村上寛『鏡・意志・魂―ポレートと呼ばれるマルグリットとその思想―』自著紹介

2017年よりラテン語講座をご担当いただいている村上寛先生は、西洋中世思想がご専門です。その村上先生ご著書『鏡・意志・魂―ポレートと呼ばれるマルグリットとその思想―』(晃洋書房、2018年)の自著紹介をいただきました。マルグリット・ポレートという思想家をご存じの方はあまりいらっしゃらないと思いますが、どんな思想家なのでしょうか。
                   
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マルグリット・ポレート(Marguerite Porete, 1310年没)は、当時の聖職者及び神学者によって異端の烙印を押され、1310年6月1日に火刑に処されたフランスの女性です。かつての研究において彼女は、特定の修道会に属さず、在俗の身で敬虔な生をおくることを目指した女性たちの総称であるベギンの一員と見なされ、彼女の著作である『単純な魂の鏡』(Le mirouer des simples âmes)は、神秘的傾向を持った異端集団である自由心霊派の代表的書物であると見なされてきました。自由心霊派とは、現世で神になることが出来るし、その帰結として神になった人間は何をしても良いという主張をした異端者たちであるとされ、多くの場合異端的ベギンと同一視されましたが、ポレートは本当にベギンの一員なのでしょうか、またそのような主張をした自由心霊派の一員なのでしょうか。

本書では、20世紀の半ばに至るまで著者不明の書として伝えられてきた『単純な魂の鏡』の解釈を中心に、異端判決の妥当性及び当時の民衆宗教運動との関係からポレートの身分や位置付けについて再検討した上で、「神秘的」と評されることが多いその思想について全体像を解明し、思想史的に位置付け、その思想の普遍的価値を明らかにすることを試みました。14世紀初頭におけるベギン及び自由心霊派の定義について再検討することで、ポレートがベギンの一員とも自由心霊派の一員とも言い難いことを示した上で、安易に「神秘思想」とまとめられる思想が、どのような思想構造、概念理解のもとに成立しているのかについて分析を試みたのです。

第一部で「ポレートの身分と異端問題」として以上のような問題を整理した上で、第二部では、「意志概念と愛」として、自由意思と愛、そして意志概念について、第三部では「知性認識とその構造」として、理性と知性の関係、認識について、そして筆者自身の造語である再帰的対自意志という概念について論じています。これらによって、ポレートが語ろうとした魂の完成について理解するのみならず、現代に生き、その枠組みの中で考えているだけでは決して至り得ない、中世的ですがしかし普遍的な人間理解への一つの視座を見出すことが出来ると考えています。

村上先生には、今期は前々期から継続している「ラテン語を読んでみる III 」とならんで、「はじめてのラテン語(初級ラテン語I) 」を新規開講いただきます。これを期にラテン語をはじめてみませんか?講座の詳細、受講申込みはこちらから。

村上寛(むらかみ ひろし)
立教大学、明治学院大学、上智大学非常勤講師(ラテン語科目)、早稲田大学非常勤講師。専門は西洋中世思想。(単著)『鏡・意志・魂―マルグリットと呼ばれるポレートとその思想』晃洋書房、2018年。(共著)「マルグリット・ポレートの神化思想―源流と波紋、水と火の比喩を中心に」(田島照久、阿部善彦編著『テオーシス―東方・西方教会における人間神化思想の伝統』教友社、2018年)、他。

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