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感染症と人文学──2019年4月期KUNILABO講師西山雄二先生のTwitter投稿から

新型コロナウイルス感染症の流行を受け、20世紀フランスの小説家アルベール・カミュの『ペスト』が改めて読まれていると聞きます。実際に版元の新潮社では、2月以降から約15万4000部の増刷がかかったといわれています。
カミュの『ペスト』は有名ですが、では、人文学はほかにはどのように感染症と向き合っているのでしょうか。2019年4月期にKUNILABO講座「ジャック・デリダの脱構築思想入門」を担当された西山雄二先生(東京都立大学教授)は、Twitterで次のような投稿をされていました。

「コロナウィルス対策として医療や政治的な支援が進む中、魂の治癒者たる哲学に何ができるか。」という一文が心に響きます。
どのような「魂の治癒」を求めるのか、あるいはどんなことを「魂の治癒」ととらえるのかは意見がわかれそうです。しかしカミュの『ペスト』に興味を惹かれるように、これまで人は感染症に直面したときに、どう生きてきたのかへの関心は高まる一方です。

・フランスの現代詩

西山先生は現代フランスの詩人が新型コロナウィルスについて作った詩の紹介と、翻訳をされていました。こちらは朗読の動画と共に配信されています。

KUNILABOの哲学講座では時に西洋の詩の話題が出てくることがあります。詩の古典を振り返ることは翻訳図書によって可能ですが、現代の詩をリアルタイムで体験する機会はなかなかありません。私の感覚的な印象に留まるものではありますが、詩の発音を含めて鑑賞できるのは貴重なことだと思います。現代の詩はフランスまたは欧州の社会の中でどのような存在なのか、それは昔と現代とでどう違っているのか、あるいは違っていないのか、興味が深まります。
翻訳もフランス語原文との関連の補足も添えられ、背景にある言語と言語および異文化の特徴を想像させてくれます。

・「伝染病時代の文学読書案内」

カミュの『ペスト』以外の感染症や伝染病にかんする読書案内もありました。

カフカファンの友人からは「何故『巣穴』が感染症枠なのか」と意見も出ました。セレクト理由への関心でも議論が進みそうです。
ちなみに、前述の友人は、カフカの『巣穴』を読み返したところ「外部への不安とかすかな物音におびえながら巣に引きこもる小動物の寓話は、国から“巣ごもり”を推奨される今こそ読み時なのかも。カフカの『変身』以上にひきこもり感覚が迫ってきそう」と同著書への感想を新たにしたそうです。

「人文学って何」「何の役に立つの」といった問いはよく聞きますが、西山先生の投稿で示されたテクストから呼び起こされた気持ちや得られた知識や生まれていく考えを体験し、実際に自分も感染症対策のための自粛生活を送ってみて、思いは新たになりました。やはり不要不急のもの(文化的な諸々)には、人が人らしく生きるためのものがたくさんあるのではないでしょうか。人文学は不要不急といわれながらも、それがあるからこそ豊かに生きていけるためのものを、与えてくれているのではないでしょうか。

受講生M.O

*今回の記事は、西山雄二先生に転載の許可を得て編集制作しています。また、写真は2019年度4月期の「ジャック・デリダの脱構築入門」より再掲載させて頂きました。


西山雄二(にしやま・ゆうじ)
東京都立大学人文科学研究科教授。フランス思想・文学。KUNILABOでは2019年度4月期に「ジャック・デリダの脱構築入門」を開講。Twitter: @yuji_nishiyama
著書に、『異議申し立てとしての文学――モーリス・ブランショにおける孤独、友愛、共同性』(御茶の水書房)『哲学への権利』(勁草書房)など。編著に、『哲学と大学』(未來社)『カタストロフィと人文学』(勁草書房)『終わりなきデリダ』(法政大学出版局)など。翻訳に、ジャック・デリダ『獣と主権者』(全二巻)、『哲学への権利』(全二巻)、『条件なき大学』『名を救う』『嘘の歴史 序説』など。

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