わたしという誰かの演劇_006

　わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし　　あるとき急に壊れませんか、洗濯ばさみって、昨日まで普通に使えていたのに今日いざタオルを挟もうと思ったら、手の中でバッキバキ、なんですかあれ、困るな、破片もどっかに飛んでくし、日頃の蓄積ってことなんですかね、日光ってそれくらいダメージ与えてるってことですよね、常日頃、気づかぬうちに、木とか大丈夫なんですかね、生きてるから大丈夫か、自分で自分を再生させながら生きてるってことなんでしょうね、それで大丈夫ってことかな、洗濯ばさみをバッキバキにするくらいのエネルギーを自分の生きる力に変えてるってことですか、どうですか、洗濯ばさみが光合成するようになったら、光合成する洗濯ばさみになる植物、そんな植物で洗濯物挟みたいと思いますか、でも植物だったら寿命がありますからね、結局いつかバッキバキにはなっちゃうんでしょうね、ある日突然、その日はまえぶれもなくやってくるわけです、いや、そろそろかなっていう、そういう予感はあるものなのかな、老いを感じる、老い、老いです、昨日までできたことが今日はもうできなくなってる、昨日まで行けたところに今日はもう行けない、昨日まで会えたひとに今日はもう会えない、歯、急に虫歯になりませんか、ほんとうは毎日じりじり虫歯菌が進行していってるんでしょうけど、治らないんですよ虫歯って、ごくごく初期のもの以外は、虫歯になってるところを削るしかない、ほんとうかよ、ほんとは治るけど大量の歯医者が無職になっちゃうから治る方法を秘密にしてるだけなんじゃないのかって、けっこう本気で考えちゃいます、歯医者にとっての理想って、歯医者がこの世からひとりもいなくなることだったりしませんか、そんなことってありえないのかもしれないけど、目指してるのってそこですよね、究極的には、「地球にやさしい生活」って、人類が絶滅したらそれがいちばんなんでしょうけど、地球って人間にやさしくされるような存在じゃないじゃないですか、地球とか自然とか、簡単に人間殺せちゃうわけだし、物騒な話になってきましたね、言いたいこと言うだけだったらそれは演劇ではないですよね、そうなのかな、言いたいことなんて言ってきたのかな、そもそもいままで、この迷いは演劇ですか、しゃべってたらそれが自然と演劇になるだなんて、そんな都合のいい演劇ありますか、都合って、都合ってそれ誰にとっての都合でしょうか、わたしにとっての、あなたにとっての、誰にとっての、昨日まで行けたところに今日はもう行けない、ある日突然、

　また明日。