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「富裕と貧困 備忘録」3

「ようやくアルバイトが決まったよ」
「おめでとう。バイト先は?」
「電車で2時間と遠いけれど、時給はそこそこの額で、君に借りた1万円も来月には返せるよ」
「電車で2時間というと電車賃は往復で1600円くらいだね? 20日働くとして3万2000円だけど、君、そのお金持ってるの?」
「あ、持ってない。どうしよう?」
「僕に1万円借りるくらいだからね。それに毎日の昼食代はどうするの?1食500円として20日で1万円だ。交通費と合わせて4万2000円だ。大金だぜ」
「ないよ、どうしよう?」
「このバイトはやめた方がいいよ。働くなら地元で交通費がかからないところにしなよ。そうすりゃ昼食代の1万円だけで済む。その1万円なら貸せるよ…」
「働くにもお金がかかるってことだね」
「貧乏人にとって生きにくい世の中なのさ。働かずに食えている運の良い奴も多いのにね。働かなければ食えない貧乏人は辛いよ」
「うん」
「働くだけじゃないよ。突然の親族の死に対応するには香典も出さなくちゃならないし、葬式に行くにも交通費がかかる。知人が結婚すればお祝いを出さなきゃならない。病気になれば医療費だってかかるんだ。そんな金、誰も貸してくれないよ。自己責任を謳うこのバカな世界で生きるのは大変だよ。正常な人間ならば、常に就職や葬式にそれらに対応できるような金額を貯金しておかなくちゃならないのさ」

「うん、わかったよ。地元でアルバイトを探してみるよ。アルバイトが決まったら昼食代1万円貸してね」

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