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魅惑の読書会

読書は好きですか。
好きな作家はいますか。
好きな出版社はありますか。

この本のどこのエピソードが好きですか。

★★★

コロナウイルスに振り回されたこの3年、気持ちは沈んだけれども良かったこともありました。オンラインでのやりとりが「普通のこと」になり、多彩なコミュニケーションツールを大勢の人が使いこなせるようになりました。そのため数年前はリアルな会場での開催が当たり前だったものが、オンライン開催も可能になり、アクセスさえできれば日本全国、世界中からイベントに参加可能です。

なんだか変な3年間だったけど、この期間が生活も仕事も「こういうのもアリなんだ」と気が付かせてくれた気がします。今後の生き方、変わっちゃった人もきっといるよね。でも逆に、その状況が苦しかった人も大勢いるので、誰もが100パー幸せな世界なんて、どうやっても無理なんだとそれも思い知らされた3年間でもありました。家族にも友人たちも、「共に生きていこうぜ」って不思議な思いが芽生えたものです。

閑話休題。

「読書会」も様変わりしたもののひとつで、数年前は小さな部屋で密度高くおしゃべりするのが当たり前のイベントでした。それはそれは素敵な時間でしたが、オンライン開催も捨てたものではないです。コミュニケーションツールでのやりとりに慣れてしまえば、時間の共有という点ではリアル開催と同じくらいの熱量で楽しめますね。すてきです。

★★★

2023年3月31日の金曜、夜。友人泉さんのオンラインスペース「a little」をお借りして、「小さな読書会」を開催しました。

お題は「痴人の愛」谷崎潤一郎著 
誰もが知っている日本の文豪ですが、読んだことがないという人も多いですよね。私も、谷崎作品を読了しているのはほんの数作で、決して谷崎マニアではありません。a little店主の泉さんから読書会のお誘いをもらい、いくつかタイトル候補を出したのですが、結局は青空文庫にもなっていて誰もが読みやすいものにしました。読書会の選書は、①著者がこの世にいない②版権が切れているものだと、とても気楽なのです。

読書会は目的によりいくつかの顔があると思うんです。著者さんや出版社に忖度したファンミーティングイベントのようなもの、作品の中身や著者にディープに切り込んで感想や講評を述べ合うもの、そのタイトルを純粋に好きな者同士が集まっておしゃべりをするものなど、いろいろですね。私が好きな読書会は後者ふたつで、集まった皆さんが好き勝手に作品について話す様子を見るのが大好きです。

すでに亡くなった文豪を引き合いに出すと楽しいのは、その人の生き様までが参加者の話題に上るから。上記の選書理由①がこれですね。私が思う谷崎作品は、わりと裕福な家庭環境だったゆえの世界観なのではないかと。明治から昭和の作家作品に多く見られる自身の苦悩や貧困、社会への憤り、これももちろん谷崎作品に散りばめられてはいるのですが、それよりは自身のエロチシズムを作品にぶつけることで何かのバランスを取っていたかのように感じます。刺青、猫と庄造と二人のをんな、この辺りおすすめです。ほんと、気持ち悪いしどうかしてる人。でも、描写のひとつひとつにぎょっとするような共感性もあり、そんなときは自分の背中にも冷や汗が流れているような感触。最高ですね。

今回の「痴人の愛」なんて、皆さん谷崎を変態だの気持ち悪いだの性嗜好がどうだの言いたい放題。「痴人の愛」は、まじめなまじめな主人公の河合が、ナオミといううら若き女性を自分好みに育てるつもり……が、いつの間にかナオミに主導権を握られ生活をぐっちゃぐちゃにされる話です。若い女性をそばに置いて育てていくというよこしまかつエロい思惑は、日本文学に限らずあちらこちらのコンテンツで目にするモチーフですね。創作者は変態であれ。とはいえ、そのモチーフから変態性を排除して、美しい物語に仕立て上げるのも人間の業なんだなと皆さんの言葉一つひとつを聞いて感じました。あの映画とかあの小説とか。ねえ?

そして読書会の楽しいところを最後にもうひとつ。

参加者の皆さん、発言の際によく「ちょっと今の話題から外れるんだけど……」というコメントから始めるんです。これ、どこの読書会でも同じだなあと感じます。皆さん、作品について言いたいことがあふれてるんですよね。そして、それのどれもが大抵大きく脱線していません。何かしらつながっていて、また話が広がっていく。これもまた、同じ本を読んで集まった者同士の面白さです。ああ、よい時間でした。

店主の泉さん、素敵な場所を貸してくれて本当にありがとうございました。



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