映画の中に出てくる宇宙服って
わたし好きなんです
身動きとりづらそうな寸胴のシルエット
生命維持装置
ガラス越しに見る星々
仲間がそばにいても
通信機を使わなければ
声も届かない
ああ これはわたしたちの姿だなって
思いませんか
少なくとも
わたしの姿だとは思う
ああ 帰ったら湯船に浸かりたい
それまでは宇宙船につながれて
ふわふわするしかやることない いや
いろいろ研究したり
メカの調整したりに余念はないんでしょうけどね
せっかく宇宙に来てることだし
なにかちょっとでも間違って
命綱なく漆黒の闇に放り出されたら
いま着てるこれがわたしの棺桶で いつか
それは明日かもしれないし
何百年後かもしれないですけど
宇宙に浮かぶ別のなにかにぶつかるまで
わたしは わたしだったからだは
一定の速度で移動しつづける
この宇宙服の中に収納されたまま
宛先もなく運ばれて
「万物は流転する」とかいいますけど
わたしだけ流転とかしなくて
おなじ方向に
おなじ速度で
移動してるだけ
わたしは移動する
北とか南とかもない空間を
ただひたすら
さびしいのかな
新幹線乗ってるときと
意外とそんなに変わらないのかな
在来線とは違う感じしますけど
グラヴィティが懐かしい
あんなに煩わしかった重力が恋しいです
地球 どこ
どこだろうここ
ブラックホールに吸い込まれたい
5次元空間につながってるとか
そんなの期待してないけど
怖いけどちょっと吸い込まれたい
ブラックホール
Gに耐えてるところ想像したくないけど
限界かも 宇宙服ももう守ってくれないし
粉々になるのか
散り散りになるのか
それともするっと消滅するのか
夜行バスがサービスエリアで停まっているあいだ
わたしはカーテンの隙間から
窓の外を見ます
なにかを運ぶ大型トラックが
白いラインの内側に整然と並び
ときどきドライバーが
トイレや自販機に向かうのを
目で追う
朝予定通りの時刻に辿り着くために
ここでしばらく
時間調整
グラヴィティが懐かしい
地球 どこ
どこだろうここ
まだ息をしている
生命維持装置の警告ランプ
ガラスに反射するオレンジが
明滅して
目をつむると
あれはわたしの姿だと思う
おなじ方向に
おなじ速度で
わたしは移動する
わたしも流転するのかな
明日かもしれないし
何百年後かもしれないですけど
夜明けの新宿の空気
コンビニで買ったミネラルウォーター
映画の中に出てくるかわいい宇宙服
あれは確かにわたしの姿だった
ブラックホール
消失点
点
新しい一日
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