映画「鈴木家の嘘」
WOWOWで新鋭監督の作品特集をしています。良い作品ばかりです。今夜は野尻克己監督の「鈴木家の嘘」です。出演者は岸部一徳、大森南朋、原日出子、加瀬亮、木竜麻生、岸本加世子(敬称略)です。
鈴木家の長男(加瀬亮)は引きこもりでしたが、ある日、突然首を括って自殺します。そこに母親(原日出子)が帰ってきて食事の支度をします。長男の部屋は2階にあります。それからしばらくして母親が長男の部屋に入って長男の骸を発見し、階下へ降りて包丁を持って戻ります。またしばらくして長女(木竜麻生)が帰ってきます。長女は包丁で手首を切って倒れている母親を発見します。一見、母親が長男の後追い自殺をしたかのように思いますが、実は映画の後半で、縊死している長男のロープを必死で切ろうとして誤って自分の手首を切ってしまったということがわかります。
母親はしばらく入院しますが、部分的に記憶を喪ってしまいます。長男が自殺したことを記憶から消し去っていたのですね。目を覚ました母親は「長男はどうしたの?」と言います。長女は思わず「アルゼンチンに渡って伯父さんの仕事を手伝っている」と嘘をつきます。
それから母親に長男が死んだことを悟られないように気をつかって生活しますが、物語が進むうちに、それぞれの長男に対する事情がわかってきます。上手な作りですね。暗い話ですが、悲壮感に満ちることなく、コメディっぽくありながらじんわりと泣かせるんです。こういうの大好きです。
実は僕も大学を辞めて何もすることなく神奈川県大和市の実家で1年ほど引きこもっていた過去があるのです。両親と妹を相手に家庭内暴力のようなこともやってしまいました。酷い息子でした。酷い兄でした。何てバカなことをしたんだと悔やむばかりですが、時間を戻すことは出来ないのです。その両親も既にお墓の中です。横浜にある墓には年に1度くらいしか墓参りもしていません。いまだに酷い息子のままです。たったひとりの身内である妹は、いまだに独り身で、60歳を過ぎても成長しないバカな兄を心配しているのです。いまだに酷い兄のままです。
ですからこういう映画やドラマを観ると、自分のことのように思えて、やるせないのです。
しかし、映画の鈴木家の長男は、僕と違って、おとなしくて優しい息子のようです。真剣に生きる目標を失って、結局自分の心も失ってしまったように見えます。
役者さんは全員素晴らしいです。特に木竜麻生(少し奥山佳恵に似ています)が良いです。彼女は「まほろ駅前狂騒曲」(大森立嗣監督、大森南朋のお兄さんです。ちなみにふたりは麿赤兒の子息)「菊とギロチン」(瀬々敬久監督)「東京喰種トーキョーグール」(萩原健太郎監督)などに出演している、演技の上手な若い女優さんです。
あ、今回の特集の中では最も素晴らしい作品だと思います。
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