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脳髄とはらわたのバドラッド #4-3


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「Grrrrrrr!」

 四足歩行のオオカミの背中に更に四本の腕を生やしたような奇怪な合成獣が、5匹続けざまに襲いかかってくる。
 射撃姿勢から1匹目、2匹目、3匹目までを撃ち殺す。1匹につき2秒。これでは、間に合わない。
 人間はどんなに鍛えても時速40キロで走るのが精々だが、犬は時速70キロを超えるものもいる。
 俺は立ち上がり後退りながら4匹目を殺したが、最後の合成獣がその丸太のような腕で引き裂こうとしてくる。
 なんとかそれを横っ跳びでかわし、ベレッタM93Rで応戦。

 ぞくり、と全身から悪寒。受け身をとって着地した先の壁には、巨大な人間の顔のような合成獣。
 その口からは、シアノアクリレート。生物の体内でも生成可能な化合物で、強力な接着剤の原料となる。空気に触れればあっという間に接着してしまう。
 俺はコルトM79を呼び出し、グレネードを発射。爆発。壁ごとそいつを焼き尽くす。

しかし、完全に接着剤を防ぐことは出来なかった。
 指や関節の一部が動かない。
 オオカミ型の合成獣はもはや眼前に迫っていた。
 左腕にベレッタM93Rを呼び出そうとするが、手が開かない。
 俺は噛み付かれ、8本の腕でめちゃくちゃに引き裂かれる。

「っ!」

 思わず声が漏れる。
 皮膚が裂けるのも構わず、無理やり接着剤を引きちぎると、今度こそベレッタを呼びだす。
 三点バーストにセット、オオカミ型の頭部を吹き飛ばす。
 噛まれた肩と引き裂かれた胸から出血。致命傷ではないが、浅くない。

 ズシン、ズシンと重い足音。
 暗闇の先には、象ほどもある巨大な合成獣。ぶよぶよとした表皮からは、常に酸性の液体が生み出されている。
 巨大な合成獣は3匹。それを取り囲むように、オオカミ型が8匹。天井には、人間の腕のような駆動機関と一体化した蝶型の合成獣。

「その大型の合成獣には、動力源として人間を4人組み込んだ。新型だぞ」

 遥か前方の安全圏にいる研究者が口角を飛ばす。
 大型の合成獣に向け、コルトM79のグレネードを発射。爆殺する。
 しかし、リロードする暇はない。オオカミ型が襲いかかってくる。
 それに対して、俺はM4A1カービンを呼び出し、弾幕を張り対応。

 6匹のオオカミ型を撃ち殺し、撃ち漏らした二匹には間合いに入る前にベレッタM93Rを準備。
 口を大きく開き跳びかかるところへ、渾身の蹴り。バランスを崩したところへ三点バーストを放つ。

 だが、オオカミ型に対処している間に、大型はもうあと3メートルほどに迫ってきている。
 右腕のM4A1カービンを撃つ。如何なる生物であろうと、ライフル弾を秒間 発撃ち込まれたら死ぬしかないが、強靭な筋肉と硬い皮膚のせいで完全に殺しきるまで時間がかかる。
 二匹までは殺せたが、残り一匹の突進はもはや間に合わない。

「ぎぃいいいいいいいい!」

 銃弾を山ほど浴びて血みどろになった大型が、呼吸器官から異様な音を上げながら迫り来る。
 周囲の壁には、巨大な人間の顔の合成獣が埋め込まれ、口から様々な毒を放出。
 蝶型の合成獣は抜け目なく鱗粉を周囲にばら撒いている。
 逃げ場はない。

 恐らく3トンは超えるだろう巨大な生物の体当たりに耐えられる人間などいない。俺は吹き飛ばされる。
 だが、それは予想できたこと。俺は、なんとか受け身をとり、振り返りざまにコルトM79のグレネードを発射しようとした。

 その瞬間、全身の細胞が危機を告げる。
 足元では、早回しの映像かのごとく、花畑が猛スピードで育ちはじめていた。

 遺伝子操作によって促進育成された花畑。これが、周囲の酸素を一気に消費する。
 酸素濃度が18%を下回ると、肺から逆に外へ酸素を放出してしまう。ひと呼吸で即死の危険がある、恐るべきトラップ。
 酸素がなければ銃を撃つために火薬を引火させることもできない。
 魔法使いを殺すために、これほど効果的なものはない。

 俺は咄嗟に肺の空気を押しとどめ即死は免れるが、銃を撃てないのであれば合成獣の猛攻を凌ぐ手はない。

 突進してきた合成獣の上に、さらに合成獣が折り重なる。
 俺は、死肉と粘液の山に埋もれ───そのまま意識を失った。


◇4-4へ続く


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