映画「となりのトトロ」サツキのとなりのトトロ。
大人になってから真面目に鑑賞してみたところ。
改めて観て思ったのは「これはサツキが主人公の物語なのでは?」ということ。
その答えが正解かどうかは置いておいて、今回は主にサツキに注目していた。
その前に、サツキもメイも5月という意味で名付けられたのだとしたら、2人とも5月生まれなのだろうか?
だとしたら、二人とも誕生日はお母さん不在(療養中)だったのだろう。
映画の冒頭は田植え時期なので、ちょうど5月くらいかもしれない。
学校のシーンは6月。
お母さんのお見舞いに行くのは8月。
エンドロールは秋〜冬。
甘えられないサツキ
お母さんのお見舞い
メイは病室に入った途端、母のもとに駆け寄って抱きつくのに対し、サツキは同室の患者に対してまず会釈をしてから母の元にゆっくり近づく。
ここだけでも、涙を誘う。
母はそんなサツキを痛いくらいに分かっている。
だから、サツキを自分の近くに寄せて髪を梳かしてあげる。
ここのシーンが個人的にはかなり好き。
女の子が母親に髪の毛を梳かしてもらったり結ってもらったり、というのは特別な時間だから。
母と娘の一対一の時間でもあり、髪の毛に触れられて愛情を感じ、また自分の女性性(女の子であること、かわいくなりたい)を意識する瞬間だからだ。
宮崎監督はどうして女の子の気持ちが分かるのだろうと不思議に思っていたが、これはスタジオジブリの女性スタッフの経験が元になっているらしい。
ショートカットのサツキ
母「ちょっと短すぎない?」
サツキ「私、この方が好き」
…サツキは本当は髪の毛を伸ばしたいのだろうが、母の前では気を遣って本音を言わない。
家事で忙しいし、メイのお世話もしなくてはいけない。
自分の髪の毛を短くしているのはサツキの合理的な判断。しかもそれを隠して笑顔で「この方が好き」と言う。
お母さんの肩代わりをするサツキ
ご飯の支度、メイの身の回りの世話、などサツキは文句も言わず当たり前のようにこなす。
研究者の父はとてもいい父だが、性格はおっとりのんびりしていて気が回らないこともある。
サツキは新しい環境で学校などのコミュニティに馴染むことだけでも一苦労だと思うが、そんなことは感じさせない。
メイとの違い
前半では主にメイが中心に描かれている気がする。メイは年齢もまだ幼く、性格も好奇心旺盛。いろんなものを触ったり観察したりして実感を得る。
まっくろくろすけ、どんぐり、オタマジャクシ、トトロ、お母さん。気になったもの、触りたいものには憶せず飛び込んでいきどんどん触ろうとする。
雨のバス停
寝ているメイを背負ったサツキが初めてトトロの姿を見る。
サツキの隣にトトロがくる。
だから「となりのトトロ」のタイトルはこの場面のことがメインなんだと思う。
トトロは人間(サツキ)の心理などお構いなし。「サツキが大変だから助けてあげる」といった気の利いた素振りは一切見せない。目線も前を一点凝視。
さらにここで面白いのは、サツキはトトロが雨に濡れないようにと傘を渡すのだが、トトロは傘の本来の用途はガン無視して雨粒が落ちる音に感動したみたいだ。楽器か何かだと思っているのだろう。
送り手の意図と受け取り手の感じ方が交錯する。
そこである意味サツキは心が解放されたのかもしれない。(本人は気づいていないと思うが。)
サツキは相手のことを慮って先回りするような大人な言動を意識的にも無意識のうちにもしていて、自分の欲求を深部に溜めてしまっている。それが動物なのか妖怪なのか得体のしれない「トトロ」の自由な振る舞いに直に接することによってほぐれてきたのだろう。
ただそこにいる。となりのトトロ。
それだけなのに、その時のサツキは心強かっただろう。
トトロはサツキのために意図してやってるわけじゃない。
設えた善意より、作為も意図が無くても誰かの支えになることはある。
逆も然り。
誰かのためにやってあげることが必ずしも良いとは限らないし、かえって悪影響になることもある。
父に抱きつく
ネコバスが来ると雨も止んで、乗ったトトロはサツキが貸した傘を返さず乗り込んで行ってしまう。
ネコバスに唖然とするメイとサツキ。
その後バスが来て、そこから降りてきたお父さんにメイもサツキも抱きつく。
サツキの素直な感情が表れ始めた瞬間だ。
トトロに抱きつく
サツキ中心にカメラが寄っていく。
ある晩、トトロたちが庭に現れる。そこでコマに乗ったトトロたち。メイが飛びつく。
サツキは躊躇して少し見ているが、トトロの表情を見て思い切りトトロの胸に飛び込む。
ここでもまた、サツキが抱きつくことができた。
電報に動揺し泣く、メイを怒るサツキ
母親が入院している病院からの電報を受け、母のことを心配するサツキは思わず泣いてしまう。
また、感情を露わにするメイに怒るサツキ。
ここでも感情が表れている。
それまで「母親の役割もこなせる優等生で妹思いの良い子」だったサツキが普通の小学生のお姉ちゃんになる瞬間だ。
トトロにお願いをするサツキ
行方不明のメイ。
もうどうしようもない、と思った時にサツキの体はトトロのいる森に向かっていた。
そこで必死にトトロにお願いをする。
そこで「助けて」が言えるようになったのだ。
トトロはネコバスを配車。
自分は乗らず、サツキだけが乗る。
この時のサツキの表情。
イキイキとしている。
本来の自分、等身大のサツキにやっとなれたのだろう。
大切なその時、その自分を逃さないで
子供が子供らしくいられる時代、我慢しないでという宮崎監督からサツキちゃんへのメッセージなのだろうか。
大人には子供の気持ちに敏感になって、とも言っているかのようだ。
また何歳であっても、本来の自分を見つめ直すきっかけになる映画と言ってもいいのかもしれない。