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サイレント・コネクション 第4章

鑑定結果

瑛介が遺した石の鑑定結果が出た。
貴仁は彩川真琴の研究室に向かった。
研究室の中央にはプロジェクターが設置されており、その映像には回路図のような模様が鮮明に浮き出ていた。らせん状の回路も見える。X線画像のようだ。

貴仁は真琴に尋ねた。「これは一体どういうものなんですか?」

真琴は眉をひそめながら答えた。「正直、私もこんなものは見たことがありません。ただ、放射性炭素年代測定法の結果から言って、この石は1億年以上前のものであることがわかりました。」

貴仁は驚きのあまり言葉を失った。1億年前のものだとすれば、これは地球上に存在するはずのない技術だ。彼はさらに真琴に質問した。「これが何を意味しているんですか?」

真琴は深くため息をついた。「これだけでは何とも言えませんが、少なくともこの石は地球上のどの文明とも関係がない、非常に古い技術を示していると考えられます。もしかすると、地球外の技術かもしれません。」

貴仁はその可能性を考え、戦慄が走った。
もし瑛介が地球外の技術に関わっていたのだとしたら、それは彼が死ぬ理由になるのだろうか?
そして、その技術が何かしらの危険をはらんでいたとしたら、彼らも巻き込まれるのではないか?

貴仁は電子研究部の部室に戻ると、啓太、純礼に石のことを報告した。
1億年以上前のもの、回路図のような模様、地球外の技術かもしれないという彩川の言葉。
貴仁は1つの結論に至っていた。結論はRFIDではないかというものだった。

貴仁:「この石の表面に刻まれたらせん状の模様は、RFIDのアンテナに相当すると思われるんだ。」

啓太:「確かに、この模様は電磁波を受信してデータのやりとりをする機能を持っている可能性が高いね。」

純礼:「でも、1億年以上前のものだというのはどう説明するの?地球外の技術だとすれば、なぜこんな古い物が今ここにあるの?」

答えは見つからない。

貴仁、啓太、純礼の3人は瑛介が遺した石がRFIDだとした場合、古代人、もしくは地球外の誰かが何のためにこれを残したのかについて、様々な仮説を立てた。

貴仁は、「もしかしたら、これは何らかの情報伝達手段だったのではないか?」と考えた。彼は、昔の人々や地球外の存在が、この石のRFID技術を使って情報を共有し、遠く離れた場所や時代を超えてコミュニケーションを図っていた可能性があると主張する。
例えば、彼らはこの石に特定の情報や知識を記録し、それを別の場所や時代に持っていくことで、情報の伝達や共有が可能になっていたのかもしれない。
石のRFIDが古代文明や地球外の存在による非常に先進的な通信技術のかもしれない。現代の人々にとっては理解しがたいが、過去の文明や地球外の存在が持っていた技術や知識は、現代人が想像する以上に進んでいたのかもしれないと貴仁は考えた。

啓太は別の見方を提案した。彼は、石の中に刻まれた回路図のような模様が、エネルギーを伝達し、蓄えるための仕組みを持っている可能性があると考えた。古代の文明や地球外の存在が、この石を利用してエネルギーを効率よく伝達し、蓄積することで、彼らの社会や技術の発展を支えていたのかもしれない。
石のRFID技術が古代文明や地球外の存在による高度なエネルギー技術であったことになります。現代の人々が石油や太陽光エネルギーを利用しているように、過去の文明や地球外の存在が独自のエネルギー技術を持っていた可能性があると啓太は考えた。

一方、純礼は、「もしかしたら、これは古代人や地球外の存在による何らかのメッセージだったのでは?」と考えた。彼女は、石の中に刻まれた回路図のような模様が、情報を記録し、伝達するための仕組みを持っている可能性があると考えた。古代の文明や地球外の存在が、この石を利用して重要な知識や情報を保存し、他の個体や地域と共有することで、彼らの社会や技術の発展を支えていたのかもしれない。
また、この仮説では、石のRFID技術が古代文明や地球外の存在による高度な情報伝達技術であったことになる。現代の人々がインターネットやデータストレージを利用しているように、過去の文明や地球外の存在が独自の情報伝達技術を持っていた可能性があると純礼は考えた。

周波数解析装置

純礼: 「この石と通信を行うことはできないの?」

啓太: 「通信する方法があれば、石に秘められた情報にアクセスできるかもしれないね。」

貴仁: 「その通信方法を見つけることができれば、メッセージの意味も理解できるはずだ。」

純礼: 「そうね、この石には何らかの方法でアクセスできるはず。」

貴仁: 「この石に幅広い周波数の電波を当てるのはどうだろう。RFIDとすれば、電波を当てれば反応があるはずだ。」

啓太: 「それはいいアイデアだね。試しに電波を当ててみよう。」

純礼は腑に落ちない表情をしている。電源もないのに。ただ電波を当てるだけで何ができるのか。

貴仁: 「まず、パッシブ型RFIDについて説明しよう。」

啓太: 「そうだね、パッシブ型RFIDは、電源やエネルギー源がなくてもデータを取り出すことができるんだ。」

純礼: 「どうやって?」

貴仁: 「パッシブ型RFIDタグは、外部から電波を受け取ることでエネルギーを得る。読み取り装置が電波を発し、タグがその電波をアンテナで受信するんだ。」
啓太: 「その受信した電波エネルギーを使って、タグ内の情報を読み取り装置に送信する。」

純礼: 「なるほど、だから電源がなくても情報が取り出せるのね。」

貴仁: 「そうだ。今回の場合、この石がRFID技術を使っているとすれば、適切な周波数の電波を当てることで、石からデータを取り出すことができるはずだ。」

貴仁は実家に戻り、瑛介が遺した研究設備を使って石に様々な周波数の電波を当てる装置を組み上げることにした。彼は瑛介の遺品の中から、資料を見つけた。過去に瑛介も同じことを試していたようだ。

貴仁: 「ほんとうに父さんはすごいな。」

啓太: 「やっぱり瑛介さんは何か特別なことに気づいていたんだろうね。」

貴仁は瑛介のノートを参考にしながら、石に電波を当てる装置を完成させる。完成した装置は、石を固定し、様々な角度から電波を当てられるように設計されていた。

装置の構成は次のようなものだ。

高周波発振器:装置の中心となる部分で、様々な周波数の電波を生成するために使用する。発振器は、周波数の範囲や出力レベルを調整できるように設計されており、数十MHzから数GHzの幅広い周波数範囲に対応しています。この高周波発振器によって、石に対して様々な周波数の電波を照射できるようになっている。

送信アンテナ:発振器から生成された電波を石に向けて送信する役割を果たす。装置には、異なる周波数帯域に対応するために、複数の送信アンテナが設置されている。それぞれのアンテナは、石に対して効率的に電波を伝播させるように設計されており、石の表面に対して最適な角度で電波を照射できるようになっている。

受信アンテナ:石から反射された電波を受信するために使用される。受信アンテナは、石が特定の周波数に反応しているかどうかを捉えるための重要な部分であり、その情報を電文解析装置へ伝送する。

電文解析装置:受信アンテナから送られてきた電波を解析し、その周波数成分や信号強度を測定するために使用されます。この装置によって、受け取った電波が特定のパターンを持っているかを解析する。

回転式台座:石を固定し、様々な角度から電波を当てることができるように設計されている。台座は、水平および垂直方向に360度回転することができ、石の全方向から電波を照射することが可能だ。これにより、石の表面に存在する回路図のような模様に対して、最適な照射角度を見つけることができる。

制御ユニット:装置全体を操作・管理するためのインターフェース。制御ユニットには、高周波発振器、送信アンテナ、受信アンテナ、電文解析装置の設定を調整できるように、様々な操作ボタンやディスプレイが設置されている。また、電文解析装置から得られたデータを解析・表示する機能も備えており、石が反応した周波数や信号強度をリアルタイムで確認することができる。

このように、石に様々な周波数の電波を当てる装置は、送信アンテナから電波を照射し、受信アンテナで反射された電波を捉え、電文解析装置でその情報を解析するという一連のプロセスを経て、石の内部情報や性質に関する手がかりを得ることを目的としている。

貴仁が部室で自ら組み上げた装置を見て、啓太と純礼は驚いた。貴仁は瑛介の研究設備を参考にし、さらに改良を加えて装置を作り上げたのだ。

貴仁は装置の説明を始める。「これで、石に様々な周波数の電波を当てることができるんだ。そして、受信アンテナで反射された電波を捉え、電文解析装置でその情報を解析する。そうすれば、石が反応する周波数や信号強度をリアルタイムで確認できるはずだ。」

純礼は興味津々で聞いていた。「それで、どのくらい時間がかかるんですか?」

貴仁は少し考え込んだ後で答える。「実際に解析が始まれば、最低でも数週間はかかるだろうね。ただ、それが最短でも、石がどの周波数に反応するかわからないから、もしかしたらもっと時間がかかるかもしれない。」

啓太はうなずいて、「それでも、この装置が完成すれば、あとは解析するだけだね。よくやったよ、貴仁!」と励ました。

貴仁は笑って、「ありがとう、啓太。でも、これがうまくいくかどうかはまだわからないからね。これからが本番だよ。」と返した。

3人は石の謎を解明するために、装置の解析作業に取りかかる。

二人の刑事

高橋直哉と野口慎一は警察の刑事である。高橋は若手で意欲に満ち、野口はベテランで冷静沈着だった。年齢差はあるものの、これまで数々の難事件を解決してきた。
二人は陽子の家で起こった盗難事件を捜査していたが、なかなか手がかりがつかめなかった。

野口が不満げに言う。「T-RFIDのシステムが開発されてから、盗難事件はほとんどなくなったはずだ。なのに、今回の事件は何も見つからない。不自然だよな。」

高橋も同感で、「本当にそうですね。誰もがどこにいるかわかるのに、どうして犯人の所在がわからないんでしょうか。」

野口は腕組みをしながら考え込んだ。「そうだな。もしかすると、犯人はT-RFIDタグを持っていない人物かもしれない。そういう人たちも、まだいるらしいんだ。」

高橋は目を輝かせて言った。「それなら、犯人がそのような人物である可能性が高いですね。彼らのコミュニティがあるという噂も聞いたことがありますが……。」

野口はうなずいて、「そういった人を雇って犯行を行わせたかもしれない」

高橋は考え込んで、「それは分かりませんが、捜査を進めてみれば何か見つかるかもしれません。」

野口は高橋の意気込みを評価し、「そうだな。じゃあ、一度、情報収集から始めてみよう。」

高橋と野口は、データが残っていないこと自体が不自然だと感じ、サイバー犯罪対策課に問い合わせることにした。彼らは、T-RFIDの管理システムに侵入し、痕跡を消した可能性を考えたが、さらにT-RFIDの管理組織や開発会社自体に窃盗の共犯者がいる可能性も考慮することにした。

高橋が電話でサイバー犯罪対策課に問い合わせると、課長の山本から返答があった。「T-RFIDの管理システムに侵入した形跡は確認できない。もしそうだとしたら、かなりの技術力があるハッカーだろう。」とのことだった。

野口は高橋に尋ねた。「それじゃあ、侵入の可能性は低いのか?」

「確認できる形跡はないそうですが、技術力があれば可能性は否定できないとのことです。それよりも、T-RFIDの管理組織や開発会社に共犯者がいる可能性も考慮しなければなりません。」

野口は深く考え込む。「それなら、捜査対象がまた広がるな。管理組織や開発会社の従業員にも目を光らせないといけない。」

高橋と野口は、綿密な捜査の結果、窃盗の被害者である陽子の夫瑛介が、T-RFIDの開発を担当していたことを突き止めた。瑛介が関与していたT-RFIDのプロジェクトは、高田重工業が開発していたことから、2人はますます関心を持つようになった。

高橋:「野口さん、これはただの偶然じゃないと思いませんか?」

野口:「うん、瑛介さんがT-RFIDの開発に関わっていたなんて…。何か関連性があるのかもしれないな。」

高橋:「そうですよね。じゃあ、もしかしたら瑛介さんの息子である貴仁さんも何か知っているかもしれません。」

野口:「そうだな。貴仁さんに話を聞く価値はあると思う。」

高橋と野口は、この奇妙な符合を解明するため、貴仁に事情聴取を行うことに決めた。

高橋と野口は電子研究部の部室で貴仁に事情聴取を行った。窃盗の状況や、T-RFIDの開発について知っていることを尋ねた。

高橋:「貴仁さん、この窃盗事件について何か心当たりはありますか?」

貴仁:「いえ、特に何も…。ただ、父がT-RFIDの開発に関わっていたことは知っています。」

野口:「そうですか。それについて詳しく教えてもらえますか?」

貴仁は瑛介がT-RFIDの開発に携わっていたことについて話し始めたが、その時、高橋の目に解析中の石が映り込んだ。

高橋:「あの石、何ですか?」

貴仁:「ああ、これは父が遺した石なんです。何か特別なものだと思って調べているんですが…」

野口:「ほんとうに特別なものなんですか?」

貴仁:「うーん、まだはっきりとはわからないんですが、何か意味があると思っています。」

高橋と野口は、石にも興味を持ち始めた。この石が事件と関連があるかもしれないという可能性を考え、2人は貴仁に石の詳細や調査状況についても聞くことにした。

高橋と野口は貴仁への事情聴取の結果について話し合った。

高橋:「石のこと、正直言ってちょっと信じがたいですよね。」

野口:「確かに、最初はそう思いました。でも、石とT-RFIDの開発、瑛介さんの関係性は無視できません。ただ、1億年前の石に聞くより、さしあたっては瑛介さんがT-RFIDの開発に関わっていたことが気になります。貴仁くんの近況をもう少し詳しく調べてみる必要がありそうだ。」

高橋:「じゃあ、貴仁くんのこれまでとこれからの行動に注目していく必要があるってことですね。」

高橋と野口は貴仁の行動を調べるため、彼の行動履歴をチェックし始めた。その過程で、貴仁が播本ありさと出会い、スラム街へ行って播本潤を助けたことを突き止めることができた。

野口:「貴仁くんが初対面の人の治療費を自ら支払っていたんだね。何か意図があるのかな?」

高橋:「確かに、普通ではないですよね。もしかしたら何か背後にある理由があるのかもしれません。」

スラム街の人たちから話を聞く中で、貴仁が一緒にスラム街に行った椎名純礼との関係にも興味を持ち始める。

野口:「ねえ、高橋くん。貴仁くんと椎名純礼って、どんな関係なんだろうね?」

高橋:「確かに気になります。同じ研究部に所属しているだけでなく、何か特別な関係があるような気もしますね。」

野口:「恋人同士というわけではない?」

高橋:「電子研究部の部員から聞いた話だと、付き合ってはいないそうです。それでも不思議じゃない程度の関係ではあるようです。」

野口:「そこにも何か特殊な事情がありそうだ。」

高橋と野口は、椎名純礼について詳しく調べる。その結果彼女の過去に行き当たる。

高橋:「野口さん、純礼さんの父親、椎名幸雄さんのことを調べたんですけど、なんと彼も高田重工業で働いていて、T-RFIDの開発にも関わっていたんです。」

野口:「それは興味深い。何か関係があるのかもしれませんね。」

高橋:「そうですね。幸雄さんは4年前に亡くなっているんですけど、彼がどのような仕事をしていたのか詳細は不明です。でも、瑛介と同じプロジェクトに関わっていたというのは大きな共通点ですね。」

野口:「それにしても、高田重工業と瑛介、そして純礼の父親との関係…。何か背後に隠された真相があるのではないでしょうか。」

高橋:「うん、そうですね。これだけの偶然が重なると、もう偶然とは言えないですよね。もっと深く調べる必要があるでしょう。」

高橋と野口は、椎名純礼の父親が高田重工業で働いていたことや、彼がT-RFIDの開発に関わっていたことを知り、彼らの繋がりについて疑問を持ち始める。さらなる真相を突き止めるために、2人は引き続き調査を行うことにした。

野口:「高橋くん、椎名幸雄さんの死因については何か分かった?」

高橋:「ええ、調べたところによると、幸雄さんは4年前に業務中の事故で亡くなっています。詳細は明らかではありませんが、開発に関連した機器のトラブルが原因だったと言われています。」

野口:「なるほど。それにしても、彼が関わっていたT-RFIDの開発と、今回の事件の関連性は気になりますね。」

高橋:「確かに、そこまでの偶然はないでしょう。彼が亡くなった原因ももしかしたら、何か関係があるのかもしれません。」

野口:「椎名幸雄さんと音道瑛介さん、どちらも高田重工業で働いていたんだ。彼らについて何か評価や人柄の情報があるかな?」

高橋:「調べたところ、どちらも開発チームの中心人物だったようです。幸雄さんはチームリーダーで、冷静な判断力と優れた技術力を持っていたそうですね。一方、瑛介さんは独創的なアイデアでチームを牽引していたと言われています。」

野口:「二人とも評判が良いみたいだね。」

高橋:「そうですね。ただ、幸雄さんはある時を境にプロジェクトから離れ、後に事故で亡くなりました。その一方で、瑛介さんはプロジェクトを引き継ぎ、T-RFIDの開発を成功させたと言われています。」

野口:「なるほど。そう考えると、彼らの人間関係に何らかの問題があった可能性もあるかもしれないね。」

高橋:「確かにそうですね。彼らの関係性についても、もう少し調べてみましょう。」

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