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脳髄とはらわたのバドラッド #3-2

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 「お帰りなさい、フェリペ」
 「ただいま、母さん」

 強襲班の仕事は激務だ。今日も都の西区で起きた立てこもり犯を、数日の末に拘束したところだ。
 母はとても嬉しそうに僕に抱擁する。

「あなたの活躍はこの母の耳にも入ってきていますよ。貴方は母の誇りです」

 一族の名前に恥じない保安官になれ。それは、常に母が繰り返してきた教えだ。
 僕の祖父は地元の名士。父は数年間に殉職するまで、保安官として立派に勤め上げた。
 彼らのように、後世に残る男になり、家庭を作り、一族を残し続ける。それが僕の人生の目標だ。

 喧騒。振動。

「母さん、ごめん。塔の方で何かあったみたいだ」
「気をつけて行くのですよ」

 僕は、取るものも取らず、急いで『白の塔』へ引き返した。



 魔法使いを殺すには、やはり最も有効なのは毒だ。
 そう、『白耳』強襲班副班長ベネデットは反芻する。
 奴らは、400〜500mも離れた距離から高速で鉄の弾丸を山のように飛ばしてくる。弓では有効射程に入ることすらできず、互いに射線が通った瞬間に死ぬ。
 しかも、奴らの火器は恐ろしいことに合成繊維やバイオミネラリゼーション、木製などの防具は易々と貫通するし、遮蔽物があっても無意味なことが多い。

 なので、この新兵器である『蜂の巣』の出番だ。
 この蜂たちは品種改良されており、ひと刺しでも充分人間を殺すほどの毒を持つ。
 数センチの飛来物が時速40キロでランダムな動きで飛んでくる。これを打ち落とすのは至難の技だ。それが、数百匹とやってくるのだ。
 魔法使いの火器といえど、対抗策はない。

 更に、我々は全身を甲冑で防御しているため、危険はない。この蜂は、数分で自死する。市民への被害の心配もない。

 魔法使いは、蜂の巣を一瞬見たと思うやいなや、全力で後退を始める。
 なんて勘のいいやつか。
 だが、それを黙って見ている我々ではない。

「編隊、進め!」

 周囲を何重にも重ねた分厚い木材で固め、取り囲む。
 魔法使いの決死の反撃で何人か死傷者は出るかもしれないが、これこそが最も確実にヤツを殺す最善策だ。



 囲まれた。恐らく、何人かを撃ち殺したとしても、包囲の突破は困難だろう。
 巨大な虫が集まってきている。もう一刻の猶予もない。

 魔法使い。掌に、平行世界の火器を無限に呼び出すもの。
 だが魔法使いごとに呼び出せる銃の種類は決まっており、一人につき4〜5種類までである。理由は不明。
 俺の場合、中距離戦のアサルトライフル、接近戦のマシンピストル、速射奇襲用のシングルアクションアーミーと、更にもう二種類。
 そのうちの、もう一つを呼び出す。

 コルトM79。こいつを呼び出すのは久しぶりだ。
 
 俺はイチかバチかの賭けに出る。
 着弾距離は15メートル先。それより長くても短くても、待っているのは死だ。

 発射。着弾。爆発。
 凄まじい轟音と共に、熱風が吹き荒れる。
 俺は、着弾の瞬間に防御姿勢をとり、何とか威力を和らげる。

 途端に周辺は阿鼻叫喚といった様相となる。着弾点から10メートル以内にいたものを爆風と熱で確実に即死させる40mmグレネードを高速で発射する”潰し屋”だ。
 即死半径は5メートルだが、殺傷半径は130メートル以内。当然、その中にいた俺もタダでは済まない。
 額と腕に破片を受け、出血。
 しかし。俺を殺そうと集ってきた蜂や、俺を囲んでいた白耳たちも壊滅することに成功した。

「も、燃える! 町が、燃えて! う、うわあああ!」
「熱い……熱いよぉ……」
「いてぇ……いてぇよぉ……誰かぁ……」

 いくら訓練された精鋭とはいえ、このような大規模な爆発は産まれて初めて見ただろう。彼らも平静ではいられない。

「ベ、ベネデット副班長、ご無事ですか!?」

 先ほどの指揮官が、部下に引きずられて煙の中から這い出してくる。

「自分の周りで爆発を起こしやがったのか……イカれてやがる……! バケモノめ」

 足は千切れる寸前であり、とても戦えるような状態ではない。
 指揮官をまず狙うのが、集団戦のセオリーだろう。俺は、コルトM79を捨てベレッタM93Rを構える。

「ハイヤーッ!」

 壁を蹴り、超人的な身体能力で俺の前へ躍り出て来たのは、甲冑を着ていない若い『白耳』。
 手には、螺旋に巻かれたような形状の奇妙な棒を持っている。

「お前の相手は、この僕だ!」

 新たに現れた白耳はそう宣言すると、ほとんど密着するような距離で奇妙な棒を振るう。
 手首の回転だけで肩を強打し、その反動で脇腹を打とうとする。俺は、その一撃を辛うじてかわす。
 若い白耳は、良質なキメラ手術を全身に受けているようだ。驚くべき身体能力だ。
 よく見ると、足の関節も1つではなく3つに増やしてある。

 奇襲こそ多少驚いたが、密着するほどの接近戦ならばコルトSAAの速射で対応できる。俺は新たに銃を呼び出そうとした、その時である。
 全身の神経がすべて最大限のアラームを鳴らす。ダラララララララッ。とんでもない弾幕。
 全力で射線をきり、転がるように距離を離す。

「どうも。私はバティスタ。お前さんに恨みはないが、死んでもらうぜ」

 髭に白いスーツの紳士。その手にはH&K MP7。2キロ以下の軽量でありながら、一分間に1000発もの弾を出すサブマシンガン。市街地などの強襲で効果を発揮する銃だ。
 彼も───魔法使い。

 バティスタと名乗った男は、銃を持っていない方の手をかざすと、そこからアンカーのようなものが高速で射出される。
 アンカーは周囲の建物の二階に刺さると、恐るべき速度でバティスタを巻き上げ始める。
 バティスタは、そのままMP7を乱射。
 強力なゴムを体内で生成するキメラか。あの速度で移動しながら、銃を乱射されれば相当に厄介だ。

 無様に地面を転がりながらバティスタから射線を逸らせていると、背後から若い白耳の男が棒を袈裟に振り下ろしてくる。
 俺は、それを足の裏で受け止める。動きが止まると危ない。バティスタに向けて威嚇射撃をすると、そのまま路地裏へ逃げ込んだ。

3-3へつづく

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