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エッセー「バスフィッシング熱風録 三宅島 大路池遠征 Part.2」

 ディーゼルエンジンの唸りを子守唄に、船倉近くの二等客室(ザコ寝)での狂乱の夜が明けた。

 気が付くと客間のカーペットには一升瓶やらウィスキーの空瓶やら缶ビールの空き缶などが散乱し、足の踏み場もない状態となっていた。

 新鮮な外気が吸いたくなり、長い階段を上りデッキに出た。鉄扉のハンドルを回して扉を開けた瞬間、東京では絶対に味わう事ができない、外洋上で生まれたばかりの新鮮な空気が肺腔一杯に流れ込んできた。

 空気が甘いと感じた事は、これまでの人生でその時がただ一度切りの経験だった。とてつもなく巨大な太陽が左舷から昇るのを見ながら、デッキの上で深々と深呼吸を繰り返し、ブルーに煌めく海面を目を移せば、まるでストレチア丸と並走するかのように無数の飛び魚が飛翔を繰り返していた。

 まさにマザー・アース、ディープ・ブルーの世界であった。

 それまで、大自然の風景や営みで感激した事など皆無だったが、この時ばかりは柄にもなく、母なる海に対する敬虔な気持ちから、思わずジーンと目頭が熱くなった。

 太陽が水平線からほとんど顔を出した午前5時、ストレチア丸は三宅島の東側の三池港に静かに接岸した。遥々来たぜ三宅島!大路池はもう目前だ。待ってろモンスターバス!

 三宅島に上陸し感慨にふける事しばし、いきなり重要な事に気がついた。宿だ! 今晩泊る宿を探さねば。

 ふと見回すと、岸壁には民宿やホテルの送迎のクルマが何台も連なり、旗を振ったお兄さんが、続々と下船してくる観光客に声をかけていた。

 色々な民宿との人達から情報をゲットした結果、大路池に近く、島のバスフィッシング事情にも詳しいラッパ荘という釣宿に決定し、迎えのサニーバネットに乗り込んだ。

 クルマに揺られること約5分、ラッパ荘到着。旅の荷物を降ろすや否や、タックルを引っ掴み、勇躍ランカーが待つ(であろう)神秘の池、大路池へと向かった。

 クルマがほとんど通らない都道212号線(通称・三宅島循環線)を歩くこと約30分。やっと右手に「大路池入口」という看板が見えてきた。都道から外れて砂利道を下って行くと、周囲は次第に原生林に囲まれた森となった。

 大路池へと続く道を歩くこと10分、やがて、原生林の中にキラキラ輝く水面が見えてきた。ランカーバスが潜むという神秘の池・大路池が遂にその姿を現した。


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