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こんなにもわかりやすく万人に喜ばれる菓子を、私は知らない。【六花亭製菓】

視線を感じるほどの、美しい紙袋

駐車場に車を入れ、駅前を歩く。すれ違う人々の視線がちらりと私の手元に降りてくる。白地に鮮やかな花々が描かれた大きめの紙袋は、思いの外昼下がりの雑踏で目立つようだ。

そりゃそうだ。ここは岡山。すれ違いざまに浴びるやや不躾な視線は、私に少しの優越感を味合わせてくれる。ふふふ、いいでしょう。

年末恒例。私はフリーランスになってから、お世話になった人たちに、ちょっとした挨拶の品を贈っている。飲料や菓子など様々な消えものを試したが、いつの頃からか贈答品選びに迷わなくなった。

ここ数年は、私の故郷の北海道に本社がある六花亭の菓子一択だ。

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受付で手元に視線をもらう。お茶を出してくれた人からもう一度、ちらりと。それらは私に向けられているのではなく、私が握る美しい花柄の紙袋へ向けられたもの。みなさん、私のお土産が気になるようで(ドヤ

打ち合わせブースで、会議室で。この花柄の包み紙を差し出すと、受け取った人の表情が動く。緊張が解けて、柔和な顔になる。

「六花亭、嬉しいです」「嬉しい!大好きなんです」「北海道にいらしたんですか?」「この間、天満屋で北海道物産展をやってましたよね、行きそびれたから嬉しいなあ」「あ、これは北海道の…」

お礼のあとに添えられる様々なあたたかい言葉に、私は嬉しくなる。私が持ってきたお土産をお愛想ではなく、中身を分かった上で喜んでくれているのがわかるからだ。ちなみに、「あ、これは北海道の…」と言った人は、普段から甘いものは苦手だと公言している若い人。甘いお菓子に疎いそんな人でさえ知っている、この包み紙。この知名度たるや、ちょっとすごい。


六花亭製菓とは

六花亭製菓は、北海道帯広市に本社を置く会社だ。私の出身は札幌で、六花亭のお菓子には幼い頃から馴染みがある。北海道土産の代名詞でもあるので、「人に贈る」イコール「高価、普段使いではない」と思われがちだが、六花亭の菓子への想いは「日常食べるおやつ」が基本。決して高価ではない。そのため、私は幼い頃、父が円山店で気まぐれに買ってくるホワイトチョコレートが大好きだった。

知ってる? 六花亭は日本で初めてホワイトチョコレートを製造販売した菓子メーカーなのだ。

そのホワイトチョコレート、昔はザ・板チョコな包装でしたが、今ではタイル型になりすっかりスタイリッシュな包装に。

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食べかけで申し訳ありません。


私が子どもの頃は、よくある板チョコタイプの包装で、銀紙の上に白い包装紙でくるまれていた。その包装紙は紙袋の模様とは違い、「ふきのとう」や「すずらん」などの花のイラストが、真っ白な紙にひとつだけいさぎよく描かれていた。大きさは大手メーカーの板チョコよりも小ぶりで上品。それがまたスーパーで買うチョコレートとは一線を画していて、六花亭のチョコだー!ときょうだいで奪い合って食べたのを覚えている。

日本初のホワイトチョコレート(2019年現在は多種類の味がある)、そしてみんな大好きマルセイバターサンド

この他にもたくさんの美味しいお菓子があるが、六花亭の金字塔といえばこれらだろう。でも、これだけ知名度の高い人気商品がありながら、六花亭は店舗を全国展開していない。

六花亭商品が買えるのは、北海道内の直営店と空港、オンラインショップ、全国で開催される北海道物産展のみ。おそらく商社や百貨店からの出店は引く手あまた、また、流通はこのご時世ならいくらでも手段はあるだろうに、それでも北海道外に直営店を出さない硬派さ。シビれませんか。

それもこれも、「飲食を扱う会社は手を広げ過ぎるとダメになる」という会社の考えがあるからだそう。
私はそんな考えに、六花亭のお菓子を食べるたびに納得する。
大量生産なのに、決して妥協していない味。味の好みはあれど、何を買ってもがっかりしないであろう絶大な信頼感。洋菓子には香料ではないバターの香りが、餡菓子にはしっかりとした豆の風味がきちんと際立っているのだ。六花亭のお菓子は、旅先の土産物屋に並ぶ包装と形だけを変えて大量生産されているような、ひと箱1000円ほどのクッキーやプチケーキとはレベルが違う。

★★★

2018年~2019年初め頃、六花亭がずいぶんと地上波のテレビ番組で取り上げられた時期があった。

あまりにも時期が集中していたので、広報部の戦略かなあと思いながらも、私は故郷の企業が取り上げられているのが嬉しくて、夫に「テレビテレビ!テレビで六花亭が出るよ!」と宣伝しまくった。

帰省のたびに買うあの素晴らしく美味しい菓子!あなたの大好きなマルセイバターサンド!キャラメル! あれはこの会社のものなのだと、自分のことのように喋りまくり、「ちょっと黙って」と夫に言われたほど。

私の幾人かの友人が、六花亭に勤めた経験がある。友人たちから従業員への福利厚生の厚さはちらりと聞いていたが、テレビ放送で待遇の詳細が紹介されているのを見て、これほどだったのかと驚いた。知っている方も多いと思うが、一例を挙げると「6人以上の社員旅行には、費用の7割を会社が負担」(2018年放送時)。
これは「仕事も遊びも一生懸命に」という会社の想いによるものらしく、社員にはフレンドと呼ばれるパート従業員も含まれるらしい。なんという器の大きさ。

そして、こちらは私も知らなかった。
社内で「一人一日一情報」という制度を設け、そこからの情報を活かして「六輪」という社内報を発行している。それも毎日。多い時は日に700通もの従業員の日報が社長の元へ届き、社長はその全てに目を通し社内報へ載せる情報を選ぶらしい。商品開発には、イチ売り場店員の日報からのアイデアが採用される場合もある。六花亭のお菓子が好きで働いている人には、なんて夢のある話なんだろう。

その他にも、六花亭には社員の幸せを願う福利厚生がたくさんあるようだ。私はもちろん六花亭で働いた経験がないので、テレビに映らない現場の大変さはわからない。でも、これがテレビ放映用のきれいごとではないことを願う。友人の話によると、仕事をしていて大変だと思う出来事は個人レベルの話のみ(人間関係や自分自身の環境など)で、従業員として会社への不満はさほどないという。これが本当なら、すごく羨ましい職場だ。


お菓子の味、そして北海道の味

さて、ここからは私の偏愛と偏向である。

六花亭のお菓子をお土産にして、煙たがれることはまずない。
お使い物にもなるし、リーズナブルなので気の置けない友人への手土産にもなる。六花亭がこんなに幅広い用途で愛されるのは、何よりお菓子の味が良いことに尽きる。

それは厳選された北海道産の原材料のおかげでもあるが、全てを北海道産にこだわっているわけではない。小麦粉は菓子の味に納得のいく北海道産がないらしく、道外や外国産のものも用いている。その柔軟さも、私は好きだ。あっちがダメならこっち。故郷をはなれて10年以上経つが、北海道という土地にはそんなユルさがある気がしている。何事にもこだわりすぎない柔軟さが北海道人にはあるのだ。

そして、美味しいものに対する飽くなき探求心。

六花亭のお菓子が美味しいのも、北海道の飲食店がうまいのも、私は開拓民スピリットだと思っている。荒れ果てた大地を耕して、食物を育てることでしか生き残れなかった過酷な環境が「美味しいもの」への執着を強くしたのではないだろうか。その執着が「北海道の食べ物は美味しい」に反映されているのだ。


六花亭効果

「北海道以外」でという場面に特化して言うと、六花亭のお菓子をお土産に持っていけば、十中八九「あ、あの六花亭のひと」と覚えてもらえる。これはマジである。

不特定多数の相手にかしこまって持参する際には、ぜひアラカルトの詰め合わせを。
詰め合わせの中には、小豆餡が主役の和風なものから、しっとりしたスポンジがメインの洋風な焼き菓子、そしてチョコレート。その中には、老若男女誰でも何かしらひとつは好みの味があるはずだ。有名だからと言って、マルセイバターサンド一択な詰め合わせはNG。世の中、案外レーズン嫌いな人が多い。でも相手がマルセイバターサンドを愛している人なら、マルセイバターサンド中心の詰め合わせで! オンラインショップにはなんなら最大30個のマルセイバターサンドのみの詰め合わせがある。贈られた相手は、きっと涙を流して喜びます。(自己責任で冷凍可!)

思い返せば、私が関東に住む夫の両親に結婚の挨拶へ行った際も、迷わず六花亭のお菓子を持参した。マルセイバターサンドが好きだと聞いていたので、北海道で買って準備をしていったのだ。渡した時には、夫の母が開口一番「あらー、これ大好きなのよ」とニコニコしたのを覚えている。そのひとことでガチガチに緊張していた私の心は解け、その後の夕飯はわりとリラックスして話ができた。

本当にこんなにも万人に喜ばれる菓子を、私は他に知らない。知名度の高さと味のレベル、価格の満足度、貴重さ。そして近年になって全国に広く知られた、熱い企業理念と厚い福利厚生。そのどれもに、共感と感動が止まらない。

「これからもよろしく」
「今までありがとう」というかしこまった挨拶から、
「ちょっとお喋りしようよ」
「これ美味しいんだよ」のカジュアルなお付き合い、
そしてもしかしたら
「申し訳ございません」の低頭平身な場面まで

私はこれからも、様々な場面で場が和む効果を期待して、そして頼りにして六花亭のお菓子を持参する。今は北海道民ではないからこそ、一朝一夕に得られないその素晴らしい価値に多大なる敬意を表したい。

これからも、私のあらゆるシチュエーションで力を貸してください。

六花亭製菓に、私の故郷への誇りと絶大なる信頼をこめて。


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最近の私の推しは「ひろびろ」と「キャラメル」です




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