飾ってください。きっと良いことが起こりますよ」
喜ぶアイリスの姿に女神も嬉しそうに笑いながら説明する。
「有難う御座います」
「では、私はこれで、またお会いする日まで、さようなら~」
お礼を述べる彼女の姿ににこりと笑うとレイヤがそう言ってお店を出て行った。
「やあ、小鳥さん。お邪魔するよ」
「ふ、フレイさん。いらっしゃいませ」
女神から貰ったお花を飾っているとフレイが店へとやって来る。アイリスはまたナンパされたらどうしようと思いながら対応した。
「あれ、パレードは終わったんですよね? どうしてその服を?」
「気に入ったからだよ。君が心を込めて仕立ててくれたこの衣装に職人の思いを感じた。だから、かな」
ふと視線を落とすと衣装を着ていることに気付きアイリスは尋ねる。
それに彼が微笑み理由を説明してくれた。
「今日はお礼を言いに来たんだ。小鳥さんの衣装のおかげで沢山の人に笑顔をお届けできたからね」
「そんな、お礼なんて……フレイさんがその服を気に入ってくださっただけで十分です」
フレイの言葉に彼女は手を振って答える。
「本当に君には感謝してるんだ。だから、ぼくの気持ちを受け取てもらえないかな?」
「フレイさん……分かりました」
困った顔で頼んでくる彼へとアイリスは無下に断るわけにもいかず頷く。
「有り難う。……いろいろと考えたんだけど、ぼくらしいお礼ってこんなことくらいしか思いつかなくて……ぜひ、君のために一曲奏でたいと思うんだ。聞いてくれるかな?」
「はい」
フレイの言葉に彼女は笑顔で頷く。それを確認した彼が竪琴を構え音楽を奏でだす。
しばらくの間お店の中には竪琴の美しい音色が鳴り響いた。
「す、すごい。素敵な音楽に聞きいっていました」
「喜んでもらえてぼくも嬉しいよ。それじゃあ、またね小鳥さん」
フレイが奏で終えるとアイリスは盛大な拍手を送る。嬉しそうに顔をほころばすと彼は店を後にした。
仕立て屋アイリスの春はこうして始まりを迎えたのである。
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