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戦闘服からヘッドセットへ 27 ~最終回①(全話ダイジェスト版あり)~




 今さら最終回?!と思った方々。
   今回は、最初に謝罪をしたいと思います。
   もっと前に最終回を出す予定だったのですが、書き終わらそうとした所、コロナにかかったり新人賞に落ちたり、色々重なってしまい。心と体が回復して出すまで時間がかかってしまいました。
 読んで下さっていた方々に本当に申し訳ありません(お恥ずかしい話、読者がエッセーより少ないんですが)。
 そのため、ここまでのお話のダイジェストを最初に載せてから最終話に入りたいと思います。
 また、最終回は長くなってしまったため、3回に分けて今日から3日連続で掲載します。


 ☆ここまでのお話☆

 元自衛官で40代の佐々木、通称・熊さん。30代の上杉、通称・虎のコンビは再就職した職場の同期。
 二人は、スマホの操作案内をするコールセンターに勤務。仕事の出来なさから、裏で「熊虎コンビ」と呼ばれアウトサイダーと揶揄されていた。
 それでも、チームリーダーの莉理は二人の可能性を信じ、ASVの二人も研修を用意したり、大きなミスにならないように側で支えてきた。
 やがて、初心者の二人はめきめきと成長し、他のオペレーターと同じように対応が出来るように。
 だが、社内では二人の良くない噂が飛び交い、味方しているメンバーも心配をしていた。よく調べると、二人ともに想像していたような人間ではないことが明るみに。
 やがて、莉理のチームメンバーは、社食やいつもの居酒屋で集まっているうちに絆が芽生え始めていた。
 気づくと、同期でギャルの瑠美は清楚系に、三平もアイドルのようなイケメンになったかと思ったら、新人に憧れられるカップルとなっていた。
 上杉も仕事に自信を持てるようになり、そろそろ思いを寄せる莉理に告白したいと考えていた。だが、仕事中、後ろのオペレーターの会話が聞こえた。内容は珍しく莉理が長期の夏季休暇をとっている、それは職場を辞めるからだ、というものだった。
 上杉は、莉理が教員にもどりたがっているのではないかと悩みだす。
 周りからも勇気を出せと、発破をかけられ、莉理が旅行から帰ったら動こうと決意を固めていた。



 第27話  〜最終回① フロアリーダーの決断〜


 上杉の鼓動は高鳴っていた。
 職場のロッカー室が、まるで違う場所の様に感じる。いつもはぎりぎりに出勤する所を、1時間も前から来ていた。

 さかぐっちゃんが出勤するのは、今日のシフトだと8時半くらいだ、あと30分。昨日は緊張で寝られないかもしれないと思っていたけど、気づいたらいつもと同じように寝てしまった。

 だが、いつもはアラーム音でもなかなか起きられないところが、今朝はアラームがなる前に目が覚めた。
 良い結果になろうが、最悪な結果になろうが、勇気を出して笑ってやる。

「あれ、上杉さん?今日はかなり早いわね」
上杉は喫煙ルームにいたが、コーヒーを買おうと自動販売機へ向かったところでフロアトップの十条に出くわした。
「あ、いや。たまたま早起きしてしまって」
「そうなの?」
 なぜか、十条は少し笑っていた。
「坂口SVから噂は聞いてるわよ。最近、かなり成績が良いって。新人の子に横づけで自分の対応を聞かせるのも引き受けてるでしょ?助かるわ、ありがとう」

 研修中や研修を終えたばかりの新人は、ベテランの電話対応をリアルタイムに横で聞くという期間がある。
 ベテランとは言え、長年勤めていれば誰でも依頼を受けるというものではなく、ある程度の知識とそれ以上にお客様への対応が優れていなければ、依頼されない。

 上杉はここ数か月、莉理から依頼を受け、快く対応していた。

「最近、新人に聴かれたくないって人が増えてきたから助かるのよ。それに、誰にでもお願いして良いものではないから」
「ああ、いやいや。俺も刺激になります。普段より、丁寧になるし」
「ああ、それ、わかる!」
 そう言うと、二人は笑い合った。

 自販機で購入したコーヒーを片手にロッカーへ向かうと、後ろからポンっと肩を叩かれた気がした。

「上杉さん、おはよう!どうしたの?いつもはぎりぎりなのに」
 なんと、いつもより早く莉理が出勤していた。
「おえ、おはよう。・・・いや、さかぐっちゃんも早いな」
「うん、今来たの。長期休暇明けだから、たくさんメールが溜まってるだろうし、確認しなきゃと思って」
 二人はロッカーへ入ると、時間が早いからか、人影はなく静寂に包まれていた。
 上杉は、自分の鼓動が耳元で鳴っているような気がするほど、大きく速くなっていた。

 今がチャンスだろうな、これ以上時間が過ぎると出勤の人がたくさん詰めかけるだろうし。
「あのさ、噂だけど。さかぐっちゃんが、ここを辞めるって聞いたんだ」
 莉理は、ロッカーへ入れたバックから、財布を取り出そうとしている所だった。
「え?私が辞める?!」
 上杉は、莉理のリアクションを見て、訝し気な顔をした。
「俺は、信じたくないけど。うちの職場、ただの噂が本当だったりするから」
 莉理は驚いた顔をしたかと思うと破顔一笑し、右手で胸元を抑えながら言った。
「辞めないよぉ!どこの誰?そんな噂たてるなんて」

 上杉の目の色が、子どものように輝きを放った。
「本当か?嘘じゃないよな」
「本当だよ。噂は信じるのに、本人の言う事は信じないの?」
「いやいや、でも最近、十条さんと会議室でよく話し合ってただろ」

 すると、莉理の表情が真顔に変わり、一瞬、固まったように見えた。
「ああ、それか。もう言って良い時期かな。辞めたりはしないよ。ただ、・・・東京に転勤が決まったの」
 そういうと、すぐ横にある自動販売機の方を向き、ドリンクを選び始めた。
「え?!東京?」
「そう、だからあっちに行ったら、当分は忙しくて長期旅行なんて行けないと思って。今回、ここまで頑張って来た自分へのご褒美にも、旅行に行ったんだよね」
 上杉は莉里の側へ近づき、さらに質問を続けた。
「それ、完全に決定なのか?いつから?」
「うふふ、上杉さん。それだけじゃないんだよ!」
 莉理はそういうと、2つ購入したエナジードリンクの一つを上杉へ渡した。
「はい、これは上杉さんの分」
「あ、ありがとう」
「そして、これからもよろしく。上杉ASV!」
 上杉はきょとんとした表情で莉里を見た。
「は?」

「上杉さん、おめでとう!あなたも東京行きよ、一緒に行けるの」
 上杉は理解が追い付かない様子で、口を半開きにして目を瞬かせた。
「ううん、一緒に行ってほしい。あっちで頑張ろう!」
 上杉は、さっき見た十条の含みを持たせた笑顔を思い出した。

「え?・・・え?!本当か?どっきりじゃなく?」
「それに、熊さんも」
「熊さんも?!」
「そう、二人の努力が実を結んだね。もう、屈辱的な形で熊虎コンビとは言わせないよね」



 その日、上杉と佐々木は十条から2人同時に呼び出され、今回の人事について話を受けた。まず、ASVの昇格人事が出ているので、是非、お願いしたいという事。
 さらに来年、東京に新しいセンターが出来る事が決まっており、そこの立ち上げメンバーのSVとして莉里が行く事。
 2人は、年内はその日に向けてここのセンターでASVの能力を磨いてもらい、来年、莉理と一緒に東京へ転勤してもらいたいとの話だった。

 十条は言った。
「上杉君、今回の人事は栄転よ。東京センターの成功に向けて、本当にお願いしたい。他の地域のエリアからも逸材のSV、ASVが選ばれて集まる。三人は北海道の代表みたいな存在だよ。ここのセンターは成績優秀者が多いって全国どのエリアでも有名よ。そういう目で見られるから、手は抜けないわね」
 上杉は十条の話を聞き、これからを想像すると、武者震いがした。

 佐々木は、すでに話を受けていたのかと思うほど、落ち着いた様子で十条の話を聞き、横にいる上杉と目が合うと、なんとも言えない優しい笑顔を返した。

 3人は小会議室から出ると、上杉はまだ興奮冷めやらない様子で、バキバキの目でフロアへ向かっていた。

 十条は、佐々木へさり気なく言った。
「佐々木さん。どうか、若い2人をよろしくお願い致します。佐々木さんは経験しているのでお分かりかと思いますが、転勤は本当に大変な事が多いです。2人はまだ若くて経験も少ない。環境に慣れるのも大変なのに、仕事も気負って壊れてしまわないか本当は心配で」
 頭を下げて懇願する十条に、佐々木は頷いて言った。
「はい、分かっています。若いメンバーを育てる傾向にあるうちの職場で、こんなに大きな新しい取り組みに自分が抜擢されたのは、若いメンバーを支えるためだろうなと」
「そんな、謙遜しないでください。佐々木さんのような経験値があり、実力のある謙虚な方がいると本当に力強いんです。いや、いないとあの2人を行かせようとは思いませんでした」
「ははは、若者を潰す野心や闘争心もないしな」
 十条はニコリと笑い、「ご自身の事をよく分析していらっしゃる。でも、一つだけ違いますよ。佐々木さんも二人と同じくらい、うちの人材です。年齢は関係ありません。いつでも二人を追い越してください」
 佐々木は十条の目をしっかり見て言った。

「まぁ、2人は俺が壊れないように支える。俺も昭和のカチコチ親父にならないように、他のやつらから愛され続けないと」


 最終回②へ続く。(明日には出ます!)

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