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スピッツ名曲「運命の人」歌詞解説。そして彼らがずっと伝えて来たメッセージ。(『ひみつスタジオ』発表によせて)

今回は、スピッツがその長い活動においてずっと伝え続けて来たメッセージについて、歌詞の面から私なりの見解を述べたいと思います。初めに申し上げておくと、私はスピッツの大ファンを名乗れる程ではありません。スピッツほどのバンド、想像を絶するくらいの熱狂的ファンだらけでしょうし。

とはいえ私は、ベストアルバムと他に複数枚のアルバムを聴いてるくらいのファンではありますし、彼らは歴史に名を刻むバンドだと確信しています。私が将来や人間関係で思い悩んでいた中学2年生の頃、何気なく買ったベストアルバムに入っていた「運命の人」。 なんて美しい歌声とメロディなんだと思いました。でも、歌詞の意味はいくら考えても分かりませんでした。バスの揺れ方で人生の意味がなんで解かるんだろう…?なんで日曜日なんだろう…?偉大な獣って…?いくら考えても意味は分からない。 でもなんか知らないけど勇気は貰える。ずっと自分にとって謎多き存在。それがスピッツでした。

さて、まずは先日発売された『ひみつスタジオ』について語っていきます。当たり前ですが、若い頃よりも演奏はさらに巧くなっていますね。倍音が多く含まれ、 高音域と低音域の発声のバランスが完璧な草野さんのヴォーカルや、どっしりとしたリズム感と一打一打の音色の力強さがある崎山さんのドラム(明らかにメタル出身)など、そんな各々の実力はファンの方々なら既にご存じでしょうから割愛します。が、今作は特に全体のアンサンブルの密度が凄まじいです。

先日「ひるおび」に出演されていた音楽評論家の鹿野淳さんがスピッツの魅力について「大人気のベテランなのに小動物のような親しみやすさがある」(うろ覚えですみません)みたいなことを仰られていたのですが、本当にそうだと思います。彼らのアンサンブルには伊達に32年メンバーチェンジ無しでやってないな…と感じさせる異次元のまとまりの良さがあります。でも、それが決してこじんまりとしているのでなく、あくまでロックバンドとしての力強さとしなやかさがある。凄すぎます。

また、私はスピッツのオリジナル作品は『さざなみCD』以来聴いていないので自信はありませんが、今作はアメリカ音楽(カントリー)的なギターのフレーズが以前よりやや増えたのかなという印象を受けました。とりわけ、アメリカを代表するロックバンドR.E.M.の影響を感じる部分が増えたように見受けられます。草野さんは、インディーズ時代に「R.E.M.が売れたから俺達も売れるだろう」と自らに言い聞かせて音楽活動をしていたらしいです。スピッツが好きで洋楽に興味がある人は是非R.E.M.を聴いてみて欲しいですね。なお、カントリーは"生きていて辛いことはたくさんあるけど、それを受け入れつつも前向きに明るく進んでいく"ような精神性のジャンルで、それはスピッツのスタンスとも通ずるものがあるかと存じます。

今作に収録されている楽曲は、躍動感のあるベースが曲全体をさりげなくそして力強く引っ張る「i-O(修理のうた)」、初期R.E.M.をスピッツ流にした印象を受ける「飛べ」などシングル曲以外も魅力的なものばかりです。特に全体的にベースが印象的な楽曲が多いですね。その中でも私が特に気に入ったのは「めぐりめぐって」です。特に歌詞ですね。「世界中のみんなをがっかりさせるためにずっと頑張ってきた」って要するに、"自分の欲望(モテたいとか大金持ちになりたいとか)を満たす為に頑張ってきた"という事だと思います。でもそんな事を目指しても、誰かに勝ちたいとか、ライバルを蹴落とそうとか、他人を傷つけてしまうだけ。そして、そんなバカな自分でも、本当に大事だと思う"君"の為に歌えば憧れた世界に手が届くんじゃないか…という意味かと。僕達は生まれた時間や場所は違うけど、同じ星に生まれた仲間なんだから。そんな歌だと思います。と、このように説明するとなんか(私の日本語力のせいか)安っぽくなってしまうけど、でもそれをそう聞かせない草野さんの作詞家としての力量はさすがと言わざるを得ないです。今更すぎますが。

今作の総評としては、"衰えを全く感じさせない円熟味のある力作"といった感じですかね。まだ3回ほどしか通しで聴いて無いですが、聴けば聴くほど魅力が出てきそうな作品だという印象を受けました。

さて、ここからが一応の本題です。スピッツの歌詞について。まずは冒頭で話した「運命の人」の歌詞について解説します。中学生の頃は意味不明だった歌詞も、なんとなくこういう事ではないかなと思えるようになってきました。断定口調で書きますが、あくまで私なりの解釈ですのでご了承下さい。

まず、この曲は出だしから相当意味深なフレーズですよね。"バスの揺れ方で人生の意味が分かった日曜日"って。これは、正直文字通りの意味だと思います。バスの揺れ方で人生の意味が分かった人って世の中に本当に居ると思うんですよ。それはバスの中の色んな乗客、あるいはバスの運転手さんにもその人なりの人生があるんだなぁと思うのかもしれません。あるいは、バスの揺れの激しさに腹を立ててしてしまう自分の心の小ささにふと気づくのかもしれません。「あれ?俺…こんなささいな事にイライラして…情けねえな…」って。人生の意味…すなわち自分が生きているうちにやるべき事っていうのはこんな些細なきっかけで分かることがあるんだよ…という意味かと。

そして、"日曜日"なのは、おそらく…そこまで意味は無くて響きで作詞したのでは?と思います。 だって曜日なんて人間が勝手に決めたことですから。月曜日でも火曜日でも同じことなんです。きっと。(これが日曜日であることに深い意味が込められていたら草野さんに土下座します…。)

その次の"ここに居るのは 優しいだけじゃなく偉大な獣" について それは要するに、"ここに居る君の運命の人(本当の自分)がしたいことは、時には自分あるいは社会的に受け入れられない"という意味です。命がけでエベレストを登る登山家、あるいは戦場カメラマンなどが分かりやすい例でしょう。

戦場カメラマンとまでは行かずとも、たとえば東大に軽々入れるくらい成績が良いのに高卒でバイトをしながら歌手としての夢を追う男性…なんかをイメージすると分かりやすいかもしれません。彼は家族や友人から猛反対されたでしょう。でも、彼は止められなかった。 それは自分の心の中の"偉大な獣"が抑えられなかったから。そして、「なんで僕は親に猛反対されてまで歌手なんて目指してるんだろう…?」なんて時には悩みつつも、それでも子どもの頃からずっと歌が大好きだったから、歌いたいという欲求はどうしても抑えられない。だから”運命の人”という"偉大な獣"は優しいだけじゃない…という歌詞なんです。

長くなりすぎるので後は省略しますが、その後の歌詞については比較的分かりやすいかと。要するに、愛(大切なもの)に見えるようなものはコンビニで買える即物的かもしれないけど、本当に大切なものを見つけてくれ。ユートピアっぽい場所に無料で入れるとしても、そんな素通りするんだと。靴を汚しながら必死になって、運命の人(本当の自分)といっしょに自力で神様(本当の幸せ)を見つけよう…っていう歌です。この名曲は。

そもそもこの歌、「君は運命の人だよ。ずっと愛してる。二人で居れば幸せだね」みたいなことは全然歌われていない。すなわち、運命の人を最高のものとして捉えていない。運命の人は最初からもう居る。そしてそこからいっしょに神様を探そうとしている。

つまり、この歌はラブソングという解釈はもちろん出来ます。しかし、本当の自分と共に本当の幸せを見つけようという、多少陳腐な言い方になりますが”自己実現”の歌とも取ることが出来ると思います。

スピッツの歌詞について、私は彼らの全ての歌詞を読んではいませんが、主人公が出会いたがってる"君"を"幼少期の純粋な自分"に置き換えると、腑に落ちる歌詞が多い印象を私は受けました。 要するに彼らが伝えたい事は、「君が子供の頃の純粋な気持ちを思い出すのは、そんなに難しいことじゃないよ」ってことだと思います。もしもそんな自分に出会えたら、空も飛べるはずどころじゃなくて、宇宙の風にも乗れるんだと。彼らはそんな優しく純粋なメッセージを歌い続けているから誰からも愛されているのだと思います。スピッツとは唯一無二の本当に素晴らしい存在です。

"また会えるよ 約束しなくても"


私は近いうちに作詞家として今後活動していく予定です。そして、ミュージシャンになるとそう決意した瞬間、以前よりも真剣に日本の歌の歌詞の意味を考えるようになりました。そして、ふと気づいたんです。「スピッツはこれをずっと伝え続けていたのか…」って。あくまで自分なりの解釈ですけどね。それでは。

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