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第19回 映画『正欲』を語る!!〜この映画の本質は「多様性」ではない。”安易”に語られる「多様性」話はもうやめたほうが良い。たとえどんな生き辛くても、どんなマイノリティであろうとも、”同じ世界をTOGETHERでいられる誰か”がいれば、生きてゆける(ネタバレあり)

くに:このブログ続けてきて思ってきたことあるあるなんだけどさ、、、最初はネタバレしないようにしようとして参りましたが、ネタバレしないで語るのがしんどくなってきたよね、、、(笑)

たけ:結局、この映画の一番肝心なところってここじゃん?っていう話になると、オチに触れなきゃいけなくなるもんね、よく考えたらそ当たり前だろい!って話だよね(笑) でもやってみて気づくことってたくさんあるから、気づいたその時々でやり方アップデートしていけば良いんじゃない??スマホのアプリとかもそうじゃん(笑) 今回もネタバレしないと話できないよねー(笑)

くに:おっけ、今回以降からネタバレありでいきます!(笑)

たけ:今回の映画は新垣結衣、磯村勇斗、稲垣吾郎出演の映画『正欲』です!!まずはあらすじ↓

人として歩むべき道を外れた人間を嫌う、正義感の強い検事・寺井啓喜。不登校の息子・泰希に学校へ戻ってほしいと願うも、泰希は教育のあり方に疑問を抱く動画に触発され、自身も動画チャンネルを開設して動画投稿し出す。寝具店の店員・桐生夏月は、「睡眠欲は私を裏切らないから」という理由で今の職に就いている。彼女はある秘密を抱えており、そんな秘密を共有できる同士・佐々木佳道とふとしたきっかけで再会した。学祭実行委員の神戸八重子は、ミスコンのあり方に疑問を抱き、代わりに多様性を重視する「ダイバーシティフェス」を開くよう提案する。男の人から見られることに恐怖心を抱いていた八重子だったが、ミスコン出場者の諸橋大也からだけはそんな気持ちを感じないと気づく。この三つの物語が、令和が始まる日に向けて動き出す。そして一つのある事件が起きる。

くに:今回のタイトル、誤解を恐れずちょっと強気な感じ出してみたんだけど理由があってさ。まず、ネットで色んなレビューとか感想ざっと見て思ったことなんだけど、この映画、「多様性」とか「ダイバーシティ」についての映画なのかなあ?

たけ:なるほど!!今回のタイトル良い!神回になりそう!!そう切り出すってことは、くには違うと思ってるん??

くに:そーなのよね。・

たけ:俺もそう思う。個人的には、映画を進めていく為に必要な要素だと思うんだけど、この映画の本質ではないと俺も思うなあ。「多様性」っていう言葉が少し前からよく耳にするようになったけど、色んな社会問題がこの「多様性」っていう言葉を使って語られるうちに、色んな枝葉がついていってなんかよく意味がわからない言葉になった気がするんですよねえ。俺だけかなあ、、、。実はあんまり「多様性」っていう言葉を使いたくないって思っていて。

くに:ほお、どういう意味?

ほんの一部のマイノリティを置き去りにする「多様性」という言葉の性格

たけ:ちょっと長くなりますが、「多様性」っていう言葉を口に出した瞬間、その後に続ける言葉は多様性を否定しない言葉しか選べなくなる。「多様性」を否定した瞬間、他人からの眼差しが一気に冷め、その後のコミュニケーションが完全に崩壊するじゃない?そりゃ当然で、多様性は尊重していかなきゃいけないと多くの人が思っているから。そしてそれ自体正しい。であるならば、そもそも多様性について考えなければいけないことってなんなんだろうか?という問いから始めなきゃいけなんじゃない?と思う。個人的に思うのは、「多様性」というのは「事実」であって、自分にとって不快であろうと都合が悪かろうと、自分で変えられるものでもなければ、消すことができるものでもない。だから、理解できるできない、受け入れる受け入れないの次元で語ることができない、自分がマジョリティーかマイノリティかということではなく、社会で生きていく上で背負っていかざるをえない環境そのものであるはず。この映画でも出てくる主人公のように、俺らが想像し得ない多様性が存在し、それによって苦しんでいる人がいる。多様性について自分はこういったスタンスをとっていますとひとたび言った瞬間、それがどれだけ多様性についてポジティブな考えだったとしても、本当に一部のマイノリティの人から、「お前に何がわかるんだ?」という弾丸が飛んできそうな気がする。だから、多様性という言葉にぶら下がる全ての言葉が、「届かない言葉」になってしまう気がするんだよね。あくまで個人的な意見だけど。映画の原作者の朝井リョウさんが「多様性という言葉は清々しいほどおめでたさでキラキラした言葉です。これは結局、マイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない言葉であり、話者が想像しうる”自分と違う”にしか当てはまらない言葉です」って言ってるけど、全くその通りだと思う。

くに:「自分の想像できない世界があることを想像する構え」が、時として多様性を語る人に抜け落ちている事がある、ということか、、、、。新垣結衣演じる桐生夏月、磯村勇斗演じる佐々木佳道、東野絢香演じる神戸八重子、佐藤寛太演じる諸橋大也。この人たちには、届かない言葉ってことだよねえ。そして、この4人は自ら多様性について語ることは決してなかったもんね。。

たけ:そう。大也が登場するシークエンス、打ち合わせで八重子と女の子2人が多様性を持ち出して話を進めるシーンあったじゃない?大也が思い切りその内容を否定するよね。彼女たちは多様性のついてポジティブな話してるじゃん、でも大也には全てが”届かない言葉”なんだよね。あの女の子達は何も悪くないんだけど、彼女たちには想像がつかない苦しい世界で生きている人達にしか見えない世界があり、その世界は彼女達2人には見えない、多様性について自ら語り出す人達は、”場合によっては”多様性から一番遠い人達なのかもしれない、ということを象徴するシーンだったね。

くに:観てる人全員に、「お前ら一体どこまで多様な世界を想像した上で多様性の話をしてるんだ?」って問う構え、ということか、、、。なんか、俯瞰してる場所がはるか上な感じするな。

たけ:だから、映画観ていて「多様性うんぬんの話」だけじゃ、映画の一番本質に辿りつくことはないというのは、結構序盤で気づいてくるよね。で、吾郎さんですよ!!稲垣吾郎演じる寺井の存在がこの映画の物語をブーストするのね。寺井は検察官という職業で、上の4人が持つセクシャリティも持っていない、普通というワードあんま使いたくないけど、あいて言えば、いわば「普通」の人の立場です、と。

くに:これと同時に進むもう一本のストーリーラインが、夏月と佐々木が同級生の結婚式で再開することをきっかけにして、いろいろあった末結婚するというものだね。寺井の息子と妻に対する態度によって家庭がどんどん崩壊していく一方で、生きづらさゆえに死にたいと思っていた夏月と佐々木が結ばれ、生きる希望を見出していくという、正反対の性格を持つ2つのストーリーが同時進行していくね。で、ある事件をきっかけに稲垣vs新垣になる、ということだね(笑)

たけ:そうだね。この最後のいわば「ガッキー対決」が、この映画の本質なんじゃないかな。寺井は映画終盤では家庭崩壊して離婚調停中だね。順風満帆ないわゆる普通の人が、自分のとってしまった行動によって堕ちていく。一方、あれだけ生きづらさを感じていた男女が共に結ばれ、どんな事があろうとも一生離れないと誓い合う。ここの時点で多様性どうこうの話じゃなくなっていて、多分この映画が伝えたいであろうメッセージが放たれてると思ったよ。

くに:今回のタイトルにした「同じ世界でTOGETHERでいられる人がいるかどうか」って事だね。もうまさにこのブログでも何回も話してきた内容だよねえ。寺井はそれを失った存在、夏月はそれを手に入れた存在として対照的に描かれるね。

たけ:そうだねえ。ある事件の調査中ということで、夏月と佐々木は面会できないんだけど、夏月が寺井に対して佐々木に伝言するよう頼むその内容が「離れないから」という言葉で、寺井はそれを聞いて言葉を失う、というシーンで映画が終わるね。つまり、「同じ世界でTOGETHERでいられる人がいるかどうか」という事が生きる希望となり、それは多様性どうこうじゃないっていう事だね。

くに:夏月と佐々木は、同じ性的嗜好を持ち合わせておりかつ生きる目的を失った存在だけど、見ている世界が一緒だと思い合える、いわば「分かち合える存在」。でも、寺井は家族であるのにも関わらず、息子と妻と同じ世界でTOGETHERでいられない存在。アラガッキーがイナガッキーに放ったその伝言が、大逆転の会心の一撃にすら見えたけど、そういったカタルシスを感じたかと言われるとそうでもなく、なんとも言えない気持ちが残ったよ。

たけ:その、一点に収まらない気持ちこそ自然な姿なんじゃないかな?同時に、その状態こそが映画のタイトルの「正欲」の正体なのかもしれなくない??夏月と佐々木は社会に絶望し、明日死んでしまいたいと思いながらも、死なずに生きている。佐々木が夏月にプロポーズの言葉として、「この世界で生きていくために、手を組みませんか?」というけど、ここから思うのは、「どんなに絶望していても死にたくないという気持ちも少しある」という事でさ、人間どんな状態にあろうとも、いろんな感情が共存している、そういうものじゃない?っていうことを俺は受け取ったな。その通りだと思う。すごく良いセリフだったなあ。「地球という違う星に留学してるようだ」みたいなセリフあったけど、やっぱり自分がいるべき世界じゃないと感じている中で、夏月となら一緒の世界を生きていけるっていう事だよね。ここでいう「世界」というのは、「場所」ではなく「景色」みたいな意味なんだと思うけど、すごく印象的なセリフだね。だから、寺井は一緒の世界(家庭)にいても見てる世界(景色)が違うって事だよね。「同じ世界でTOGETHERでいられる」ということは、「同じ景色の中にいるかどうか」っていうことだよね。

くに:なるほどね。新垣結衣の演技、すごく良かったよね。新垣結衣っていわゆる国民的スターみたいなイメージで、あんなに綺麗なのに、あの百貨店で同級生と会話してる時の表情ときたらもう、、、。他の役者さんの演技も本当に素晴らしいので、絶対観て欲しいね!今回もありがとう!!

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