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会って買う楽しさと、顔ちょきん。 【暮らしを彩る器フェアinコンベックス岡山】

【顔ちょきん】記憶に残しておきたい顔のこと。すてきな表情、個性的なフォルム、単に好み、などなどなどの理由で頭の中にインプットしておく顔のこと。後日、仕事や作品に使ったり使わなかったり。漫画家、鴨居まさねさんの言葉です。

なくても困らないものだけど、そばにあるとふとしたときに心が和んだり休まったりするものがあります。花瓶の花、鉢植えのグリーン。絵画や写真を飾ること、音楽を聴くこと、読書、手芸など手仕事を楽しむこと。これらすべて、生きていく上で絶対に必要なものかというとそうではありません。それでも、ゼロになると途端に心がささくれますね。

食器も然り。
最低限の箸と椀、小皿の2、3枚と湯呑みがあれば食事にはこと足ります。料理をせず、コンビニやスーパーマーケットの惣菜をプラ容器のまま食卓に並べれば、食器を使わずとも食事は済んでしまう。

美しい器を欲しがるのは、贅沢なのかもしれません。でも、料理を楽しみ、食べることが好きな人間は、こしらえたものを気に入った器に盛りつけ、料理を楽しみたいのです。

★★★

暮らしを彩る器フェアinコンベックス岡山

2021年12月。岡山。
長らく待っていた大規模な陶器市が開催されました。と、思ったらどうやら2020年も開催されていた模様。なぜ、なぜ知らなかったのでしょうか。こんなにつぶやいていたのに。

つぶやきすぎです。こんなにぶつぶつ言っているのに2020年開催の陶器市の情報が得られなかったのは、ぼんやりし過ぎ、もしくは恐ろしいくらいの岡山での人徳のなさでしょうか。後者かな。死にたいです。

今年に入っても言ってます。かなりの重症です。

現地に到着すると平日の午前中にもかかわらず、すでに会場「コンベックス岡山」の駐車場は混雑しています。これは……会場内も混雑…? 入場制限は面倒だなと思いつつ会場の入り口に立つと、混雑なんてどこ吹く風。どこもかしもガラガラで、本当にココで陶器市をやっているのかと心配になるほどでした。車がひとり1台の土地なので、駐車場混雑のわりに会場内には人出が少ないのが、地方都市イベントの良いところです。

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閑散がすぎる、コンベックス岡山。岡山のイベントホールです。

入場口は「当日券」「招待券」の2か所。

招待券……! とても甘美な響きですが、そんな素敵なチケットは持っていませんので、おとなしく当日券を購入。600円なり。招待券とはどのような人が持っているのでしょうか。協賛企業の社員、家族…とか? と、思ったら後ほど判明。作家さんから器を購入すると、「来年開催の際に招待状を送りたいので、ご記名を」とお願いされました。ただ、購入したお店、作家さん全ての人に言われたわけではないので、「作家さんによる」のかもしれません。

余談ですが、驚くことにその招待券がメルカリで売られています。私が見たのは3枚700円。当日券は1人600円かかるわけですから、まあ、メルカリで招待券を購入して3人で入場すると、お得……ではあります。しかし、作家さんもしくはお店から、無料で郵送されたものをメルカリに出品する情緒のなさよ。たった600円を渋る人が、器を買いにわざわざ辺鄙な場所にあるコンベックス岡山まで出向いていくものでしょうか。知らんけど、ね。

閑話休題。

会場内、ブースごとに案外多い「撮影禁止」の札や貼り紙。SNS全盛期の時代だもの、写真で発信してもらってナンボなのかとも思いますが、おそらくイヤな思いをした経験があるのでしょう。ひと昔前よりも、こういったイベントでは撮影に慎重になります。でもまあ、スナックのボトルキープ同様、購入したあとは大抵は快く撮影させてくれます。

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出店数過去最多118店!

見事な碁盤目に並んだたくさんのブース。巨大な会場をとりあえず一周…と。屋外の大きな公園の開催だと、100パーセント迷う人間です。ほんの数時間の滞在で、さっき見た皿はどこに……状態を100回くらい繰り返します。碁盤目は迷わなくていいなあ。と順番に見てまわるつもりが、いつのまにか気になるブースに吸い寄せられて歩いていました。で、結局迷う。ブースに入って出てきた後は、自分がもうどの方向へ向かっているかわからないんです。方向音痴は碁盤目でも迷うので注意が必要です。

気になる器のあるブースに立ち寄って、棚をぐるりと一周。寡黙な職人さんと陽気なマダムの組み合わせのなんと多いことか。作るひと・お商売する人の役割分担。そう、アーティストは商売できないひとが多いんですよね。ましてや焼き物なんて、作品の相手は土です。ねかせてねかせてこねてこねてこねて成形した後、最後に託す先は窯。次の相手は火です。仕事(作品)相手が土と火ってなんですか。正気の沙汰じゃない。五行思想の「相生」の話を思い出しました。陶芸はものをつくる仕事の中でも、「生きる」に近いものなのかもしれません。

太志窯(長崎県)

初めに立ち寄っておしゃべりしたのは、波佐見町の太志窯。不思議なイラストの湯呑に見入っていたら、店番の女性から声をかけられました。

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取り皿にしたい小皿と、不思議な雰囲気の鹿!ナウシカの壁画みたい

「デザインはこの人、売るのは私。あ、私も温度調節くらいはできますけどね」と朗らかに笑う女性。話の筋から、デザイナーの男性とおそらくご夫婦。これぞ、先述の寡黙な職人さんと陽気なマダムの組み合わせです。こちらには、飾り皿になりそうな高価なものから、普段使いのものが並んでいます。大量に並んだリーズナブルな取り皿までも、絵付けはなんと手描き。絵付師が二人いて……という話が出たので、どうやら大きめの窯元でしょうか。


陣屋陶芸窯(大分県)

続いて目を止めたのが、大分県の陣屋陶芸窯。陶工は高田竜介さん。

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右手三段目手前のランチョンマットの空いた部分に、私が購入した片口が飾ってありました。4時間後もそのまま空いてました。ほんまに商売っ気ない陶工さん。

片口に弱いので、注ぎ口の形と刷毛目にうっとり。めいめい使いにちょうどいい大きさ、持った感じも好き……が、陶工高田さんは、どうやらお一人での岡山巡業のよう。おそろしいくらい商売気がありません。しゃがんでまで片口に食いついている客に声をかけてくる様子はなく、この片口は4枚ありますか?と尋ねると「ん?4枚、あったかな。そんなに持ってきてないんですよ。ちょっと見てきます」とのんびりした応対でした。いいなあ、待ちます待ちます。色んな土地で修行重ね、土をこねて30年ほど。お若く見えたけれどベテラン職人さんでした。

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ふちの丸み、刷毛目、注ぎ口。ミユキ的完璧フォルム


陶知庵(栃木県)

会場の中でひときわ目を惹く碧い器、栃木県の陶知庵。こちらのご主人、今回の顔ちょきん利息ナンバーワン。いい顔。お名前は井上さん(ホームページより)

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本日の顔ちょきんナンバーワンでした。利息年6パーのバブル期並み
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青、蒼、碧…あおの違いに目を奪われました

四角い大きな皿に目を奪われていたら、「新作なんです」と丁寧にその皿の説明をしてくれました。四角い形は陶知庵の新顔とのこと。ガラスでの色付けに苦労したそうです。異なるガラス二色で彩色をと考えましたが、丸い皿は傾斜があるためガラスを置くと焼成で色が混ざってしまいます。でも平たい角皿なら流れずに色が固定できるかも……?と試行錯誤し完成したそうです。「やっと思い通りの色になったんですよ」の言葉が沁みました。

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栃木県の工房敷地内で、レストランも経営しているとのこと。

こちらのご主人、井上さんは陶知庵の五代目。五代目…五代目、五代目? と、3回つぶやき返してしまいました。創業…創窯(?)は明治時代。普段、私はレギュラーの仕事で職人さんの話をひたすら書いているので、不躾と思いながらも、次世代へは……? と跡継ぎ問題まで尋ねてしまったのでした。息子さんがいるそうで、よかった。碧いうつわ、これからも続けてください。


陶工房SORA(三重県津市)

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実は職人さんのお名前も「空」さん。

面白いことに作家さんと同じ印象だった角皿。しゅっとしたストレートボブがすてきな作家さんでした。陶知庵でインパクト抜群の大きな青い角皿が買えたので、次は何かシンプルな大皿をと探していたところへ遭遇したのが陶工房SORAさん。

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さっぱりした色と形。完全に成功した釉薬がけではなかったらしく、アウトレット扱いの皿でした。食卓で使うには十分すぎるほどです。

同じ白い釉薬でも、1枚ずつ色の出が違います。迷っていたら声をかけてくださいました。気負わなずさらりと使えるのがさっぱり皿のよいところ。早速翌朝のおにぎりを盛りつけてみました。

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よき…


辻修窯(佐賀県)

合間に飲食ブースで笠岡ラーメンをすすって、どのあたりが笠岡なのかひとり考えました。カブトガニ風味。うそです。最後の最後、出口近くで目に飛び込んできたおにぎり型小皿。佐賀県の辻修窯さん。

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もちろん、おにぎり盛りつけます
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梱包に時間がかかってるなあと思ったら……嬉しいサービス!

紙袋に直筆のメッセージ。嬉しいですね。今回買ったのはポップな三角フォルムでしたが、実は繊細も繊細な絵付けで有名な窯元さんでした。レジ横に並ぶ細かな花や動物の絵の花瓶は、目の飛び出るほどのお値段……!  手描きですよね…?の質問に「もちろんです」と力強いお答え。向日葵畑の花瓶、きれいでした。到底手の届かないお値段、来世では手に入れたいものです。完全オーダーでの絵付けも可能で、ペットや花を描く依頼も受けています。花農家さんが品種改良に成功した花の鉢植えを工房に送ってきて、満開のときを描いてという記念の依頼までくるそう。「花が開くまでね、水をやりながら待つんですよ」と楽しそうに話す職人さんの顔、よいです。この方も顔ちょきん。


取材仕事を思い出した日

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コンベックス岡山に、滞在4時間!

会場を出る頃にはすっかり西日です。なんて楽しい半日だったんでしょうか。この2年間、EC陶器市は頻繁にメーカーやイベント会社から開催されていました。変わりばえしない我が家の食器棚に溜息をつき、通販してしまおうかと考えた時期もありましたが、やはり我慢してよかった。器は、見た目だけが重要ではありません。手に取ったときの重さや手触り、質感。箸やカトラリーとの相性の想像など、手に取らなければ知りえないことがあります。そして、対面での買い物の楽しさ。会って話す(どこかで聞いた言葉…)、会って買う。作家さんや店員さんの商品への想いを聞いてから買うと、使うたびに購入時を思い出し愛着がわきます。

もうずいぶんとインタビューや取材仕事から遠ざかっていましたが、話すって楽しいよねと再認識するなど。今回のことはこんな長い記事にするつもりはなかったのですが、あまりに実のある時間で帰宅後に書き残しておきたくなりました。もう一度、会って話す取材仕事がしたいと思ったとか思ってないとか……


そんな師走の一日。

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おおきなお湯呑みで、仕事の合間にたっぷりとお茶を。焼酎も珈琲もいけそうです。

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