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Noの言い方や文化圏による断り方【元外交官のグローバルキャリア】(Don't throw away the baby with the bathwater)

何事もキッパリ断ることは大切です。

しかし、「できません」を曲げずに、その後上司である総領事に目をつけられて異動までツラい時期を過ごしたことがあります。伝え方には工夫の余地あり、です。
部下が「出来ません」の一点張りであれば、腹を立てて当然なことは振り返るとわかります。Hindsight is twenty-twenty. 過去を振り返る視力は両目とも1.5です。

文化圏で違う断り方

日本では誤解がありますが、英語圏ではあまりキッパリとは断りません。英米語話者は婉曲表現を好みます。アメリカ人は表現は大袈裟でも心情は割と繊細です。

いらないものと一緒に大事な物を間違って捨てないように。「赤子を風呂水と共に捨てること勿れ Don’t throw away the baby with the bath water.」です。はっきりと言うことで大切な物を失っては本末転倒です。たとえば上司からのご加護とか。おそらく私は何人ものご加護を流してきていると思います。

ドイツ語だとNein, das geht nicht.英米と違って、それは出来ません!とはっきり断ります。私は母語よりドイツ語が得意な小学生低学年時代を送りました。日本だと帰国子女ではっきりと自分の考えを言うキャラですが、英語の世界だと日本女性なのに物言いがキツい奴です。You are very direct.とよく言われますが自覚がありません。

人気ドラマのTed Lassoで、周りの気持ちを考えずにはっきりと事実を述べる役がありました。みんなが「なんてことを言うんだ!」と言うと「He means no harm. He is just Dutch! 悪気はないんだ、オランダ人なだけなんだ。」と合いの手が入るシーンがあります。高校時代はオランダ人の友達も多かったです。私の発言は時にオランダ人です。

インドの人 もわりと「No」 を頻発します。インドと同じ文化圏だと思ったパキスタンの人は、「It is difficult. ちょっと難しい。」と口ごもります。パキスタンに赴任したばかりの時に、そう言われて意味が分からなくて3回くらい部下に聞き返して、言いにくそうに「It is not possible」と言われたことがありました。まるで自分は、初めて日本人を相手に混乱する外国の人のようです。「それはちょっと難しいですね」という日本語がノーを意味する、という事実が分かる非日本語話者はどれくらいいるでしょう。

招待を断るとき

I wish I could, but.. はアメリカで不参加に使う常套句です。アメリカの外交官の10歳上の友人で、欠席の連絡をする時には理由を言わない、というコツを教えてくれた人がいました。どんな理由でも相手が不満に思う可能性があるからです。Thank you for the invitation, but I have a previous commitment that I can't get out of. やI am so sorry, but I won't be able to make it.でお茶を濁します。

そうやって断って出なかった会に出席した人から後日「So, I heard you had to wash your hair.」と当てこすりを言われた、と彼女は笑っていました。「I have to wash my hair.」 は誘われて行きたくないことを表す言い回しです。

嘘じゃない

文化圏によっては出来ないと言いたくないあまりに、嘘つきと誤解される人たちがいます。アフガニスタンとパキスタンの狭間のパシュトゥーンの人は面子を重んじるので、彼らにとっての真実や現実は流動性がある、Their sense of truth and reality is  fluid. と自分で結論付けました。そしてやれるかやれないかはアッラーの思し召しだったりするので、やれなかったことは嘘ではないわけです。

考えさせて

先日フランスの方にちょっとお伺いを立てた事がありました。反応は、「ごめんなさい、今は無理です」という即答でした。がっかりしつつ後日再度依頼の背景を話すと、あっさりOKになりました。これが英語人なら、無理かも、と思っても「Let me think about it. ちょっと考えさせて」と答えたと思います。やはり仏も独蘭同様に大陸、と感じた出来事でした。

下手な断り方

シカゴで、官僚トップの次官経験者の参議院議員に同行した事があります。その議員がご本人の元同僚役人のことを、「その人は断り方が下手だったんだな。つまり、はっきりとダメなものをダメと言ったんだよ。それで飛ばされたんだ。」と話してくれました。だからご本人は出世したという文脈だったかもしれません。

ダメなものはダメと言わない、これを再度肝に命じました。どうやってダメと言わずに断るか、その工夫を施しています。ただし、私の中のドイツ語人はそれをすぐに忘れるので困ったものです。


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