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【#一日一題 木曜更新】 乗るたびに思い出す闇のパープルアイ

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。 

 夜の飛行機に乗ると、必ず篠原千絵先生の漫画「闇のパープルアイ」(1984~1986)を思い出す。
 物語の最終回、変身人間の血を持つ主人公麻衣が乗った飛行機が滑走路を走り出す。誘導路の青いライトの間に紫の瞳が光る。瞳の持ち主は麻衣が愛する変身人間の暁生で、黒豹に変身して麻衣が乗る飛行機を追っていたのだ。麻衣は飛行機の中から見えた紫の瞳が、別れた暁生のものだと気が付き、変身人間の特殊な能力をもって飛行機を緊急停止させ暁生と結ばれる。

 中学生の時に読んだ漫画の描写を飛行機に乗るたびに思い出すなんて、篠原先生の筆力たるや。北海道の田舎の中学生の私には、夜の空港なんて想像の世界のものだった。指先タップであらゆる情報が手に入る今とは違い、夜の空港も、誘導路の青いライトも、うす暗い6畳和室で思い描くには漫画のコマの中を頼りにするほかなく、それより何より飛行機が離陸時に緊急停止する事態の深刻さすら一切わかっていなかった。
 
 20歳になった私は、東北地方に暮らす恋人の元へ通うためにたびたび飛行機に乗るようになった。初めての夜のフライトは、滑走路の美しさにうっとりしながら闇のパープルアイ最終回を青く光る誘導路へ投影させた。
 しかし搭乗した機内から眺める青いライト、数はあるものの想像よりうんと遠景で、このライトの間に紫の瞳が光ったとしても、とうてい肉眼では見えそうになかった。飛行機が滑走を始めたので、私は動体視力を最大限に働かせて青いライトを追ってみた。速い。いくら愛する恋人の瞳でもこの暗い中を機内から気が付くのは無理だ。
 そしてこの飛行機の横を黒豹が並走するなんて、考えてみたら相当おそろしい。ここは東北の空港なので、黒豹のかわりに差し詰めヒグマでもあてがおうか。恐怖。
 そういえば恋人の車は黒いプレリュードだ。ヘッドライトを紫にして、それで私を追ってくるのはどうだろうと想像する。空港滑走路を飛行機と並走する中途半端な改造プレリュード。間違いなく逮捕。
 
 もう50歳にもなろうとしているのに、つい先日も夜の空港で麻衣と暁生を思い出した。たぶん一生、死ぬまで私は夜の飛行機に乗るたび「闇のパープルアイ」を思い出す。
 



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